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『待って、待ってくれ! 行かないでくれ!』
男の悲痛な声が聞こえる。
でもそれは俺、アリオ・ブルームに対しての懇願ではない。
声の方角に視線を向けると立派な白い教会が見えた。小さな城のようだ。
百段はありそうな階段を登った先にあるその入り口に三人の男女が立っている。大分離れた距離の筈なのに表情まではっきりと見えた。
一番目立つのは豪華なウエディングドレスに身を包んだ美女。いやまだ少女かもしれない。
彼女はディエだ。見間違うことは無い。
そんな彼女縋るようにしているのは同じぐらい豪華なタキシードに身を包んだ豚、いや青年。
先程の懇願するような叫びは恐らく新郎の彼から発せられたものだ。
それが誰かもわかっている。イオン・ゴールディング。ディエの婚約者の公爵令息。
彼が必死に引き留めて離さないようにしているのはウエディングドレスの花嫁。
しかし彼女の真っ白な手袋に包まれた手が差し出されたのは新郎にではない。
『ごめんなさい、でも気持ちに嘘は吐けないの……!』
だとしても結婚式真っ最中のこの場で言う事ではないだろう。
せめてもっと前に表明すべき意志だ。俺は思う。
言葉では謝りながらもディエはイオンを突き飛ばし、その白い指先は新郎以外の男へ迷いなく伸びる。
冒険者風の黒髪の男は彼女の手を掴むと軽々とその体を抱きかかえた。恐らく「恋と騎士と冒険と」のゲーム内の主人公だ。
俺はまだ現実で会ったことは無いけれど。
『悪いな、こいつは俺が幸せにする』
そう言って主人公は花嫁ディエをイオンから略奪し長い階段を風のように駆け下りる。
腕利きの傭兵設定だけあって体が鍛えられているのだろう。
人一人抱えてるとは思えない軽やかさで逃げていく。傭兵というよりまるで怪盗だ。
俺はその瞬間、胸がぎゅっと掴まれたようになった。
だって俺はこの後どうなるかを知っている。だから目を逸らした。
『ふっ、ふざけるな! 待てっ、うわぁぁぁぁ!』
怒鳴り声が途中から凄まじい悲鳴に変わる。そして何かが潰れたような鈍い音。
見なくてもわかっている。後を追おうとした新郎貴族が足を滑らせて転落死したのだ。
そして彼の断末魔を最後に夢は終わる。
そう、夢だ。
これは俺が定期的に見る悪夢。
俺は何もできずただ見ているだけ。
でも、どうして又見るのだろう。最近はもう見なかったのに。
何よりイオンはもう白豚令息では無いのに。
「おい、運命は変わったんじゃないのか?!」
思わずそう叫ぶ。夢の中だと知っているのに目をきつく瞑った。
もし転落死した体が、痩せた後のイオンに変わっていたらと怖くなったのだ。
或いは前世の俺になっていたなら。
そう考えた途端、恐怖に気が遠くなり俺は汗だくで目を覚ました。
今いる場所が現実だと認識しても、暫く心臓がバクバクと騒がしかった。
男の悲痛な声が聞こえる。
でもそれは俺、アリオ・ブルームに対しての懇願ではない。
声の方角に視線を向けると立派な白い教会が見えた。小さな城のようだ。
百段はありそうな階段を登った先にあるその入り口に三人の男女が立っている。大分離れた距離の筈なのに表情まではっきりと見えた。
一番目立つのは豪華なウエディングドレスに身を包んだ美女。いやまだ少女かもしれない。
彼女はディエだ。見間違うことは無い。
そんな彼女縋るようにしているのは同じぐらい豪華なタキシードに身を包んだ豚、いや青年。
先程の懇願するような叫びは恐らく新郎の彼から発せられたものだ。
それが誰かもわかっている。イオン・ゴールディング。ディエの婚約者の公爵令息。
彼が必死に引き留めて離さないようにしているのはウエディングドレスの花嫁。
しかし彼女の真っ白な手袋に包まれた手が差し出されたのは新郎にではない。
『ごめんなさい、でも気持ちに嘘は吐けないの……!』
だとしても結婚式真っ最中のこの場で言う事ではないだろう。
せめてもっと前に表明すべき意志だ。俺は思う。
言葉では謝りながらもディエはイオンを突き飛ばし、その白い指先は新郎以外の男へ迷いなく伸びる。
冒険者風の黒髪の男は彼女の手を掴むと軽々とその体を抱きかかえた。恐らく「恋と騎士と冒険と」のゲーム内の主人公だ。
俺はまだ現実で会ったことは無いけれど。
『悪いな、こいつは俺が幸せにする』
そう言って主人公は花嫁ディエをイオンから略奪し長い階段を風のように駆け下りる。
腕利きの傭兵設定だけあって体が鍛えられているのだろう。
人一人抱えてるとは思えない軽やかさで逃げていく。傭兵というよりまるで怪盗だ。
俺はその瞬間、胸がぎゅっと掴まれたようになった。
だって俺はこの後どうなるかを知っている。だから目を逸らした。
『ふっ、ふざけるな! 待てっ、うわぁぁぁぁ!』
怒鳴り声が途中から凄まじい悲鳴に変わる。そして何かが潰れたような鈍い音。
見なくてもわかっている。後を追おうとした新郎貴族が足を滑らせて転落死したのだ。
そして彼の断末魔を最後に夢は終わる。
そう、夢だ。
これは俺が定期的に見る悪夢。
俺は何もできずただ見ているだけ。
でも、どうして又見るのだろう。最近はもう見なかったのに。
何よりイオンはもう白豚令息では無いのに。
「おい、運命は変わったんじゃないのか?!」
思わずそう叫ぶ。夢の中だと知っているのに目をきつく瞑った。
もし転落死した体が、痩せた後のイオンに変わっていたらと怖くなったのだ。
或いは前世の俺になっていたなら。
そう考えた途端、恐怖に気が遠くなり俺は汗だくで目を覚ました。
今いる場所が現実だと認識しても、暫く心臓がバクバクと騒がしかった。
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