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「……俺に、何が出来るっていうんですか」
考えた末に出たのはまるで自暴自棄みたいな台詞だった。
でもそうとしか言えない。
だってイオンはすっかり臍を曲げてもう俺の家のケーキは食べないと言い出したのだ。
「もしうちの店がゴールディング公爵家の注文を受けるようになっても、公爵令息は食べたくないと仰ってるわけですよね」
実はイオンが床に落としたケーキを自分で食べたと聞いたことで俺自身の憤りは相当減っている。
だからどうしても彼に父のケーキが必要で、それがあれば太らなくなるというなら取り成しても良いとさえ思っていた。
彼がゲーム内の白豚貴族の姿から脱却してくれれば俺の精神も安定するだろう。
イオンが転落死する夢を見無くなれば俺も前世の死に方をいつまでも突きつけられなくて済む。
「そう、ですね。私どもが対応を見誤りました」
老執事が目を伏せて言う。年寄りを虐めているみたいで罪悪感が疼く。
「そのまま太り続けると体を壊すと説明したらどうでしょうか」
助け船を出すつもりでアドバイスする。
しかしそれは老執事からはあまり理解を得られないようだ。
「ですがイオン様は今までずっと体が重い以外は体調に問題は無かったのです」
「でも今は大量にケーキを食べて具合が悪くなって胃薬を飲んでるんですよね?」
「そうですが……平気だと仰るばかりで」
平気じゃないから胃薬飲んでるんだろと首根っこ掴んで説教できる立場の人間はいないのか。
イオンの暴走癖って誰も彼を叱らず本気で止めないせいもあると思う。
叱らなくてもうまくイオンを煽ててその気にさせて掌で転がせば良いのだ。
現状それが得意な彼の身内はディエぐらいだが、どちらかというと煽てて崖から突き落とすタイプだろう。
「彼が平気じゃないと実感した時には、手遅れかもしれませんよ」
この世界に存在するか不明な成人病の数々を頭に浮かべ俺は言った。
下手したら転落死が一番楽な死に方になるのかもしれない。
「ゴールディング公爵家はこのままでいいんですか?」
それは前世の頃からずっと思ってる。当主が戦死して唯一の子供のイオンがディエしか頭にない白豚貴族で最後は捨てられ転落死とか。
あの後の公爵家って本当にどうなったんだろう。イオンの母親など夫に先立たれた上に息子は嫁に逃げられた挙句階段から落ちて死ぬのだ。
そう、イオンを叱れるとするなら母親である公爵夫人だろう。
老執事は俺に対して物言いたげにするより勇気を出して彼女に談判すべきだ。本当にイオンが大切ならだけれど。
勇気を出して頑張って欲しい。俺だってイオンにディエを口説いたと激怒されたけれど無事お咎め無しで屋敷から出られたのだから。
しかし俺の無言の激励は老執事には伝わらないようだった。
「……図々しい頼みですが、一度イオン坊ちゃまと話をして頂けないでしょうか」
「何で俺が」
「坊ちゃまの心を動かせるのは、ディエ嬢以外では貴方しかいないように思うのです」
「だから何で俺が」
何でそこまでこの老執事は俺なんかに期待しているのだ。イオンと会話した回数なんて二回ぐらいだぞ。
しかもどっちも険悪な雰囲気になったのに。流石に俺を頼るのはおかしくないか。
「おい、アリオを巻き込むなよ!自分たちで解決しろよ!」
ポプラが怒鳴る声を遠くに聞こえる。
視界が急にぐらぐらする。
そう言えば俺、この執事に顔色悪いとか言われてたな。
心配して声をかけて来たようだけど、その割に具合悪くなるような話ばっかし過ぎじゃないか。
俺は背もたれに体を預けて、眠るように気絶した。
前世で三徹して玄関で倒れ込んだ時と同じ感覚だった。
考えた末に出たのはまるで自暴自棄みたいな台詞だった。
でもそうとしか言えない。
だってイオンはすっかり臍を曲げてもう俺の家のケーキは食べないと言い出したのだ。
「もしうちの店がゴールディング公爵家の注文を受けるようになっても、公爵令息は食べたくないと仰ってるわけですよね」
実はイオンが床に落としたケーキを自分で食べたと聞いたことで俺自身の憤りは相当減っている。
だからどうしても彼に父のケーキが必要で、それがあれば太らなくなるというなら取り成しても良いとさえ思っていた。
彼がゲーム内の白豚貴族の姿から脱却してくれれば俺の精神も安定するだろう。
イオンが転落死する夢を見無くなれば俺も前世の死に方をいつまでも突きつけられなくて済む。
「そう、ですね。私どもが対応を見誤りました」
老執事が目を伏せて言う。年寄りを虐めているみたいで罪悪感が疼く。
「そのまま太り続けると体を壊すと説明したらどうでしょうか」
助け船を出すつもりでアドバイスする。
しかしそれは老執事からはあまり理解を得られないようだ。
「ですがイオン様は今までずっと体が重い以外は体調に問題は無かったのです」
「でも今は大量にケーキを食べて具合が悪くなって胃薬を飲んでるんですよね?」
「そうですが……平気だと仰るばかりで」
平気じゃないから胃薬飲んでるんだろと首根っこ掴んで説教できる立場の人間はいないのか。
イオンの暴走癖って誰も彼を叱らず本気で止めないせいもあると思う。
叱らなくてもうまくイオンを煽ててその気にさせて掌で転がせば良いのだ。
現状それが得意な彼の身内はディエぐらいだが、どちらかというと煽てて崖から突き落とすタイプだろう。
「彼が平気じゃないと実感した時には、手遅れかもしれませんよ」
この世界に存在するか不明な成人病の数々を頭に浮かべ俺は言った。
下手したら転落死が一番楽な死に方になるのかもしれない。
「ゴールディング公爵家はこのままでいいんですか?」
それは前世の頃からずっと思ってる。当主が戦死して唯一の子供のイオンがディエしか頭にない白豚貴族で最後は捨てられ転落死とか。
あの後の公爵家って本当にどうなったんだろう。イオンの母親など夫に先立たれた上に息子は嫁に逃げられた挙句階段から落ちて死ぬのだ。
そう、イオンを叱れるとするなら母親である公爵夫人だろう。
老執事は俺に対して物言いたげにするより勇気を出して彼女に談判すべきだ。本当にイオンが大切ならだけれど。
勇気を出して頑張って欲しい。俺だってイオンにディエを口説いたと激怒されたけれど無事お咎め無しで屋敷から出られたのだから。
しかし俺の無言の激励は老執事には伝わらないようだった。
「……図々しい頼みですが、一度イオン坊ちゃまと話をして頂けないでしょうか」
「何で俺が」
「坊ちゃまの心を動かせるのは、ディエ嬢以外では貴方しかいないように思うのです」
「だから何で俺が」
何でそこまでこの老執事は俺なんかに期待しているのだ。イオンと会話した回数なんて二回ぐらいだぞ。
しかもどっちも険悪な雰囲気になったのに。流石に俺を頼るのはおかしくないか。
「おい、アリオを巻き込むなよ!自分たちで解決しろよ!」
ポプラが怒鳴る声を遠くに聞こえる。
視界が急にぐらぐらする。
そう言えば俺、この執事に顔色悪いとか言われてたな。
心配して声をかけて来たようだけど、その割に具合悪くなるような話ばっかし過ぎじゃないか。
俺は背もたれに体を預けて、眠るように気絶した。
前世で三徹して玄関で倒れ込んだ時と同じ感覚だった。
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