女運の悪い悪役令息が不憫過ぎるので構ってみたら懐かれた件

砂礫レキ

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7.港はお見合い会場ではありません

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「私、ディエって言うの。カミツレ学園の二年生で港にはよく散歩をしに来るんだ……貴方は学園の生徒じゃないよね?」
「生徒ではないけど……」
「じゃあ私より年上? さっきの男たちが言っていたパルって、表通りの人気菓子店の美人店員さんだよね?」
「多分、そうだけど……」
「じゃあ貴方ってあの店の息子なの? 将来は店主になるの?お兄さんはいないよね?」

 こちらが自己紹介し返す暇も無い忙しさでディエは話しかけてくる。
 質問してる癖に回答させない。正直あまりしたくない。だって内容があからさま過ぎる。
 後半などつい婚活パーティー会場に居るような錯覚を起こしかけた。

「確かに俺の家はブルーム菓子店だけど、店は姉さんが継ぐよ」

 とりあえずそれだけを伝えるとディエはあからさまにガッカリした顔をした。まだ学生とはいえ大分失礼だ。
 こんなにガツガツしてる娘だったかなとゲーム内の情報を思い出そうとするが、そもそも既にゲームとは展開が大分違ってることに気付いて止めた。
 本来なら彼女を助けるのは主人公の黒髪傭兵だ。
 無視して立ち去る選択肢もあるがどちらにしろモブポジションの俺の役割ではない。

 そんなことより、そろそろ店に戻らなければいけない。午後も配達の仕事があるのだから。
 俺は自分の服からディエの指をそっと引きはがした。

「それと、女の子が一人で港に来るの止めた方が良いよ。最近物騒らしいから……じゃあね」
「えっ、ちょっと待ってよ!」
「ごめん、仕事あるから」

 怒声交じりに呼びかけられたが、軽く謝って港を去る。嘘は言っていない。
 帰路に就きながら少しだけ失望に似たものを感じた。

 ディエは確かに外見は文句なしに可愛らしい少女だった。
 イオンが一目惚れしたのも理解できる。
 でも初対面の男に対する馴れ馴れしさと何より値踏みするようなあの視線が俺からすると大分マイナスだった。

 向こうも俺が人気菓子店の跡継ぎじゃないと知って失望していたからお互い様だ。
 しかし彼女がイオンを嫌っているのは知っていたが予想よりずっと積極的に乗り換え先を探し求めていたようだ。

 でもイオンを敵に回してまで彼女と結婚したがる男などいるだろうか。
 王族や高位貴族なら有り得るかもだがそんな人間がディエを選ぶとは思えない。
 そんな失礼なことを考えていると自宅に到着する。 
 店舗の方に顔を出すと姉が会計台の横で帳簿をつけていた。珍しく客が途切れているようだ。

「お帰り、随分遅かったわね。昼ごはん冷めちゃったわよ」
「只今、実は……」

 俺はパルに港でチンピラに絡まれていた少女を助けた事を話した。
 イオンが黒幕だろうというのは黙って置いた。ほぼ確約だが証拠が無いからだ。
 なのに貴族を名指しで悪者扱いするのはリスクが高すぎる。

 姉はそのチンピラが店の常連客のモヒカンだと知り苦虫を噛み潰した顔をした。

「父さんにも一応話しておくわ……出入り禁止にしちゃおうかしら」

 あの二人の泣き顔が簡単に想像できたが一切同情出来なかった。
 完全に自業自得でしか無いからだ。

 そういえば物陰で待機していたイオンと騎士たちは結局どうしたのだろう。
 そのままディエに気付かれる前に帰ったのだろうか。

「……変な小細工するより痩せればいいのに」

 イオンのふくよか過ぎる巨体を思い出しながら呟く。
 ディエは出会ったばかりの俺にさえ頬を赤くするのだから、痩せて美形になればイオンにもときめく可能性は多いにある。

 すると俺の呟きが耳に入ったのか、先程までモヒカンに呆れていた姉がゆっくりとこちらを振り向いた。

「あんた今……私が太ってるって言った?」
「え?ち、ちが……」

 いつもの看板娘スマイルを浮かべているが背後に鬼が見え隠れしている。
 こんなパル、ゲームプレイ中は一度も見たことない。単に主人公の前では猫をかぶっていただけかもしれないが。
 やっぱりゲームと現実は似てるけど全然違う。
 俺は必死に姉の誤解を解きながら痛切した。
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