17 / 73
17.彼がヒロインに好かれない理由
しおりを挟む
「僕のディエを愚弄するなっ!」
癇癪を起した子供のようにイオンは叫ぶ。
そして目の前のケーキの箱を贅肉たっぷりの腕で薙ぎ払った。
まるで何も入ってないように勢いよく箱はテーブルから落ちて、そして嫌な音を立てた。
ぐしゃりというケーキが潰れる音。父が時間をかけて丁寧に作っていたのを俺は知っている。
苺のショートケーキと季節のフルーツタルトとベイクドチーズケーキ。
何時間もかけて、見栄えが少しでも良くなるようフルーツの盛りや飾り切りにも拘って。
それが今全て無駄にされた。一度もその美しく瑞々しい姿を見て貰える事無く。
「ディエはお前にしつこく恋人はいるかと聞かれて、怖かったと言っていたんだぞ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐイオンと反比例して俺の心は冷え切っていく。
いや嘘だ。こいつを殴らないようきつく握りこんだ手は熱を持っている。
目だって怒りに燃えるようだ。
嘘つき女と騙され男。これがディエとイオンの関係なのだろう。
何でこんな馬鹿二人に、俺や俺たちの店や、父の作ったケーキたちが巻き込まれなければいけないんだ。
「そんなの嘘に決まってる、そんなこともわからないのか」
「な……!」
「あんたは俺たちのやり取りを盗み見ていた。俺に対して一度でもディエが怯えた顔をしていたか?」
声が震える。予想以上にケーキが台無しにされたことがショックだったらしい。
前世のケーキ屋で偶にクレーマー対応をしたことはあるのに。
でもこんな風にケーキを食べもせず目の前で壊されたのは初めてだ。
俺は急に前世の暮らしが恋しくなってしまった。
あんな死に方をしたし嫌な事だって沢山あった。
でもここまで非常識で理不尽な目には遭ったことは無い。だけど相手は貴族で俺は平民だから逆らってはいけない。
前世の記憶を取り戻してから一番嫌な気分になった。泣きたくなる程に。
言葉を飾ることも出来ないまま、呼吸するように言葉を吐き出す。
「ディエはあんた以外と結婚したいだけだよ。当たり前だ、食べ物を粗末にしてぶくぶく太って」
「き、貴様……!」
「彼女は貧乏な暮らしをしているのに、こんな風にケーキを八つ当たりで滅茶苦茶にする奴なんて好きになる筈無いだろ!」
思わず声を荒げてしまう。
ゲームをプレイしながら思っていたことと目の前のイオンの所業を見て感じたことが混ざり合い止められなかった。
ディエは多分俺を売った。イオンに関係を尋ねられでもしたのだろう。
彼女に一切を気を持たせる対応をしなかったのが裏目に出たに違いない。
ゲームヒロインとしても元々好きでなかったディエへの好感度は今や底辺だった。
それはそれとして目の前の男をディエが好きにならない理由だってわかる。
先程口にしたようにディエの家は貧しい。騎士だった父親が戦争で足を負傷し戦えなくなったからだ。
母親は病死して父親は騎士でなくなったショックで酒浸りだった。
だから家は借金だらけで女優になるどころか学校を辞めて働くしかない所だった。
でもディエに惚れこんでいたイオンが借金の肩代わりと融資を条件に彼女に婚約を持ちかけた。
承諾したのが父親なのかディエ本人なのかはわからない。
俺が知っているのはゲーム内でディエがイオンを愛したことは一度も無い、それだけだ。
金に苦労して身売りのような形で婚約したディエは、隙あらば他の男に乗り換えたがっていた。
イオンの外見も原因の一つだろうが価値観の違いも大きい筈だ。彼女は婚約する前までは毎日の食事さえ困窮していたのだから。
それはこの世界でも多分同じだ。目の前のイオンが何も言い返してこないのが証拠だった。
癇癪を起した子供のようにイオンは叫ぶ。
そして目の前のケーキの箱を贅肉たっぷりの腕で薙ぎ払った。
まるで何も入ってないように勢いよく箱はテーブルから落ちて、そして嫌な音を立てた。
ぐしゃりというケーキが潰れる音。父が時間をかけて丁寧に作っていたのを俺は知っている。
苺のショートケーキと季節のフルーツタルトとベイクドチーズケーキ。
何時間もかけて、見栄えが少しでも良くなるようフルーツの盛りや飾り切りにも拘って。
それが今全て無駄にされた。一度もその美しく瑞々しい姿を見て貰える事無く。
「ディエはお前にしつこく恋人はいるかと聞かれて、怖かったと言っていたんだぞ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐイオンと反比例して俺の心は冷え切っていく。
いや嘘だ。こいつを殴らないようきつく握りこんだ手は熱を持っている。
目だって怒りに燃えるようだ。
嘘つき女と騙され男。これがディエとイオンの関係なのだろう。
何でこんな馬鹿二人に、俺や俺たちの店や、父の作ったケーキたちが巻き込まれなければいけないんだ。
「そんなの嘘に決まってる、そんなこともわからないのか」
「な……!」
「あんたは俺たちのやり取りを盗み見ていた。俺に対して一度でもディエが怯えた顔をしていたか?」
声が震える。予想以上にケーキが台無しにされたことがショックだったらしい。
前世のケーキ屋で偶にクレーマー対応をしたことはあるのに。
でもこんな風にケーキを食べもせず目の前で壊されたのは初めてだ。
俺は急に前世の暮らしが恋しくなってしまった。
あんな死に方をしたし嫌な事だって沢山あった。
でもここまで非常識で理不尽な目には遭ったことは無い。だけど相手は貴族で俺は平民だから逆らってはいけない。
前世の記憶を取り戻してから一番嫌な気分になった。泣きたくなる程に。
言葉を飾ることも出来ないまま、呼吸するように言葉を吐き出す。
「ディエはあんた以外と結婚したいだけだよ。当たり前だ、食べ物を粗末にしてぶくぶく太って」
「き、貴様……!」
「彼女は貧乏な暮らしをしているのに、こんな風にケーキを八つ当たりで滅茶苦茶にする奴なんて好きになる筈無いだろ!」
思わず声を荒げてしまう。
ゲームをプレイしながら思っていたことと目の前のイオンの所業を見て感じたことが混ざり合い止められなかった。
ディエは多分俺を売った。イオンに関係を尋ねられでもしたのだろう。
彼女に一切を気を持たせる対応をしなかったのが裏目に出たに違いない。
ゲームヒロインとしても元々好きでなかったディエへの好感度は今や底辺だった。
それはそれとして目の前の男をディエが好きにならない理由だってわかる。
先程口にしたようにディエの家は貧しい。騎士だった父親が戦争で足を負傷し戦えなくなったからだ。
母親は病死して父親は騎士でなくなったショックで酒浸りだった。
だから家は借金だらけで女優になるどころか学校を辞めて働くしかない所だった。
でもディエに惚れこんでいたイオンが借金の肩代わりと融資を条件に彼女に婚約を持ちかけた。
承諾したのが父親なのかディエ本人なのかはわからない。
俺が知っているのはゲーム内でディエがイオンを愛したことは一度も無い、それだけだ。
金に苦労して身売りのような形で婚約したディエは、隙あらば他の男に乗り換えたがっていた。
イオンの外見も原因の一つだろうが価値観の違いも大きい筈だ。彼女は婚約する前までは毎日の食事さえ困窮していたのだから。
それはこの世界でも多分同じだ。目の前のイオンが何も言い返してこないのが証拠だった。
380
あなたにおすすめの小説
四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。
とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて──
「運命だ。結婚しよう」
「……敵だよ?」
「ああ。障壁は付き物だな」
勇者×ゴブリン
超短編BLです。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される
あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。
推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜
ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。
――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん!
ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。
これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…?
ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる