ただの魔法使いです

端木 子恭

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貿易島

ウデマエ

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 荷が全て返ってきた。


 無許可で停泊していた小型の船から盗品が見つかった。
 ポノが見た船と一致していて、ジャジットの盗品置き場だと決まった。

 油の樽だけではなく、宝石や、魔法の本、珍獣なんかも入っていた。

 ヘイゼルは損失を出さずに済んだ。
 ゾベルも商船に帰り、商人仲間に無事を喜んでもらった。
 
 オーディはジャジットを「うちで裁く」といって連れて行った。
 どうなったのかは聞かない。

 登録所で確認したら、灰の買い手がついていた。

 砂漠の国の商人で、実験的に農地を改良する事業をするのだという。
 ジャジットを捕まえたグラントに敬意を払うということで、言い値の倍で買ってくれた。
 ポーターがきっと喜ぶ。
 
 リナの貯金箱の銅の塊は換金した。銅貨3枚になった。
 協力してくれたお礼に銀貨を4枚入れておいた。

 返すときにポノを伴った。
 ポノは今回の件でとりあえず仕事を辞めるという決心がついた。

 リナとモーガンに会ったら、あっという間に気が合っていた。
 モーガンが雇ってもいいというのでしばらくポノは宿屋に世話になることになった。

 グラントは、全ての用事を終えて店のある通りを歩いていた。
 手にはペンとノートがある。
 ポーターの宿題を今、できるだけこなしていた。

 今日もちまちまと白い石に魔力を貯めている。
 全然壊れる気配がしないから、きっとまだまだいけるのだ。
 すごいのだかすごくないのだか判断しづらい。

 待ち合わせしていたフリックの姿が見えて、グラントは少しだけ笑顔になった。
 彼が手に持っている包みは、きっと呪符を作るキット。解説本付き。

「どうぞ。初心者でもできるシリーズです」
「ありがとう」

 私的モードでの彼はちょっと柔和な顔つきになっていた。
 
「出航までに時間があるなら、見たいお店を案内しますけど、どうです?」
「本屋は? あるかな」

 グラントが尋ねると、フリックは頷いて先を歩きだした。
 本屋は港から一番離れたところにあって、一番流行らないのだとちょっと悲しくなる。

「わたしは、本屋をするのが夢なんだが。……生活はしていけるかな」

 本の背表紙を眺めながら独り言のようにこぼした。

「貸し本も行えばなんとか。ねえ? 店主」

 同意を求められた店主は苦笑する。

 グラントは本屋を何軒か回った。

 ウーシーが喜びそうな兵器の本。
 シェリーには伝記物とレシピ本と物語で悩んだ。
 一番出版年が新しい、物語にする。

 3冊選んだところで日の位置を確認する。出航の時間が迫っていた。

「ああ、まずい。行かなきゃ」

 カバンに本を入れる。

「フリック、どうもありがとう。
 また会いたい。次はゆっくり話したいな」

 グラントにしては早口で挨拶した。
 フリックの「こちらこそ」という言葉は背中で聞いた。

 走って港に向かう。碇を上げているところに間に合った。

 飛び乗ると、荷室の賑やかな動物の声が聞こえる。
 ヘイゼルの商売も予定通り運んだのだとわかって安心した。

 一度ヘイゼルに戻ったことを伝えに行く。
 床掃除をしていたゾベルが「おかえり」と笑った。
 夕食以降はここに人間たちがたむろする。グラントも掃除を手伝った。



 調理場に作業員が入ってきたところで、甲板に上がった。
 護衛たちが木剣で遊んでいる。日はもう少しで沈みそうだった。


 グラントとゾベルは端の方を通って歩く。
 ちょうどグイドが剣の相手をしていた。

 特に構わず歩いていると、蹴り飛ばされた者がゾベルにぶつかった。

「わっ。平気? 怪我してない?」

 船縁に押しやられた人間を抱き上げてゾベルが問う。
 グラントがため息をついた。

「……ゾベル、ちょっと預かってくれる?」

 ケープを外してゾベルにかける。
 剣とカバンも彼に引っ掛けた。
 蹴られてきた人間から木剣を預かる。代わりに杖を渡した。



「やる? グイド」



 ショートソードのサイズを確かめるように剣身をなぞった。
 多分、束の間でも幻術にかけたことで彼の怒りを買っている。

 その上放置した。

 彼の自業自得という気がしないでもないが。


 グラントは相手の大きな躯体を見やった。
 果たして、グイドは嬉しげに笑う。



 笑い方が意地悪なんだよねえ。



 グラントはうっそりとそれを見た。


 体つきを比べれば、グイドが勝つと思われた。


 甲板にいた護衛たちが注目する。



 二、三度ためすように打った。
 グイドが強く一歩踏み込んでくる。

 射抜くように突き出された切先はグラントの顔の真ん中を捉えていた。
 ショートソードの長さ分引いて避けている。

「……これ、遊びだよね?」
「そうだ」

 グイドの手首を掴んで開くように引いた。上から剣を振り下ろす。
 グイドがグラントの体に組みついた。そのまま甲板を転がる。
 護衛たちから歓声が上がった。

 グラントの目に夕陽の端が飛び込む。
 もう沈みかけていた。手を振るように光の線がゆれている。

 一旦離れて立ち上がった。


 グイドが横に薙いでくる。グラントは元を弾いて返した。
 戻る勢いでわきを狙う。
 グイドは詰めてきてグラントを膝上に押さえつけた。

 グラントは足を振り上げる。
 転がるように後方へ逃れた。

 それを追ってグイドが振り返る。
 グラントの木剣はその時にはグイドの喉へ迫っていた。


 勝負が決まる。


 その緊張感で周りが静まった。

 切先が直前で向きを変えた。
 肩の前あたりを突いて上に反れる。

 グイドが小さく叫んだ。
 信じられないというように肩を見る。


 それから、すでに後ろを向いて離れようとしているグラントに剣を振った。

「まだだ!」
「はぁっ?」

 勝負あったと思っていたらしいグラントが声を上げた。
 左腕の外側を打たれたことに驚いて飛び退く。

「先に鎖骨折れたの自分でも分かってるよね」

 さすがに声が大きくなった。グイドは鼻で息を吐く。

「折れてない」
「ああそう」

 グラントはグイドの右腕を上にあげた。おもしろいほど痛がる。

「その辺に座ってて。整復しないと」


 剣を借りた護衛に武器を再び交換してもらった。

「グラントの勝ち?」

 護衛たちの様子を見ながらゾベルが聞く。

「さあね」

 グラントはちらりとグイドを見た。猛獣のような顔をしている。

「……」

 ゾベルから荷物を受け取った。
 船縁に寄りかかるグイドへと、すぐ逃げられる構えで近寄る。

「僧侶」

 杖から神官服の人影を呼び出す。

「グイドの骨折と、私のヒビの整復を」

 僧侶は骨を正しい位置に戻すと護衛から当て布を受け取って巻いた。

「陸に上がるまでは動かせないよ。ちゃんと守らなきゃ、剣が振るえなくなるからね」

 ちゃんと守って、と念押しして、ゾベルと船室へ下りる。
 やっぱりああいう人とは距離を取っておこう。

 ヘイゼルはすでに食事を始めていた。

「どうしたんだ?」

 シャツをまくった腕に副え木がしてある。ヘイゼルは仰天してグラントを見た。

「グイドと上でやり合ったんです。グラントの勝ちですよ」

 ゾベルがぴょんぴょんと跳ねるように食堂へ進んだ。
 調理場に声をかけて、グラントのために大盛りを頼んでくれている。
 話が聞こえた調理場の作業員たちは快く大量のごはんをくれた。

「グイド? バロールの騎士に勝った?」
「遊びでやったんです。勝敗なんてない」

 ヘイゼルに促されるまま、グラントは同じテーブルにつく。
 ゾベルが二人分の皿を持ってきた。礼を言って食べ始める。

「遊びでも、大したもんだよ。やはり次の行商は護衛で来てくれないかな、グラント」
「気乗りしません」

 グラントは死んだ目で船主を見た。

「グラントはどこで剣を習ったんだ? 魔法使いなのにどうして剣まで?」
「ああ、それは」

 グラントはいつもと同じ話をする。
 なんのことはない普通の話だと自分では思っていた。
 均衡の取れない魔力と体力。エリカのこと。仕事のこと。

 ヘイゼルは楽しそうに話を聞いてくれる。
 商売人だから、そういうふうに癖付いているのかとも穿った。

 いつの間にか食事に集まった商人たちも話に加わっている。
 護衛たちが来て、テーブルへ酒樽を持ってきてしまった。

 まだ封印を解いていないグラントは、ヘイゼルに断ってから幻術をかける。
 安い酒樽の中身がこの上なく旨いような気がして、これはこれでいいと笑ってくれた。

 護衛の中には町会の兵団に所属している者もいて、戻ったらバレットと合同で剣の練習をすることになった。
 

 グイドは、ずっと離れたところに座っていた。

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