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麦秀に寄す心
ほぼ辺境の伯爵領
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王都からリケまで通常なら徒歩4泊5日。
そこを今回は徒歩2泊3日で行く。
船は1泊2日の行程。
真剣なるくじ引きの結果、徒歩班にはグラントとケイレブ、以下20名。
帆船班にはレイ、ウーシー、以下130名。加えてエコーとバレル。
元囚人たちの手首には呪符がある。
逃走を企てて一定以上離れると発煙するのだ。
爆発すると嘘を教えてある。
呪符のキットはケリーに預けたから、今頃誰かに見せている。
船班は重機の運搬、整備という任務がある。
130名中ほとんどが1日中船底での労務を担う。
徒歩班はひたすら歩く。
六頭立ての鉄製馬車を一台連れて行くけれど、これは資材を運ぶだけのようなものだ。
この班においてはさらに真剣な御者くじも開催された。
リケから急報がある場合に備えてニ手に分かれた。
隣国から軍艦が出航してからひと日半。
こちらの軍艦の方が先に着ける。
コーマックが小隊をひとつ貸し出してくれたのでそれをバレットに置いてきた。
冬が来る前に燃料でも送って貸し借りなしにしてもらおうと思う。
徒歩班は森の道を進んだ。
「侵食されてるな」
正式な街道のはずなのに雑草がぼうぼうとしている。
ケイレブは後からついてくる馬車を見た。
「南側の領主とはあまり交流がないものねえ。荒れ放題だ」
時々杖を振って邪魔な木を引っこ抜く。
グラントは草を払いながら早足で丘の登りを歩いた。
彼にとってはいつもしていることである。
もうちょっと走ってもいいくらいだ。
背後では、ついてくる人間たちが息を切らしている。
グラントが普段動いているところを、皆ほとんど見なかった。
小人を引き連れて呑気にしている。
そういう魔法使いなのだと思っていた。
帆船班からは、逃走できそうでいいなあ、という顔をされたけれど。
ちょっと無理。
ケイレブの投擲の技にも圧倒されていた。
彼はグラントにちょうどよく切ってもらった枝で、走る鹿を仕留めた。
逃げたらあれが追ってくる。
「本当はどこかでひと泊する道のりだけど、急ぐから今日中にネール領へ入る。
もう少し速度を上げて」
グラントは鬼司令を出していることに気づいていない。
いつもコーマックに言われているくらいのことだから。
「もしかして、この新規兵たちが、もっと機敏に動けると思ってないか?」
もう精一杯やってるよ、とケイレブが新たな団員の顔を示した。
そこではたと見つめたグラントは、それでもやはり首を傾げる。
「なんで? ゆっくり歩いてるだけで疲れたの?」
狩りもしてない。荷物も馬車だ。
靴だって履いている。
そんなグラントにケイレブが笑い出した。
「ノルトエーデ公のところの超熟練部隊と同じくらい動けると思ってないか?
ならず者といっても、集めたのは皆見習いみたいなものだ。
普段は都での活動ばかりだろう?
喧嘩はするが訓練じゃないし、森に入っていくだけで疲れるんだよ」
「……では、ここを登り切ったら休憩するから、もう少し頑張って歩いて」
グラントはため息とも唸り声ともつかない息を吐く。
新規兵となった元囚人の隊列に安堵の色が広がっていった。
「よかったな。ここを登りきれば座れるぞ。
休んで息を整えたらまた元気が出てくるからな」
おおらかにケイレブは声をかける。
30過ぎた騎士の部隊での役目。
それは主に応援することだと彼は笑った。
ケイレブは新兵たちによく認知されている。
暴動を起こしていた彼らを捕える際に、馬上でランスを振り回していたのはインパクトがあった。
馬車が若干速度を上げた。
「グラント、鹿1頭じゃ足りないよなあ。
熊でもいないもんかな」
休憩後、早足で山を進んでいるのにさらに熊と戦いたいという希望が出てきた。
「この辺りは熊はあまり出ない。鳥や鹿が多いんだ」
普段からよく歩いていたグラントが言う。
「ああ、もしかしたら、海の方に食料があるのかも?」
波の音が聞こえて思いついたらしい。
杖を振ると、海の水が崖の上に現れた。
「食べられそうな魚、いる?」
グラントは足を止めずに聞いたのだが、そんなものを急に見せられた隊員たちはすっ転んだ。
「お、いるいる。黒いやつは身が多そうだ」
ケイレブが笑う。
「あとでまた持ってこようか?
魚、いるとは限らないからこれを持っていったほうがいい?」
「そうだなあ。何か……」
騎士は荷台をのぞいて武具入れをひっくり返した。
「これに入れていくか」
「うん」
そこに水を通して魚をこしとると、余った海水を放り投げる。
崖下に盛大に落ちていく水の音がした。
「ケイレブは外国での戦の支援に参加したことあるの?」
山道を早足に進みながらグラントが聞く。
ケイレブはちょっと唸った。
「微妙な規模のは結構あるかな。
ひとつふたつくらい、大きめの戦闘があった。
一回はバロールの団員と一緒に他国の救援に参加したなあ」
「バロール」
嫌な名前が出る。
「他の騎士団と一緒に活動したりすることも多いの?」
「組織としてはそんなにない。
クイルが一緒に戦に出るのはバロールくらいだよ」
「みんな強い?」
「強い奴もいれば弱い奴もいる。どこだって同じだ」
ケイレブはこういうところが、おおらかで好ましかった。
「グラントはバロールのお二人がああだから、超人の集団かと思ってるのか?」
「あの二人以外にも、ちょっと面倒な感じなんだよ」
「面倒か……。あの第二王子もバロールにいたしな。
確かに面倒なのかもしれない」
「そうなの?」
あの人がじじいと同じ騎士団にいた。
同じ隊ではないのかな。
じじいなら王族だろうと部下は部下として厳しくしそうだ。
そんなことしてたら辺境伯には就いていない。きっと。
「グラントは誰かと仕事したことあるのか? 現役の団員と」
ケイレブはなんの気なしに尋ねる。
春に出会った、ケイレブに似た体格の人を思い出した。
「……グイドっていうんだけれど……。
一緒に仕事したことある?
重そうなメイスを扱ってる。年はわたしと同じだそうだ」
「あー……」
知っていそう。
ケイレブはしばらく口を開けたまま、なんと言ったらいいのか言葉を探しているようだ。
「レイが騎士になりたての頃、何度か一緒に護衛を行なったなあ。
気難し屋なやつか?」
「うん」
「……ああ」
ケイレブはなんだかため息が多い。
「なんの仕事で一緒になったんだ?
グラントが一緒に仕事するなら、護衛業務かな?」
「春にわたしはヘイゼルさんに雇ってもらって貿易島に出かけたんだ。
グイドはその時護衛としてついてきていた」
グラントは貿易島での顛末を話した。
ケイレブは考えあぐねるような顔をして、最後は笑う。
「あいつが魔物が嫌いってのは、公言していたなあ。
クイルは試験に通りさえすればどんな者でも入団できる。
魔物の血が混じった人間も多いんだが。
片端から無視するようなやつだった。
口をきいてくれただけ、マシになったんじゃないかなあ」
「最後には骨を折り合ったけどね。マシなのかな」
「荒れた話か」
「帰りの船で遊びでひと試合したんだ。
わたしが先に肩に当てて、それで了いだと思った。
そしたらグイドは後ろから腕にぶつけてきた」
「ふうん……」
「わたしが気に入らないのは仕方ないが、それなら放っておけばいいものを。
何かと絡んでくるから煩わしくて」
「……」
その情景が目に浮かんだようだ。ケイレブは目を細くする。
「グイドは、一目置かれてはいたよ。性格に難はあるが」
その言い方は、強いのだ。
「なんと言ったらいいのか迷うなあ。
思ったより純朴なやつ、とでも言えばいいのか」
「あれと純朴が結びつかない」
「上に誰か目をかけてくれている人間がいるみたいだ。
その人のためなら任務以上に尽くして働くようなところもあるんだよ」
ケイレブは、あの嫌なやつからよくそんな情報を引き出した。
尊敬の念を持ってグラントは彼を見る。
「舞踏会にはいると思うぞ。グイドはきっと誰かの護衛に就く」
あの無骨な顔に貼りついた意地悪そうな笑顔を思い出してしまった。
グラントは顔を顰める。ケイレブは宥める口調で言った。
「グラントはシェリー殿下を支える役目なんだろう?
きっと絡んでくることはない。
レイも俺もいる。俺は護衛業務だけど、レイは招待されている。
もしそれでも何か言ってきたら、それは……。
なんというか、認めているというか、グラントを気に入ってるということだ」
全然宥められない。むしろぞっとした。
「仲良くするのも戦うのも、遠慮したい相手だ」
「それは否定しない」
ケイレブは首肯して同意を示す。
樫の若木が引っこ抜かれた。
夜になって、中間地点のネール伯爵領に入った。
リケへの部隊だと話すとすぐに入れてもらえた。
閉店しかけの飯屋に頼んで肉と魚を焼いてもらう。
全員満腹で城壁の近くで野宿した。
次の日、森の中でリケの使いの馬車に会った。
乗り継ぎ用の馬車を連れている。
20人の隊は全員乗り物に乗れた。
「軍艦が数隻リケへ向かっていると連絡が入りました」
伝令を任された人間は無事に伝えることができてほっと安心した顔で言う。
「まだ敵の軍艦の姿は見えませんでしたか?」
伝令の持っていた海図を見ながらケイレブが聞いた。
この人は夜半に領地を出たはずだ。
「はい。未だ数は分かりません」
「どこかに立ち寄っているのかな。途中に都市はありました?」
「今はもうないはずです。リケ領がほぼ辺境領とからかわれるくらいです」
「途中の天候が悪くて遅れているんだろうか?」
ケイレブはグラントを見た。
馬に乗ったことがない魔法使いは御者の隣で山脈の方に顔を向けている。
その表情が子どものようで、ケイレブはなんだか気が抜けた。
「グラント」
呼びかけると、すっと視線が落ちる。
「なに?」
「考え事か」
「何か聞いた? ごめん」
姿勢を前に戻した。
「敵の軍艦の到着が遅れている。
こちらにはいいことなんだが、理由がちょっと気にかかっていた」
「天候か、潮の流れ……? こちらの軍艦はどうです? ちゃんと到着しました?」
グラントが尋ねると、伝令は気まずそうな表情になる。
「それが、リケでは昨年、港を埋めて浅くしてしまっていてですね……。
大きな船が着岸できておりません。申し訳ない」
「下船できていないということ?」
グラントが海を見やった。
「商船の避難を誘導してもらっています。
それが終わり次第舟を出しますので」
「馬が出せないな」
ケイレブが苦笑する。
港の深さが変わっていた。
レイも知らなかったなら、きっと無届で行っている。
「砲撃は船上でするからいいとして」
グラントは、森と、隊員を交互に眺めた。
「我々をまっすぐ港へ送ってください。
森の木を自由に切る許可がほしい。それと、カッターありますか?
木を急いで加工したい。
そちらの兵士も全員お貸しください」
「分かりました。すぐにメイソン卿へ連絡いたします」
日が沈んでからの作業になった。
松明の下で手すりのついたイカダを組み立てる。
造船の盛んなリケでは、水車を利用した大きなカッターが何台もあった。
時間ができたらウーシーがこれに飛びつきそう。
バリの立つイカダの桟橋を通って、夜の間に船員たちは陸に上がった。
そこを今回は徒歩2泊3日で行く。
船は1泊2日の行程。
真剣なるくじ引きの結果、徒歩班にはグラントとケイレブ、以下20名。
帆船班にはレイ、ウーシー、以下130名。加えてエコーとバレル。
元囚人たちの手首には呪符がある。
逃走を企てて一定以上離れると発煙するのだ。
爆発すると嘘を教えてある。
呪符のキットはケリーに預けたから、今頃誰かに見せている。
船班は重機の運搬、整備という任務がある。
130名中ほとんどが1日中船底での労務を担う。
徒歩班はひたすら歩く。
六頭立ての鉄製馬車を一台連れて行くけれど、これは資材を運ぶだけのようなものだ。
この班においてはさらに真剣な御者くじも開催された。
リケから急報がある場合に備えてニ手に分かれた。
隣国から軍艦が出航してからひと日半。
こちらの軍艦の方が先に着ける。
コーマックが小隊をひとつ貸し出してくれたのでそれをバレットに置いてきた。
冬が来る前に燃料でも送って貸し借りなしにしてもらおうと思う。
徒歩班は森の道を進んだ。
「侵食されてるな」
正式な街道のはずなのに雑草がぼうぼうとしている。
ケイレブは後からついてくる馬車を見た。
「南側の領主とはあまり交流がないものねえ。荒れ放題だ」
時々杖を振って邪魔な木を引っこ抜く。
グラントは草を払いながら早足で丘の登りを歩いた。
彼にとってはいつもしていることである。
もうちょっと走ってもいいくらいだ。
背後では、ついてくる人間たちが息を切らしている。
グラントが普段動いているところを、皆ほとんど見なかった。
小人を引き連れて呑気にしている。
そういう魔法使いなのだと思っていた。
帆船班からは、逃走できそうでいいなあ、という顔をされたけれど。
ちょっと無理。
ケイレブの投擲の技にも圧倒されていた。
彼はグラントにちょうどよく切ってもらった枝で、走る鹿を仕留めた。
逃げたらあれが追ってくる。
「本当はどこかでひと泊する道のりだけど、急ぐから今日中にネール領へ入る。
もう少し速度を上げて」
グラントは鬼司令を出していることに気づいていない。
いつもコーマックに言われているくらいのことだから。
「もしかして、この新規兵たちが、もっと機敏に動けると思ってないか?」
もう精一杯やってるよ、とケイレブが新たな団員の顔を示した。
そこではたと見つめたグラントは、それでもやはり首を傾げる。
「なんで? ゆっくり歩いてるだけで疲れたの?」
狩りもしてない。荷物も馬車だ。
靴だって履いている。
そんなグラントにケイレブが笑い出した。
「ノルトエーデ公のところの超熟練部隊と同じくらい動けると思ってないか?
ならず者といっても、集めたのは皆見習いみたいなものだ。
普段は都での活動ばかりだろう?
喧嘩はするが訓練じゃないし、森に入っていくだけで疲れるんだよ」
「……では、ここを登り切ったら休憩するから、もう少し頑張って歩いて」
グラントはため息とも唸り声ともつかない息を吐く。
新規兵となった元囚人の隊列に安堵の色が広がっていった。
「よかったな。ここを登りきれば座れるぞ。
休んで息を整えたらまた元気が出てくるからな」
おおらかにケイレブは声をかける。
30過ぎた騎士の部隊での役目。
それは主に応援することだと彼は笑った。
ケイレブは新兵たちによく認知されている。
暴動を起こしていた彼らを捕える際に、馬上でランスを振り回していたのはインパクトがあった。
馬車が若干速度を上げた。
「グラント、鹿1頭じゃ足りないよなあ。
熊でもいないもんかな」
休憩後、早足で山を進んでいるのにさらに熊と戦いたいという希望が出てきた。
「この辺りは熊はあまり出ない。鳥や鹿が多いんだ」
普段からよく歩いていたグラントが言う。
「ああ、もしかしたら、海の方に食料があるのかも?」
波の音が聞こえて思いついたらしい。
杖を振ると、海の水が崖の上に現れた。
「食べられそうな魚、いる?」
グラントは足を止めずに聞いたのだが、そんなものを急に見せられた隊員たちはすっ転んだ。
「お、いるいる。黒いやつは身が多そうだ」
ケイレブが笑う。
「あとでまた持ってこようか?
魚、いるとは限らないからこれを持っていったほうがいい?」
「そうだなあ。何か……」
騎士は荷台をのぞいて武具入れをひっくり返した。
「これに入れていくか」
「うん」
そこに水を通して魚をこしとると、余った海水を放り投げる。
崖下に盛大に落ちていく水の音がした。
「ケイレブは外国での戦の支援に参加したことあるの?」
山道を早足に進みながらグラントが聞く。
ケイレブはちょっと唸った。
「微妙な規模のは結構あるかな。
ひとつふたつくらい、大きめの戦闘があった。
一回はバロールの団員と一緒に他国の救援に参加したなあ」
「バロール」
嫌な名前が出る。
「他の騎士団と一緒に活動したりすることも多いの?」
「組織としてはそんなにない。
クイルが一緒に戦に出るのはバロールくらいだよ」
「みんな強い?」
「強い奴もいれば弱い奴もいる。どこだって同じだ」
ケイレブはこういうところが、おおらかで好ましかった。
「グラントはバロールのお二人がああだから、超人の集団かと思ってるのか?」
「あの二人以外にも、ちょっと面倒な感じなんだよ」
「面倒か……。あの第二王子もバロールにいたしな。
確かに面倒なのかもしれない」
「そうなの?」
あの人がじじいと同じ騎士団にいた。
同じ隊ではないのかな。
じじいなら王族だろうと部下は部下として厳しくしそうだ。
そんなことしてたら辺境伯には就いていない。きっと。
「グラントは誰かと仕事したことあるのか? 現役の団員と」
ケイレブはなんの気なしに尋ねる。
春に出会った、ケイレブに似た体格の人を思い出した。
「……グイドっていうんだけれど……。
一緒に仕事したことある?
重そうなメイスを扱ってる。年はわたしと同じだそうだ」
「あー……」
知っていそう。
ケイレブはしばらく口を開けたまま、なんと言ったらいいのか言葉を探しているようだ。
「レイが騎士になりたての頃、何度か一緒に護衛を行なったなあ。
気難し屋なやつか?」
「うん」
「……ああ」
ケイレブはなんだかため息が多い。
「なんの仕事で一緒になったんだ?
グラントが一緒に仕事するなら、護衛業務かな?」
「春にわたしはヘイゼルさんに雇ってもらって貿易島に出かけたんだ。
グイドはその時護衛としてついてきていた」
グラントは貿易島での顛末を話した。
ケイレブは考えあぐねるような顔をして、最後は笑う。
「あいつが魔物が嫌いってのは、公言していたなあ。
クイルは試験に通りさえすればどんな者でも入団できる。
魔物の血が混じった人間も多いんだが。
片端から無視するようなやつだった。
口をきいてくれただけ、マシになったんじゃないかなあ」
「最後には骨を折り合ったけどね。マシなのかな」
「荒れた話か」
「帰りの船で遊びでひと試合したんだ。
わたしが先に肩に当てて、それで了いだと思った。
そしたらグイドは後ろから腕にぶつけてきた」
「ふうん……」
「わたしが気に入らないのは仕方ないが、それなら放っておけばいいものを。
何かと絡んでくるから煩わしくて」
「……」
その情景が目に浮かんだようだ。ケイレブは目を細くする。
「グイドは、一目置かれてはいたよ。性格に難はあるが」
その言い方は、強いのだ。
「なんと言ったらいいのか迷うなあ。
思ったより純朴なやつ、とでも言えばいいのか」
「あれと純朴が結びつかない」
「上に誰か目をかけてくれている人間がいるみたいだ。
その人のためなら任務以上に尽くして働くようなところもあるんだよ」
ケイレブは、あの嫌なやつからよくそんな情報を引き出した。
尊敬の念を持ってグラントは彼を見る。
「舞踏会にはいると思うぞ。グイドはきっと誰かの護衛に就く」
あの無骨な顔に貼りついた意地悪そうな笑顔を思い出してしまった。
グラントは顔を顰める。ケイレブは宥める口調で言った。
「グラントはシェリー殿下を支える役目なんだろう?
きっと絡んでくることはない。
レイも俺もいる。俺は護衛業務だけど、レイは招待されている。
もしそれでも何か言ってきたら、それは……。
なんというか、認めているというか、グラントを気に入ってるということだ」
全然宥められない。むしろぞっとした。
「仲良くするのも戦うのも、遠慮したい相手だ」
「それは否定しない」
ケイレブは首肯して同意を示す。
樫の若木が引っこ抜かれた。
夜になって、中間地点のネール伯爵領に入った。
リケへの部隊だと話すとすぐに入れてもらえた。
閉店しかけの飯屋に頼んで肉と魚を焼いてもらう。
全員満腹で城壁の近くで野宿した。
次の日、森の中でリケの使いの馬車に会った。
乗り継ぎ用の馬車を連れている。
20人の隊は全員乗り物に乗れた。
「軍艦が数隻リケへ向かっていると連絡が入りました」
伝令を任された人間は無事に伝えることができてほっと安心した顔で言う。
「まだ敵の軍艦の姿は見えませんでしたか?」
伝令の持っていた海図を見ながらケイレブが聞いた。
この人は夜半に領地を出たはずだ。
「はい。未だ数は分かりません」
「どこかに立ち寄っているのかな。途中に都市はありました?」
「今はもうないはずです。リケ領がほぼ辺境領とからかわれるくらいです」
「途中の天候が悪くて遅れているんだろうか?」
ケイレブはグラントを見た。
馬に乗ったことがない魔法使いは御者の隣で山脈の方に顔を向けている。
その表情が子どものようで、ケイレブはなんだか気が抜けた。
「グラント」
呼びかけると、すっと視線が落ちる。
「なに?」
「考え事か」
「何か聞いた? ごめん」
姿勢を前に戻した。
「敵の軍艦の到着が遅れている。
こちらにはいいことなんだが、理由がちょっと気にかかっていた」
「天候か、潮の流れ……? こちらの軍艦はどうです? ちゃんと到着しました?」
グラントが尋ねると、伝令は気まずそうな表情になる。
「それが、リケでは昨年、港を埋めて浅くしてしまっていてですね……。
大きな船が着岸できておりません。申し訳ない」
「下船できていないということ?」
グラントが海を見やった。
「商船の避難を誘導してもらっています。
それが終わり次第舟を出しますので」
「馬が出せないな」
ケイレブが苦笑する。
港の深さが変わっていた。
レイも知らなかったなら、きっと無届で行っている。
「砲撃は船上でするからいいとして」
グラントは、森と、隊員を交互に眺めた。
「我々をまっすぐ港へ送ってください。
森の木を自由に切る許可がほしい。それと、カッターありますか?
木を急いで加工したい。
そちらの兵士も全員お貸しください」
「分かりました。すぐにメイソン卿へ連絡いたします」
日が沈んでからの作業になった。
松明の下で手すりのついたイカダを組み立てる。
造船の盛んなリケでは、水車を利用した大きなカッターが何台もあった。
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「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ
よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。
剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。
しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。
それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。
「期待外れだ」
「国の恥晒しめ」
掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。 だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。
『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』
彼だけが気づいた真実。
それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。
これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。
【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
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