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くずれゆく森
もっといいものをその手に
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「グラントはなんで騎士団に入らなかった」
ぽつりと、グイドが尋ねる。
グラントは剣を使える。今だってショートソードを携えている。
知識だってあっという間に吸収しそうだ。
紙と幻をしまって、魔法使いは杖を見る。
「軍人になりたくなかった」
のびかけの前髪の下で、黒い瞳がグイドに移った。
「魔法を武器にしたくなかったんだよ。
わたしは子どもの頃、戦える魔法使いではなかった」
「弱かった?」
「一言がずいぶん失礼なんだよねえ」
焦げ切った葉を払う。
肉を裂いてみるともう食べられそうだった。
片割れをグイドに渡す。
「騎士見習いになることを勧める人もいたよ。
だけどわたしの剣の先生は勧めなかった。
自分で戦いたいと思わないならしなくていいって」
「シュトラールだろ? 戦わずにどう生きていけるんだ」
毎日どこかで略奪が起こる地域。
ぼうっと歩いていれば犯罪の被害者になる。
警吏だって騒動の最中には近寄らない。
「逃げる」
グラントの答えはそれだった。
肉を裂きながら、当然のことのように言う。
「先生に初めて会ったとき言われた。
望まないなら戦わなくていいから逃げなさいって。
友だちや仲間や、大好きな人がいたら一緒に。
一緒に行けない時にはひとりで行くんだ」
ひとりで行く。
グラントがそう言うのに、グイドは目を瞠る。
「大切でも置いて逃げるのか?」
「自分の中で早いうちにそう決まった」
グラントは小さく笑った。
「逃げ切れるのはひとりらしいとなったら、きっと自然に心が決まる。
行くのは動ける方だ」
一度か二度は窮地だと思ったことがある。
その時の相棒はウーシーで。
「そういう状況の時、わたしの友だちは必死に抵抗した。
生き残るために最後まで頭を回らせていた。
だったらその友だちの方が生き残るべきだと思ったことがあるよ」
「相手は納得するか?」
「嘆くね」
グラントは子どもだった自分を思い出してため息をついた。
ウーシーにひとりで逃げてと言うのは勇気が要ったし、頷く方もそうだった。
「怖い、嫌だって叫ぶ。決めたくせに。
けれど、弱くったって絶対言わない言葉があった。
友だちに助かってほしい時、行かないでとは絶対に言わない」
グイドがどんな顔をしたのか。
グラントは見なかった。
枯れた草をかき分ける音が聞こえる。
それに耳を澄ました。
複数の方角からする。グイドも辺りをうかがった。
「まだ食べ終わってないのに……」
グラントの小声にグイドは短く息を吐く。
「遅っそ……」
「は? 兵士じゃないんだ、ゆっくり食べて責められる筋合いないよ」
「今は兵士」
グイドは素早く手を乾いた土に擦り込んだ。
立ち上がって森の中を見る。
「魔物か?」
「珍しい生き物だって」
まだら模様の片鱗が見えた。
「やっぱりあれ、竜だろ」
離れた場所を、一瞬だけ火が輝く。
威嚇するような炎の塊は先ほどより大きかった。
「あれは雌? 雄か?」
「たぶん雄だ。卵を守ってる親蛇は狩りに出かけない」
薄暗くなっている。
「大蛇を食べる魔物が今年は少ないそうだよ。
そのせいで蛇の数が多いって、知ってた……」
慌てて後ろ向きで肉を飲み込んでいたグラントが体を硬らせた。
剣が抜かれていく。
グイドが持っていったと気づいて遅れて驚いた。
視線を巡らせると、もう大型生物の方へ体の向きを変えている。
剣を数回振ってみて苛々とグラントを見た。
「短い! 軽い! これはおもちゃか!」
「盗って文句を言わないで」
人の死角からこんな動きができる人間。
それは特殊な訓練を積んだ者。
「それは折れない。思い切り振っても平気」
「……刃もない」
ばれた。
くらい森の中から一番早く到達した蛇の頭が出てくる。
グラントは杖を振って大蛇の目の前に剣を構える兵士を描いた。
蛇が兵士に噛みついてそれに巻きつく。
締め上げられた人間は樹木に変わった。
グイドが低い位置に止まった頭へ剣を振り下ろす。
猛獣の鳴き声のような、金属の当たる音が響いた。
「切先は切れるんだな」
独りごちたのか質問だったのか。
次の瞬間には自分の背丈より大きな蛇の頭を刺し貫いた。
がちんという音が近くで聞こえる。
足をかけて引き抜くと勢いでグラントの近くまで戻った。
横手から出てきた蛇が火を吹く。
木に巻きついた蛇は燃え上がった。
「夜行性だったんだねえ。
狩りの時には群れを作る性質の蛇かな」
「餌は人間なのか」
「雑食だろう。
さっき、仲間の蛇の匂いがついたんだよ。
食べものだと判断されたんだ」
「息の根止めてやる」
むっとしたグイドは、よく知っている顔になる。
噛みついてくる蛇を迎え撃った。
獣みたいなんだよねえ。
自分に向けられたら怖い。
グラントはグイドを別の蛇の頭の上へ放り投げた。
着地の時にはもう体勢を整えて、剣の柄のあたりまで深く差しこんでいる。
頭をやられて倒れる蛇。
その背を伝って下りたグイドが駆け寄って言った。
「やっぱり竜じゃないか? 小さな翼がついてる」
「……翼」
グラントがその体越しに大蛇を見る。
よく見えないので近くに行ってみた。
背側に沿って歩いたら程なく小さい翼を見つける。
「蛇だよ」
「足が退化した竜っていないのか」
「それは蛇」
なぜか譲らない魔法使いは新たに出てきた大蛇の腹を撃った。
グイドはその顔を睨む。
「グラントは竜を見た事あるのか?」
「あるよ」
「どんなやつだったんだ。これと違うのか」
「違う」
そう言うとグラントはグイドの後方に下がった。
木立の中に兵士が現れる。
グラントの作る幻だ。
「見せるから、ちょっとの間わたしを守って」
「あ?」
一瞬振り向きかけたグイドは、森の中の轟音にすぐ剣を構える。
罠に掛からなかった大蛇がこちらを目掛けて進んできた。
グラントは視線をあちこちに送って位置を確かめる。
グイドは真っ暗な空間から飛び出してきた牙を打ち折った。
確かにこの剣は思い切り振るっても折れない。
そう納得して切先を舌に突き立てた。
後ろで何をしているのか見る余裕はない。
のん気なやつのことは放っておくことにした。
舌を切り落とされた蛇がのけぞって逃れていく。
剣がその胸元に入った。
力任せに皮を破って絶命させる。
「揺れるよ」
グラントが杖を暗闇に差し向けた。
「火竜」
どぉん、と地鳴りが響く。
地面が揺れ、グイドが新たに対峙していた大蛇ごと土の上に投げ出された。
城のように大きな動物が森の中に立つ。
黒々とした肌。
細かい鱗で覆われていた。手足の鉤爪は太く大きい。
木と蛇を同時に掴んで牙にかけた。
暴虐を振るう生き物に、まだ動ける大蛇は散っていく。
「あれが、わたしの知っている竜」
森の中、蛇たちは獲物と思って締めつけた木から急に離れられなかった。
竜が手の中の大蛇を掲げて火を吹く。
比にならない炎は夜空へ轟々と輝きを放った。
「乗ってみる?」
気に入りの乗り物を勧めるような口調だった。
グイドは唖然としてグラントを見る。
いたって真面目に尋ねていた。
竜がグイドをつまむ。
背に乗せると大きく羽ばたいた。
「……」
飛び上がった竜は森の中へ突進する。
夥しい数の蛇を追い払った。
今年は言っていた通り大蛇の大繁殖が起こっている。
その一因を知っているグイドは目を伏せた。
夜が明ける寸前に戦いが終わって、血生臭くなったその場所から離れた。
火竜に乗って飛び上がると、獣のいない広場が見えた。
そこに人間たちを下ろして幻は消える。
火を起こして周囲を素早く幻で覆い隠れた。
できればもう動きたくない魔法使いはばったり倒れる。
「もう朝まで戦わない。疲れた」
まだ安全が確認されたわけでもないのにその油断の様子。
グイドは呆れた表情を隠さなかった。
「あれは一撃必殺ってやつか」
「そんなすごいものとは違う。遊びの延長だよ」
頭の近くに膝をついたグイドを上目遣いに見る。
「わたしの魔法は攻撃しようと思って身につけたんじゃない。
願いを叶えるために練習した。
それを戦いにも使っているだけだ」
「じゃあこれは、ぶっ倒れるほど遊んだ後?」
「そう」
真顔で言っていた。
ちゃんと強いのに、軍人にはなりたくない。
こんな使い方ができるのに魔法は武器じゃないという。
グラントが同じ隊にいたら喧嘩が絶えない。
きっとお互いに大嫌いだと公言した。
それでも、一緒に戦えば頼もしかったはずだ。
「なんで騎士団に入らなかった」
二度目の問いに、グラントは無言でいた。
「さっきの言葉、もっと早く聞いてたら、……」
どれだろう。
グラントは記憶を辿るように瞳を動かす。
そうだ。
さっき聞きたいことがあった。
「ねえ、合っていたらただ黙っていて。
…グイドに非公式な仕事を命じていたのはレミー?」
不意打ちに返事は来ない。
グラントは動揺するその顔を見上げていた。
心がちぎれる前に去ることを決断できた。
人間らしい表情だ。
「仇は討っておく」
小さく笑う。
グイドは痛む胸を押さえながら生きてきた。
そんな彼へさらに痛みを押しつけてきた人間がいる。
やめさせる。
そんなことはもう、続けさせてはいけない。
「今その手にある心の痛みより」
グラントが軽く握った手でグイドの胸に触れた。
「いいものを掴むために生きて」
ぽつりと、グイドが尋ねる。
グラントは剣を使える。今だってショートソードを携えている。
知識だってあっという間に吸収しそうだ。
紙と幻をしまって、魔法使いは杖を見る。
「軍人になりたくなかった」
のびかけの前髪の下で、黒い瞳がグイドに移った。
「魔法を武器にしたくなかったんだよ。
わたしは子どもの頃、戦える魔法使いではなかった」
「弱かった?」
「一言がずいぶん失礼なんだよねえ」
焦げ切った葉を払う。
肉を裂いてみるともう食べられそうだった。
片割れをグイドに渡す。
「騎士見習いになることを勧める人もいたよ。
だけどわたしの剣の先生は勧めなかった。
自分で戦いたいと思わないならしなくていいって」
「シュトラールだろ? 戦わずにどう生きていけるんだ」
毎日どこかで略奪が起こる地域。
ぼうっと歩いていれば犯罪の被害者になる。
警吏だって騒動の最中には近寄らない。
「逃げる」
グラントの答えはそれだった。
肉を裂きながら、当然のことのように言う。
「先生に初めて会ったとき言われた。
望まないなら戦わなくていいから逃げなさいって。
友だちや仲間や、大好きな人がいたら一緒に。
一緒に行けない時にはひとりで行くんだ」
ひとりで行く。
グラントがそう言うのに、グイドは目を瞠る。
「大切でも置いて逃げるのか?」
「自分の中で早いうちにそう決まった」
グラントは小さく笑った。
「逃げ切れるのはひとりらしいとなったら、きっと自然に心が決まる。
行くのは動ける方だ」
一度か二度は窮地だと思ったことがある。
その時の相棒はウーシーで。
「そういう状況の時、わたしの友だちは必死に抵抗した。
生き残るために最後まで頭を回らせていた。
だったらその友だちの方が生き残るべきだと思ったことがあるよ」
「相手は納得するか?」
「嘆くね」
グラントは子どもだった自分を思い出してため息をついた。
ウーシーにひとりで逃げてと言うのは勇気が要ったし、頷く方もそうだった。
「怖い、嫌だって叫ぶ。決めたくせに。
けれど、弱くったって絶対言わない言葉があった。
友だちに助かってほしい時、行かないでとは絶対に言わない」
グイドがどんな顔をしたのか。
グラントは見なかった。
枯れた草をかき分ける音が聞こえる。
それに耳を澄ました。
複数の方角からする。グイドも辺りをうかがった。
「まだ食べ終わってないのに……」
グラントの小声にグイドは短く息を吐く。
「遅っそ……」
「は? 兵士じゃないんだ、ゆっくり食べて責められる筋合いないよ」
「今は兵士」
グイドは素早く手を乾いた土に擦り込んだ。
立ち上がって森の中を見る。
「魔物か?」
「珍しい生き物だって」
まだら模様の片鱗が見えた。
「やっぱりあれ、竜だろ」
離れた場所を、一瞬だけ火が輝く。
威嚇するような炎の塊は先ほどより大きかった。
「あれは雌? 雄か?」
「たぶん雄だ。卵を守ってる親蛇は狩りに出かけない」
薄暗くなっている。
「大蛇を食べる魔物が今年は少ないそうだよ。
そのせいで蛇の数が多いって、知ってた……」
慌てて後ろ向きで肉を飲み込んでいたグラントが体を硬らせた。
剣が抜かれていく。
グイドが持っていったと気づいて遅れて驚いた。
視線を巡らせると、もう大型生物の方へ体の向きを変えている。
剣を数回振ってみて苛々とグラントを見た。
「短い! 軽い! これはおもちゃか!」
「盗って文句を言わないで」
人の死角からこんな動きができる人間。
それは特殊な訓練を積んだ者。
「それは折れない。思い切り振っても平気」
「……刃もない」
ばれた。
くらい森の中から一番早く到達した蛇の頭が出てくる。
グラントは杖を振って大蛇の目の前に剣を構える兵士を描いた。
蛇が兵士に噛みついてそれに巻きつく。
締め上げられた人間は樹木に変わった。
グイドが低い位置に止まった頭へ剣を振り下ろす。
猛獣の鳴き声のような、金属の当たる音が響いた。
「切先は切れるんだな」
独りごちたのか質問だったのか。
次の瞬間には自分の背丈より大きな蛇の頭を刺し貫いた。
がちんという音が近くで聞こえる。
足をかけて引き抜くと勢いでグラントの近くまで戻った。
横手から出てきた蛇が火を吹く。
木に巻きついた蛇は燃え上がった。
「夜行性だったんだねえ。
狩りの時には群れを作る性質の蛇かな」
「餌は人間なのか」
「雑食だろう。
さっき、仲間の蛇の匂いがついたんだよ。
食べものだと判断されたんだ」
「息の根止めてやる」
むっとしたグイドは、よく知っている顔になる。
噛みついてくる蛇を迎え撃った。
獣みたいなんだよねえ。
自分に向けられたら怖い。
グラントはグイドを別の蛇の頭の上へ放り投げた。
着地の時にはもう体勢を整えて、剣の柄のあたりまで深く差しこんでいる。
頭をやられて倒れる蛇。
その背を伝って下りたグイドが駆け寄って言った。
「やっぱり竜じゃないか? 小さな翼がついてる」
「……翼」
グラントがその体越しに大蛇を見る。
よく見えないので近くに行ってみた。
背側に沿って歩いたら程なく小さい翼を見つける。
「蛇だよ」
「足が退化した竜っていないのか」
「それは蛇」
なぜか譲らない魔法使いは新たに出てきた大蛇の腹を撃った。
グイドはその顔を睨む。
「グラントは竜を見た事あるのか?」
「あるよ」
「どんなやつだったんだ。これと違うのか」
「違う」
そう言うとグラントはグイドの後方に下がった。
木立の中に兵士が現れる。
グラントの作る幻だ。
「見せるから、ちょっとの間わたしを守って」
「あ?」
一瞬振り向きかけたグイドは、森の中の轟音にすぐ剣を構える。
罠に掛からなかった大蛇がこちらを目掛けて進んできた。
グラントは視線をあちこちに送って位置を確かめる。
グイドは真っ暗な空間から飛び出してきた牙を打ち折った。
確かにこの剣は思い切り振るっても折れない。
そう納得して切先を舌に突き立てた。
後ろで何をしているのか見る余裕はない。
のん気なやつのことは放っておくことにした。
舌を切り落とされた蛇がのけぞって逃れていく。
剣がその胸元に入った。
力任せに皮を破って絶命させる。
「揺れるよ」
グラントが杖を暗闇に差し向けた。
「火竜」
どぉん、と地鳴りが響く。
地面が揺れ、グイドが新たに対峙していた大蛇ごと土の上に投げ出された。
城のように大きな動物が森の中に立つ。
黒々とした肌。
細かい鱗で覆われていた。手足の鉤爪は太く大きい。
木と蛇を同時に掴んで牙にかけた。
暴虐を振るう生き物に、まだ動ける大蛇は散っていく。
「あれが、わたしの知っている竜」
森の中、蛇たちは獲物と思って締めつけた木から急に離れられなかった。
竜が手の中の大蛇を掲げて火を吹く。
比にならない炎は夜空へ轟々と輝きを放った。
「乗ってみる?」
気に入りの乗り物を勧めるような口調だった。
グイドは唖然としてグラントを見る。
いたって真面目に尋ねていた。
竜がグイドをつまむ。
背に乗せると大きく羽ばたいた。
「……」
飛び上がった竜は森の中へ突進する。
夥しい数の蛇を追い払った。
今年は言っていた通り大蛇の大繁殖が起こっている。
その一因を知っているグイドは目を伏せた。
夜が明ける寸前に戦いが終わって、血生臭くなったその場所から離れた。
火竜に乗って飛び上がると、獣のいない広場が見えた。
そこに人間たちを下ろして幻は消える。
火を起こして周囲を素早く幻で覆い隠れた。
できればもう動きたくない魔法使いはばったり倒れる。
「もう朝まで戦わない。疲れた」
まだ安全が確認されたわけでもないのにその油断の様子。
グイドは呆れた表情を隠さなかった。
「あれは一撃必殺ってやつか」
「そんなすごいものとは違う。遊びの延長だよ」
頭の近くに膝をついたグイドを上目遣いに見る。
「わたしの魔法は攻撃しようと思って身につけたんじゃない。
願いを叶えるために練習した。
それを戦いにも使っているだけだ」
「じゃあこれは、ぶっ倒れるほど遊んだ後?」
「そう」
真顔で言っていた。
ちゃんと強いのに、軍人にはなりたくない。
こんな使い方ができるのに魔法は武器じゃないという。
グラントが同じ隊にいたら喧嘩が絶えない。
きっとお互いに大嫌いだと公言した。
それでも、一緒に戦えば頼もしかったはずだ。
「なんで騎士団に入らなかった」
二度目の問いに、グラントは無言でいた。
「さっきの言葉、もっと早く聞いてたら、……」
どれだろう。
グラントは記憶を辿るように瞳を動かす。
そうだ。
さっき聞きたいことがあった。
「ねえ、合っていたらただ黙っていて。
…グイドに非公式な仕事を命じていたのはレミー?」
不意打ちに返事は来ない。
グラントは動揺するその顔を見上げていた。
心がちぎれる前に去ることを決断できた。
人間らしい表情だ。
「仇は討っておく」
小さく笑う。
グイドは痛む胸を押さえながら生きてきた。
そんな彼へさらに痛みを押しつけてきた人間がいる。
やめさせる。
そんなことはもう、続けさせてはいけない。
「今その手にある心の痛みより」
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