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闇に寄り添い、願いを結ぶ
したく
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旅支度をしていた。
急に思い立って始めたので色々なものを床にぶちまけた。
笑い声がして、あたりを探す。
「片付けないうちは旅立てないのよ、ジェロディ」
懐かしい人がいた。
燃えるような赤毛を横に束ねている。
いつでも希望を見ているような瞳があった。
「エリカ」
ジェロディは記憶のまま変わらないエリカに笑いかける。
「片付けなんてない。もう済んだ。
エリカの方は? 用事は終わったのか」
落ち着いた色合いのドレスを着た彼女は、なんだか一国の女王のようだ。
「終わった」
さっぱりした返事がくる。
シュトラールにいた頃に提げていた剣はもうなかった。
「だから剣は置いた?」
「そう。持つ必要がなくなったもの」
両手を開いて見せる。
小さくなったが剣胼胝があった。
「まだ振ってるな、剣」
「戦ってはいない。今いるところは平和な場所よ」
ジェロディは小首を傾げる。
そこで自分の杖がないことに気がついた。
「杖は別のところにある」
エリカが表情を察してそう教える。
「ジェロディは取りに行くべきよ」
「必要ない。今から行くところは杖なんか要らない」
そう答えたものの、どこへ行こうとしていたのか忘れていた。
エリカが辺りを窺っているジェロディの背を強く叩く。
「寝過ぎたの」
明るく力強い笑顔だ。
大柄な彼女の元気な声が間近になる。
「ジェロディはそろそろ起きなきゃ。
ほら、帰る道を教えてあげる。行きましょう」
そのまま背中をぐいぐいと押した。
また支度していたものが落ちていく。
それに気を取られた瞬間に視界が回った。
「生きて。ジェロディ。まだやることがあるから」
エリカの姿が見えない。
慌てて見回したが視界は回り続けていた。
背中を最後に一つ、押される。
「ジェロディ、目を開けて」
目が覚めて、まだ薄ぼんやりとした視界に怖い顔があった。
この世の全てを呪うように眉根を寄せてもう一度目を閉じる。
拳骨の代わりに何か重いものがそばに落ちてきた。
「いや、普通嫌だろ。なんでじいさんの顔見て目が覚めなきゃならないんだ。
少し考えろ。くそじじい」
「始終付き添ってるわけじゃない私のいる時に起きるな」
「今、いつだ」
諦めて目を開いたジェロディが尋ねる。
暦はとっくに終わっている。
冬のど真ん中まで寝ていたジェロディは弱々しく上体を起こした。
「ここ、ノルトエーデか。
子どもたちは? ケリーは? グラントはいる?」
「子どもたちはここで預かっている。
ケリーは都に一人で残った。バレットでグラントの家にいる」
そこでコーマックは言葉を切る。
ひと呼吸してから「グラントは負傷したらしい」と伝えた。
ジェロディがシーツを跳ね上げかける。
「失礼いたします」
扉が開く音がした。
トーニャの声だと思った瞬間に、ジェロディは寝台に頭を戻される。
息を吸う間もなかった。
「あら意識が戻られたのね。
喜ばしいこと、ジェロディ」
笑いを含む軽やかな声だ。
しかしその腕は有無を言わさない。
寝ていろ、と指令を下していた。
「申し訳ないのだけれど、起き上がっていいのは薬湯を召し上がる時だけ。
勝手に館を飛び出したりしたら骨を折ってでも止めますよ」
人魚の迫力に承諾するしかない。
「動かないところはあるかしら」
ジェロディの四肢に触れて動かしながらトーニャが聞いた。
随意で動くのを確かめて、いくつか質問をする。
異常はないと分かってその腕に手を添えた。
「負傷してから処置までに時間がかかったので寝付くのが長引いた。
ひとの中のことは起きてみないと分からない。
我が主に望まない結果を報告せずに済んで安心しました」
トーニャはそう言って扉の外に声をかける。
女中長に着替えや食事の準備を頼んでいた。
「グラントがケガってどういうことだ」
物音をさせたら人魚が戻ってきそうで、ジェロディは横になったまま問う。
「何日か前にウィラード卿が都に入った。
魔物の木を操っていたという話だ。かなり大きいものを。
グラントはその木とやり合って攻撃を食らった」
「魔物の木って、あれか?」
「おそらく」
それからコーマックが言いにくそうにため息をついた。
「シェリー殿下がグラントを庇ってヴァルトに随行した」
ジェロディが一瞬息を止める。
ウィラードがシェリーを連れて行く理由。
考えられるものの中に穏やかな項目がない。
「私はその翌日に辺境伯を解任になった。
今はケイレブが北の辺境伯だ。
王は今それどころではないらしくまだ任命にはいらしていない」
「それどころじゃないってなんだ。
じいさんが突然解任てなぜなんだ」
「ジャックス陛下が難癖をつけてきた。
私がみすみす違法な荷を通したと。
何か条約違反の疑いがある品が輸入されたようだ。
それよりも、早くホルスト殿下の再審議を済ませないとならない。
近くまたウィラード卿が王宮にいらっしゃる」
唖然と口を開けるジェロディにコーマックは続けた。
「私は数日後に都へ向かう。
この館は退去せよとの命令だ」
「私も一緒に行く」
ジェロディが即座に言う。
しばらく考えた後で、コーマックはそうかと答えた。
「ならばやはり今は寝ていることだ。
回復を急げ。動けなければ置いていく」
先ほど投げつけた杖を指差した。
急に思い立って始めたので色々なものを床にぶちまけた。
笑い声がして、あたりを探す。
「片付けないうちは旅立てないのよ、ジェロディ」
懐かしい人がいた。
燃えるような赤毛を横に束ねている。
いつでも希望を見ているような瞳があった。
「エリカ」
ジェロディは記憶のまま変わらないエリカに笑いかける。
「片付けなんてない。もう済んだ。
エリカの方は? 用事は終わったのか」
落ち着いた色合いのドレスを着た彼女は、なんだか一国の女王のようだ。
「終わった」
さっぱりした返事がくる。
シュトラールにいた頃に提げていた剣はもうなかった。
「だから剣は置いた?」
「そう。持つ必要がなくなったもの」
両手を開いて見せる。
小さくなったが剣胼胝があった。
「まだ振ってるな、剣」
「戦ってはいない。今いるところは平和な場所よ」
ジェロディは小首を傾げる。
そこで自分の杖がないことに気がついた。
「杖は別のところにある」
エリカが表情を察してそう教える。
「ジェロディは取りに行くべきよ」
「必要ない。今から行くところは杖なんか要らない」
そう答えたものの、どこへ行こうとしていたのか忘れていた。
エリカが辺りを窺っているジェロディの背を強く叩く。
「寝過ぎたの」
明るく力強い笑顔だ。
大柄な彼女の元気な声が間近になる。
「ジェロディはそろそろ起きなきゃ。
ほら、帰る道を教えてあげる。行きましょう」
そのまま背中をぐいぐいと押した。
また支度していたものが落ちていく。
それに気を取られた瞬間に視界が回った。
「生きて。ジェロディ。まだやることがあるから」
エリカの姿が見えない。
慌てて見回したが視界は回り続けていた。
背中を最後に一つ、押される。
「ジェロディ、目を開けて」
目が覚めて、まだ薄ぼんやりとした視界に怖い顔があった。
この世の全てを呪うように眉根を寄せてもう一度目を閉じる。
拳骨の代わりに何か重いものがそばに落ちてきた。
「いや、普通嫌だろ。なんでじいさんの顔見て目が覚めなきゃならないんだ。
少し考えろ。くそじじい」
「始終付き添ってるわけじゃない私のいる時に起きるな」
「今、いつだ」
諦めて目を開いたジェロディが尋ねる。
暦はとっくに終わっている。
冬のど真ん中まで寝ていたジェロディは弱々しく上体を起こした。
「ここ、ノルトエーデか。
子どもたちは? ケリーは? グラントはいる?」
「子どもたちはここで預かっている。
ケリーは都に一人で残った。バレットでグラントの家にいる」
そこでコーマックは言葉を切る。
ひと呼吸してから「グラントは負傷したらしい」と伝えた。
ジェロディがシーツを跳ね上げかける。
「失礼いたします」
扉が開く音がした。
トーニャの声だと思った瞬間に、ジェロディは寝台に頭を戻される。
息を吸う間もなかった。
「あら意識が戻られたのね。
喜ばしいこと、ジェロディ」
笑いを含む軽やかな声だ。
しかしその腕は有無を言わさない。
寝ていろ、と指令を下していた。
「申し訳ないのだけれど、起き上がっていいのは薬湯を召し上がる時だけ。
勝手に館を飛び出したりしたら骨を折ってでも止めますよ」
人魚の迫力に承諾するしかない。
「動かないところはあるかしら」
ジェロディの四肢に触れて動かしながらトーニャが聞いた。
随意で動くのを確かめて、いくつか質問をする。
異常はないと分かってその腕に手を添えた。
「負傷してから処置までに時間がかかったので寝付くのが長引いた。
ひとの中のことは起きてみないと分からない。
我が主に望まない結果を報告せずに済んで安心しました」
トーニャはそう言って扉の外に声をかける。
女中長に着替えや食事の準備を頼んでいた。
「グラントがケガってどういうことだ」
物音をさせたら人魚が戻ってきそうで、ジェロディは横になったまま問う。
「何日か前にウィラード卿が都に入った。
魔物の木を操っていたという話だ。かなり大きいものを。
グラントはその木とやり合って攻撃を食らった」
「魔物の木って、あれか?」
「おそらく」
それからコーマックが言いにくそうにため息をついた。
「シェリー殿下がグラントを庇ってヴァルトに随行した」
ジェロディが一瞬息を止める。
ウィラードがシェリーを連れて行く理由。
考えられるものの中に穏やかな項目がない。
「私はその翌日に辺境伯を解任になった。
今はケイレブが北の辺境伯だ。
王は今それどころではないらしくまだ任命にはいらしていない」
「それどころじゃないってなんだ。
じいさんが突然解任てなぜなんだ」
「ジャックス陛下が難癖をつけてきた。
私がみすみす違法な荷を通したと。
何か条約違反の疑いがある品が輸入されたようだ。
それよりも、早くホルスト殿下の再審議を済ませないとならない。
近くまたウィラード卿が王宮にいらっしゃる」
唖然と口を開けるジェロディにコーマックは続けた。
「私は数日後に都へ向かう。
この館は退去せよとの命令だ」
「私も一緒に行く」
ジェロディが即座に言う。
しばらく考えた後で、コーマックはそうかと答えた。
「ならばやはり今は寝ていることだ。
回復を急げ。動けなければ置いていく」
先ほど投げつけた杖を指差した。
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