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闇に寄り添い、願いを結ぶ
憂える父
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グラントが都を出たのと行き違いにメイソンが顔を出す。
申し訳ないの顔になったポーターは深く腰を折った。
「メイソン卿。せっかくお越しいただいて恐縮でございますが。
グラントはしばらくバレットに戻らないかと存じます」
王宮で騒ぎが起きてから四日目。
約束した再審議は陛下の気まぐれで終わったと話に聞いた。
メイソンはグラントの体があいた頃かと来てみたようだ。
「そうなのかい? 弱ったねえ……」
大きなため息を吐く。
誰でもいいから胸の内を吐露していきたそうな様子に応接室を勧めた。
礼を言ってメイソンは話し始める。
「実はね、長男がリケに帰りたいと言い出しちゃって」
リケの地権の顛末を聞き及んでいるバレットの家令は顎を落とした。
「ご長男さまがですか?」
「そうなんだ。誰あろう君が地権を渡してしまったんだろうって。
思うよねえ? 本当に、浅はかなことで恥ずかしいんだけれど」
「では、すぐセリッサヒルに次第を申せば……」
「それが、あちらの家令さんが頑として聞き入れないんだ。
シェリー殿下でなければもはや地権をどうすることもできないと」
「ではユーリー家にご相談を」
「行ったよ。行ったんだが、ご子息が親に腹を立てているそうだ。
とりつく島もないというか。怖くて話しかけられないというか。
そういう状況だから当人が落ち着くまでしばらく待ってくれと帰されてしまった」
目玉が落ちそうになっているポーターに、メイソンは都での家族の様子を教える。
秋の間に一度、長男は隣国のお嬢様を都に招いたのだそうだ。
とても楽しく過ごされた。
町屋敷も気に入ってもらえた。
だが、ぽつりと呟かれたのだそうだ。
リケの方が好ましい。
長男はそれは慌てた。
今からリケを買い戻せないか父に相談してきた。
職探しをしていたメイソンはこの長男のことを初めて怒鳴ろうかと。
ちょっと考えてしまった。
秋までは都が気に入っていた奥方も冬の寒さに今は耐えかねている。
末娘はずっと帰りたいと言っている。
次男はとっととクイルの兵役に参加した。
都で就職するつもりである。
国土省に確認した。
地権がすでにシェリーに渡ったなら、春までに彼女が登録を済ませなければならない。
メイソンとユーリー家の売買契約とは別物である。
リケは今シェリーのものだ。
メイソンが売買を中止したいと言う場合、ユーリー家に二倍の地代を渡して買い直すことができる。
一番費用がかからない方法は、シェリーがメイソンかユーリー家に地権を渡すこと。
メイソンとユーリー家でその後契約をどうするか話し合えばいい。
「買い戻そうにも、リケ二つ分の蓄えなんてないんだ。
どうしたものだろう……」
「ですねえ」
一緒にため息をつくことしかできない。
そんな物憂げな応接室へ報告が入った。
王様が来てるけどどうしたらいいですか。
「王……」
ポーターの思考が完全に停止する。
「ジャックス陛下かい?」
割と落ち着いた声でメイソンが確認した。
「左様です」
初めて会う貴族の男性だが、きっとグラントの知り合い。
この頃ちっとも客人におたおたしなくなったバレットの団員である。
「馬車からすでに下りてきてしまっています」
「急用なのかな?」
メイソンが一度扉から外を見た。
いきなりジャックスと目が合って驚く。
思ったより近くに来ていた。
数人で剣の練習などするための敷地へ入ってきている。
「団長がいないのは知ってるよ」
メイソンのことは覚えていないようだ。
二つ違いで、割と近くにいたのだけれど。
メイソンはとりあえずジャックスの前に進み出る。
「本日は何用でおいでに……」
膝をついて用向きを聞こうとした。
「城壁を出るなって言ったのに聞かなかったんだ。
あの子に王の命令は守らなければいけないって教えなかったのか?」
「それは、……」
グラントには事情があったのだろう。
行かなくてはならないと決めたら一人で行くことに何の抵抗もない青年だ。
「今は平時ではございません。
戦況に応じてやむを得ぬこともありますよ」
ヴァルト公爵はいつ再び来訪するか分からない。
そんな時に怒りに任せて騎士団を引き連れてここまで来た浅はかさ。
メイソンはそんな彼に長男を重ねてしまう。
誰かが必要な時に諭してやらないと、こうなってしまう。
いつまでも世界が自分を軸に回っているかのように振る舞う人間になる。
長男の行く末が急に怖くなった。
「勝手に城をあけたり、人の領地にいきなり押しかけてはいけませんよ。
陛下というのは民のお手本です」
バレットを侮っているのか。
ジャックスは未武装で来ている。
「誰も諌めないのですか。
陛下がこのように前がかっているのに」
「決定を伝えに来ただけだ。危険はないだろう」
「陛下…」
ジャックスが一歩近寄った。
突然立ち上がったメイソンが腕の外側でジャックスの顎を押しやる。
のけぞってよろけたジャックスに一言告げた。
「やり直しです」
剣なら命はないところだ。
兵士たちはジャックスの乱暴を恐れている。
一人で大丈夫だと癇癪を起こされたら従うしかなかったのだ。
メイソンはバロールの団員たちに言い放った。
「礼節は大事だ。
それに、どんなにわがままだろうと陛下である。
警護はしっかりとして差し上げねばならないよ」
穏やかな口調ながら、声はしっかりと響く。
「みんな、もう一度訪問をやり直せ。
ここはローガン王から賜った、兵団バレットの領地だろう?
無礼を働いて入ってくる者は追い返されても文句は言えない」
素早く扉の内側に入った。
「メイソン卿!?」
ポーターが目玉を押さえながら叫ぶ。
「今、何をなさいましたか!」
「ああ、そうだ。……ごめんね」
我に返った。
つい長男と重ねてしまって。
「ごめん」
「もう! どうしましょうか!」
若干パニックの家令は直立のまま動けない。
熟考した結果、メイソンはジャックスに向かっていない窓を開けた。
隣の兵舎からぽかんと見ている若い団員たちに声をかける。
「私はメイソン。騎士団ではジェロディの後輩でジャックス陛下の先輩になる。
陛下に思い出していただくために一つ矢でも射かけてくれないか」
「メイソン卿っ」
腕に取りつくポーターを一瞬だけ宥めた。
「練習を始めるのですか?」
兵舎から剣呑な声がかかる。
ラグラスから来ている青年たちが覗いていた。
愉快そうに笑っている。
「うん、そうなんだ。
ジャックス陛下に最低限の礼節がなぜ大事なのか示したい」
明るい笑い声が聞こえた。
楽しい遊びにかしらたちを誘おうと、数人が魔物の姿になって昼前の空へ飛び立つ。
「号令を! メイソン卿」
機械がセットされる音が聞こえた。
「打ち払え」
ポーターが口を塞ぐその指の隙間からメイソンが命じる。
「大将を領地の外へ後退させよ」
「了解」
レンガの弾がジャックスの少し手前に飛んでいった。
申し訳ないの顔になったポーターは深く腰を折った。
「メイソン卿。せっかくお越しいただいて恐縮でございますが。
グラントはしばらくバレットに戻らないかと存じます」
王宮で騒ぎが起きてから四日目。
約束した再審議は陛下の気まぐれで終わったと話に聞いた。
メイソンはグラントの体があいた頃かと来てみたようだ。
「そうなのかい? 弱ったねえ……」
大きなため息を吐く。
誰でもいいから胸の内を吐露していきたそうな様子に応接室を勧めた。
礼を言ってメイソンは話し始める。
「実はね、長男がリケに帰りたいと言い出しちゃって」
リケの地権の顛末を聞き及んでいるバレットの家令は顎を落とした。
「ご長男さまがですか?」
「そうなんだ。誰あろう君が地権を渡してしまったんだろうって。
思うよねえ? 本当に、浅はかなことで恥ずかしいんだけれど」
「では、すぐセリッサヒルに次第を申せば……」
「それが、あちらの家令さんが頑として聞き入れないんだ。
シェリー殿下でなければもはや地権をどうすることもできないと」
「ではユーリー家にご相談を」
「行ったよ。行ったんだが、ご子息が親に腹を立てているそうだ。
とりつく島もないというか。怖くて話しかけられないというか。
そういう状況だから当人が落ち着くまでしばらく待ってくれと帰されてしまった」
目玉が落ちそうになっているポーターに、メイソンは都での家族の様子を教える。
秋の間に一度、長男は隣国のお嬢様を都に招いたのだそうだ。
とても楽しく過ごされた。
町屋敷も気に入ってもらえた。
だが、ぽつりと呟かれたのだそうだ。
リケの方が好ましい。
長男はそれは慌てた。
今からリケを買い戻せないか父に相談してきた。
職探しをしていたメイソンはこの長男のことを初めて怒鳴ろうかと。
ちょっと考えてしまった。
秋までは都が気に入っていた奥方も冬の寒さに今は耐えかねている。
末娘はずっと帰りたいと言っている。
次男はとっととクイルの兵役に参加した。
都で就職するつもりである。
国土省に確認した。
地権がすでにシェリーに渡ったなら、春までに彼女が登録を済ませなければならない。
メイソンとユーリー家の売買契約とは別物である。
リケは今シェリーのものだ。
メイソンが売買を中止したいと言う場合、ユーリー家に二倍の地代を渡して買い直すことができる。
一番費用がかからない方法は、シェリーがメイソンかユーリー家に地権を渡すこと。
メイソンとユーリー家でその後契約をどうするか話し合えばいい。
「買い戻そうにも、リケ二つ分の蓄えなんてないんだ。
どうしたものだろう……」
「ですねえ」
一緒にため息をつくことしかできない。
そんな物憂げな応接室へ報告が入った。
王様が来てるけどどうしたらいいですか。
「王……」
ポーターの思考が完全に停止する。
「ジャックス陛下かい?」
割と落ち着いた声でメイソンが確認した。
「左様です」
初めて会う貴族の男性だが、きっとグラントの知り合い。
この頃ちっとも客人におたおたしなくなったバレットの団員である。
「馬車からすでに下りてきてしまっています」
「急用なのかな?」
メイソンが一度扉から外を見た。
いきなりジャックスと目が合って驚く。
思ったより近くに来ていた。
数人で剣の練習などするための敷地へ入ってきている。
「団長がいないのは知ってるよ」
メイソンのことは覚えていないようだ。
二つ違いで、割と近くにいたのだけれど。
メイソンはとりあえずジャックスの前に進み出る。
「本日は何用でおいでに……」
膝をついて用向きを聞こうとした。
「城壁を出るなって言ったのに聞かなかったんだ。
あの子に王の命令は守らなければいけないって教えなかったのか?」
「それは、……」
グラントには事情があったのだろう。
行かなくてはならないと決めたら一人で行くことに何の抵抗もない青年だ。
「今は平時ではございません。
戦況に応じてやむを得ぬこともありますよ」
ヴァルト公爵はいつ再び来訪するか分からない。
そんな時に怒りに任せて騎士団を引き連れてここまで来た浅はかさ。
メイソンはそんな彼に長男を重ねてしまう。
誰かが必要な時に諭してやらないと、こうなってしまう。
いつまでも世界が自分を軸に回っているかのように振る舞う人間になる。
長男の行く末が急に怖くなった。
「勝手に城をあけたり、人の領地にいきなり押しかけてはいけませんよ。
陛下というのは民のお手本です」
バレットを侮っているのか。
ジャックスは未武装で来ている。
「誰も諌めないのですか。
陛下がこのように前がかっているのに」
「決定を伝えに来ただけだ。危険はないだろう」
「陛下…」
ジャックスが一歩近寄った。
突然立ち上がったメイソンが腕の外側でジャックスの顎を押しやる。
のけぞってよろけたジャックスに一言告げた。
「やり直しです」
剣なら命はないところだ。
兵士たちはジャックスの乱暴を恐れている。
一人で大丈夫だと癇癪を起こされたら従うしかなかったのだ。
メイソンはバロールの団員たちに言い放った。
「礼節は大事だ。
それに、どんなにわがままだろうと陛下である。
警護はしっかりとして差し上げねばならないよ」
穏やかな口調ながら、声はしっかりと響く。
「みんな、もう一度訪問をやり直せ。
ここはローガン王から賜った、兵団バレットの領地だろう?
無礼を働いて入ってくる者は追い返されても文句は言えない」
素早く扉の内側に入った。
「メイソン卿!?」
ポーターが目玉を押さえながら叫ぶ。
「今、何をなさいましたか!」
「ああ、そうだ。……ごめんね」
我に返った。
つい長男と重ねてしまって。
「ごめん」
「もう! どうしましょうか!」
若干パニックの家令は直立のまま動けない。
熟考した結果、メイソンはジャックスに向かっていない窓を開けた。
隣の兵舎からぽかんと見ている若い団員たちに声をかける。
「私はメイソン。騎士団ではジェロディの後輩でジャックス陛下の先輩になる。
陛下に思い出していただくために一つ矢でも射かけてくれないか」
「メイソン卿っ」
腕に取りつくポーターを一瞬だけ宥めた。
「練習を始めるのですか?」
兵舎から剣呑な声がかかる。
ラグラスから来ている青年たちが覗いていた。
愉快そうに笑っている。
「うん、そうなんだ。
ジャックス陛下に最低限の礼節がなぜ大事なのか示したい」
明るい笑い声が聞こえた。
楽しい遊びにかしらたちを誘おうと、数人が魔物の姿になって昼前の空へ飛び立つ。
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