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米騒動
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日曜日の昼間だった。
祖父が訪れたのである。
煎餅をお土産に持ってきてくれて、チヅルはこの人が母の父であると再確認した。
米。
一緒にご飯を食べに行こうと、4人ででかけた。
チヅルが好きだと思って鰻屋に連れて行ってくれた。
孫がそこでレディースランチなんて選んだから、大変なことになった。
正直メニューの名前なんて気にしてなかった。
ただ、内容的によさそうだと思ったから。
サラダがついて、煮物の小鉢がついて、少なめの雑穀米。
とろろだって疲労回復に良さそう。
うなぎも小さい。
祖父は鰻重梅のごはん増量をどうしても頼みたがった。
僕ね、今、体重を落としてるの。
その一言で祖父と母の何かに火がついた。
「痩せたと思ったの、間違いじゃなかったんだな」
注文は鰻重になった。
祖父は心配そうにチヅルに体ごと向き直る。
「正月くらいあった方がいい。
今までで1番良い字が書けたのに」
「体重と関係ないよ、多分」
ぐい、と押し付けられた独善を押し返した。
「チヅルは今、同級生の女の子と毎朝走ってるの。
もう一か月くらい?」
母がその情報を祖父に渡す。
真っ白な薄毛の頭皮が色づいていった。
あーなんかメンドー。
みるみるうちに汗まで浮かんでくる。
「お母さん、その情報いらなかった」
小さくつぶやいたが、祖父の声の方が大きかった。
「痩せたいって、その女子のため?」
「違うよ。痩せたいから一緒に走ってくれるってお願いしたの。
陸上部で中距離やってる人」
「正月だって太ってなかったと思うよ?おじいちゃんは」
この人もぽっちゃりを愛してやまないらしい。
「おばあちゃんが早くに死んだのは、痩せてたからだ。
チヅルはもっと食べて太りなさい」
死んだおばあちゃんを出すのはずるいと思う。
祖母は関係ない上に、祖母の本音は聞けないのだから。
「チヅルは今の方が健康的でかっこいいと思うよ」
立上家で1番の愛されぽっちゃり、父が言った。
それはとても珍かなことである。
母と祖父は、推しぽっちゃりさんの言葉に目をむいた。
「かっこよくなくたって、チヅルは良いんです」
それは母の決めることではなかったが。
「正月の方が健康に見えた」
その時は学校行ってなかったよ。
母と祖父に、目を伏せながら反論を思い浮かべる。
いじめてると言われ、即座にしてない、と切り返していたヒスイ。
彼女みたいな性格ならこんな時どんなにいいか。
結局頑張ってごはんは食べた。
300gはあったんじゃないか。
なんだろう、これ。
泣きたい。
ひーさんにも申し訳ない。
「晩ごはんは軽めにしようね」
父の言葉がすっと入ってきて、泣きかけのチヅルは我に返る。
あ、そうか。
チヅルは気を取り直した。
その後も祖父と母はごはんとチヅルの体重のことを話していた。
ガリガリに痩せたいんじゃない。
ただもとのようになりたいだけなのに。
チヅルと父はよく似ている。
だけど、体型まで一緒じゃなくてよくない?
チヅルにはチヅルの思いがある。
なのに押し返しても押し返しても押し付けられる余計なお世話。
チヅルは辟易とした胃を押さえた。
晩ご飯に母は明らかに大変な量のご飯を炊いた。
「僕、今日の晩御飯にお米はいらない」
思い切って言った。
母は生死に関わる宣告でも受けたような表情をする。
「こんなに炊く方がお米の無駄遣いだよ」
母は痩せているけれど、結構食べる。
ご飯に関しては父より食べる。
だから元気でいられるって本気で思ってる。
「3人で食べる分だけ炊いてよ。
食べさせたい分じゃなくてさ」
「食べられるでしょ、チヅル」
母はひかない。
祖父にチヅルが痩せたと言われて焦っているようだ。
家族を痩せさせてはならない。
それが母の使命だ。
「ね、僕、ただでさえいろいろ言われるの。
おじいちゃんが書道の偉い人だからいい賞もらえるってのは当たり前。
お母さんが書道の先生だから校内でも賞取ってるとか。
そんなこと言われるのは当たり前なの。
僕はおじいちゃんに贔屓されてない確信があるから。
だからそれは無視できるよ。
でも今年は、太ってるから周りに迷惑かけて集中させなかったって。
そう言われたの。
僕が太ってることで周りの子が迷惑に感じたってことは。
それは自分では否定できないもん。
だから、もう余計なこと言われないように体重落として大会に出たいの。
今のままだと自信もって座れないの」
「そんなこと…」
母は不満そうだった。
最近、チヅルは背がひと月に1cmずつ伸びている。
体重を増やさないようにするだけで痩せていくように見えた。
加えてこのところのジョギングはヒスイのおかげで続いている。
彼女の影響で更に筋トレまで始めてしまった。
親の方が変化に置き去りにされている。
チヅルの母にとっては、昨日まで聞き分けのいいチヅルだった。
心配しているのを察知して、言うことを聞いてくれる子だった。
「だから今日の晩ご飯にお米は食べない」
もう少し押したら、チヅルが折れてくれる。
彼女の中にはそんな考えがあった。
それはチヅルに甘えていることでもあると奥底でがわかっている。
「お米食べないのはダメ。余計太るって言うじゃない」
その言葉にチヅルは俯いた。
母には通じない。
チヅルのこうしたいが通じない。
昼間食べすぎた胃がまだ重たかった。
チヅルは黙々と晩ご飯をいただいた。
多分200g以上あるごはんと、揚げ物。
野菜が少ないのは、言い合いしてしまって時間が足りなかったせい。
1kg近く体重が増えていて、チヅルは悲しくなった。
月曜日から休みたくなかったが、どうしても体が重かった。
ごはんが苦しい。
祖父が訪れたのである。
煎餅をお土産に持ってきてくれて、チヅルはこの人が母の父であると再確認した。
米。
一緒にご飯を食べに行こうと、4人ででかけた。
チヅルが好きだと思って鰻屋に連れて行ってくれた。
孫がそこでレディースランチなんて選んだから、大変なことになった。
正直メニューの名前なんて気にしてなかった。
ただ、内容的によさそうだと思ったから。
サラダがついて、煮物の小鉢がついて、少なめの雑穀米。
とろろだって疲労回復に良さそう。
うなぎも小さい。
祖父は鰻重梅のごはん増量をどうしても頼みたがった。
僕ね、今、体重を落としてるの。
その一言で祖父と母の何かに火がついた。
「痩せたと思ったの、間違いじゃなかったんだな」
注文は鰻重になった。
祖父は心配そうにチヅルに体ごと向き直る。
「正月くらいあった方がいい。
今までで1番良い字が書けたのに」
「体重と関係ないよ、多分」
ぐい、と押し付けられた独善を押し返した。
「チヅルは今、同級生の女の子と毎朝走ってるの。
もう一か月くらい?」
母がその情報を祖父に渡す。
真っ白な薄毛の頭皮が色づいていった。
あーなんかメンドー。
みるみるうちに汗まで浮かんでくる。
「お母さん、その情報いらなかった」
小さくつぶやいたが、祖父の声の方が大きかった。
「痩せたいって、その女子のため?」
「違うよ。痩せたいから一緒に走ってくれるってお願いしたの。
陸上部で中距離やってる人」
「正月だって太ってなかったと思うよ?おじいちゃんは」
この人もぽっちゃりを愛してやまないらしい。
「おばあちゃんが早くに死んだのは、痩せてたからだ。
チヅルはもっと食べて太りなさい」
死んだおばあちゃんを出すのはずるいと思う。
祖母は関係ない上に、祖母の本音は聞けないのだから。
「チヅルは今の方が健康的でかっこいいと思うよ」
立上家で1番の愛されぽっちゃり、父が言った。
それはとても珍かなことである。
母と祖父は、推しぽっちゃりさんの言葉に目をむいた。
「かっこよくなくたって、チヅルは良いんです」
それは母の決めることではなかったが。
「正月の方が健康に見えた」
その時は学校行ってなかったよ。
母と祖父に、目を伏せながら反論を思い浮かべる。
いじめてると言われ、即座にしてない、と切り返していたヒスイ。
彼女みたいな性格ならこんな時どんなにいいか。
結局頑張ってごはんは食べた。
300gはあったんじゃないか。
なんだろう、これ。
泣きたい。
ひーさんにも申し訳ない。
「晩ごはんは軽めにしようね」
父の言葉がすっと入ってきて、泣きかけのチヅルは我に返る。
あ、そうか。
チヅルは気を取り直した。
その後も祖父と母はごはんとチヅルの体重のことを話していた。
ガリガリに痩せたいんじゃない。
ただもとのようになりたいだけなのに。
チヅルと父はよく似ている。
だけど、体型まで一緒じゃなくてよくない?
チヅルにはチヅルの思いがある。
なのに押し返しても押し返しても押し付けられる余計なお世話。
チヅルは辟易とした胃を押さえた。
晩ご飯に母は明らかに大変な量のご飯を炊いた。
「僕、今日の晩御飯にお米はいらない」
思い切って言った。
母は生死に関わる宣告でも受けたような表情をする。
「こんなに炊く方がお米の無駄遣いだよ」
母は痩せているけれど、結構食べる。
ご飯に関しては父より食べる。
だから元気でいられるって本気で思ってる。
「3人で食べる分だけ炊いてよ。
食べさせたい分じゃなくてさ」
「食べられるでしょ、チヅル」
母はひかない。
祖父にチヅルが痩せたと言われて焦っているようだ。
家族を痩せさせてはならない。
それが母の使命だ。
「ね、僕、ただでさえいろいろ言われるの。
おじいちゃんが書道の偉い人だからいい賞もらえるってのは当たり前。
お母さんが書道の先生だから校内でも賞取ってるとか。
そんなこと言われるのは当たり前なの。
僕はおじいちゃんに贔屓されてない確信があるから。
だからそれは無視できるよ。
でも今年は、太ってるから周りに迷惑かけて集中させなかったって。
そう言われたの。
僕が太ってることで周りの子が迷惑に感じたってことは。
それは自分では否定できないもん。
だから、もう余計なこと言われないように体重落として大会に出たいの。
今のままだと自信もって座れないの」
「そんなこと…」
母は不満そうだった。
最近、チヅルは背がひと月に1cmずつ伸びている。
体重を増やさないようにするだけで痩せていくように見えた。
加えてこのところのジョギングはヒスイのおかげで続いている。
彼女の影響で更に筋トレまで始めてしまった。
親の方が変化に置き去りにされている。
チヅルの母にとっては、昨日まで聞き分けのいいチヅルだった。
心配しているのを察知して、言うことを聞いてくれる子だった。
「だから今日の晩ご飯にお米は食べない」
もう少し押したら、チヅルが折れてくれる。
彼女の中にはそんな考えがあった。
それはチヅルに甘えていることでもあると奥底でがわかっている。
「お米食べないのはダメ。余計太るって言うじゃない」
その言葉にチヅルは俯いた。
母には通じない。
チヅルのこうしたいが通じない。
昼間食べすぎた胃がまだ重たかった。
チヅルは黙々と晩ご飯をいただいた。
多分200g以上あるごはんと、揚げ物。
野菜が少ないのは、言い合いしてしまって時間が足りなかったせい。
1kg近く体重が増えていて、チヅルは悲しくなった。
月曜日から休みたくなかったが、どうしても体が重かった。
ごはんが苦しい。
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