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北の大地の娘
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「ユリウスがナーシャと同じ病にかかったというのは本当か?!」
ゲオルグ・マルティス伯爵の発言はスウォルト家の空気を一瞬で凍りつかせた。
ベルシアが不快な物を見る目つきで睨んでいる。
サラは幼い頃に数回出会っただけの叔父の姿に驚き、言葉を失くしていた。
使用人たちの反応も若干戸惑いが優っているように見える。
唯一、免疫力のある実弟カールハインツが苦笑いする。
直球発言は相変わらずだ─。
兄ゲオルグは昔から好奇心旺盛な人だった。スウォルトのような田舎では新しい知識がないを得られないと嘆いていた。
6歳下の弟が生まれるとあっさりと家督を譲り、現在は首都アルスにある王立研究所で研究に明け暮れている。
スウォルト家は代々金髪の家系なのだが、ゲオルグの髪は色素が薄く年々白く変色していく。
その容姿と言動から北の変わり者、と揶揄する輩も少なくない。
ユリウスの容態が医師でも分からないと知った時、博識に長けた兄の顔が浮かんだ。
首都アルスで暮らす兄がスウォルトに居ると知り、迷う事なく使いを出した。
間も無く雪解けの時期が来る。吹雪の頃より道は通りやすくなっているとはいえ、まさか夜に訪れるとは思わなかったが。
ゲオルグは立ち竦む使用人達を無視し、ユリウスの部屋へと足を踏み入れる。
ベッドの上には眠り続けるユリウスがいた。
「意識が戻らないのか?」
淡々とした口調で呟いた。
直接答えるのを躊躇した使用人たちが顔を見合わせる。
「今日で2日目です」
「兄上にはどう見えますか?」
サラとカールハインツはベッドの傍に立つゲオルグをじっと見つめた。
「ナーシャとは、違うっぽいな」
ほっとした安堵の吐息が数人から漏れた。
ただゲオルグはずっと険しい表情をしている。
「肺を患ってるとも考えにくい。高熱と意識不明なんて症状は聞いたことがない」
気温の低いスウォルトの地では肺を患う病は多い。
冷たい空気が肺に負担になるのだと医者が言っていた。体力の低下も抵抗力を奪う。
今のユリウスに肺病の典型的な症状は見られない。
ゲオルグの見解も昨日の医者と同じようだった。
「それじゃあユリウスは…」
サラの頭に最悪の顛末が浮かんで、不安げな表情になる。
「まだやる事はある。高熱を長引かせるな。頭に負担がかかる。出来るだけ熱は冷ますように。あとは…」
一瞬考え込んでゲオルグの動きが止まる。
くるりと振り向き、カールハインツの顔を睨むように見つめた。
「やれる事はやって良いか?」
短い確認。
遅れて入ってきたベルシアは扉の前付近で2人の兄弟の真剣な表情にぎゅっと手を握りしめた。
肺の病で亡くなったナーシャ…
それぞれが、それぞれの立場で自分を責めた。痩せ細っていく彼女にしてやれる事は本当にもうなかったのだろうか。
「兄上にお任せします」
スウォルト伯は頭を下げた。
明日の昼までに戻るといって、ゲオルグは再び雪道を帰って行った。
良くも悪くも、むしろ嵐のような来訪だった。
ゲオルグ・マルティス伯爵の発言はスウォルト家の空気を一瞬で凍りつかせた。
ベルシアが不快な物を見る目つきで睨んでいる。
サラは幼い頃に数回出会っただけの叔父の姿に驚き、言葉を失くしていた。
使用人たちの反応も若干戸惑いが優っているように見える。
唯一、免疫力のある実弟カールハインツが苦笑いする。
直球発言は相変わらずだ─。
兄ゲオルグは昔から好奇心旺盛な人だった。スウォルトのような田舎では新しい知識がないを得られないと嘆いていた。
6歳下の弟が生まれるとあっさりと家督を譲り、現在は首都アルスにある王立研究所で研究に明け暮れている。
スウォルト家は代々金髪の家系なのだが、ゲオルグの髪は色素が薄く年々白く変色していく。
その容姿と言動から北の変わり者、と揶揄する輩も少なくない。
ユリウスの容態が医師でも分からないと知った時、博識に長けた兄の顔が浮かんだ。
首都アルスで暮らす兄がスウォルトに居ると知り、迷う事なく使いを出した。
間も無く雪解けの時期が来る。吹雪の頃より道は通りやすくなっているとはいえ、まさか夜に訪れるとは思わなかったが。
ゲオルグは立ち竦む使用人達を無視し、ユリウスの部屋へと足を踏み入れる。
ベッドの上には眠り続けるユリウスがいた。
「意識が戻らないのか?」
淡々とした口調で呟いた。
直接答えるのを躊躇した使用人たちが顔を見合わせる。
「今日で2日目です」
「兄上にはどう見えますか?」
サラとカールハインツはベッドの傍に立つゲオルグをじっと見つめた。
「ナーシャとは、違うっぽいな」
ほっとした安堵の吐息が数人から漏れた。
ただゲオルグはずっと険しい表情をしている。
「肺を患ってるとも考えにくい。高熱と意識不明なんて症状は聞いたことがない」
気温の低いスウォルトの地では肺を患う病は多い。
冷たい空気が肺に負担になるのだと医者が言っていた。体力の低下も抵抗力を奪う。
今のユリウスに肺病の典型的な症状は見られない。
ゲオルグの見解も昨日の医者と同じようだった。
「それじゃあユリウスは…」
サラの頭に最悪の顛末が浮かんで、不安げな表情になる。
「まだやる事はある。高熱を長引かせるな。頭に負担がかかる。出来るだけ熱は冷ますように。あとは…」
一瞬考え込んでゲオルグの動きが止まる。
くるりと振り向き、カールハインツの顔を睨むように見つめた。
「やれる事はやって良いか?」
短い確認。
遅れて入ってきたベルシアは扉の前付近で2人の兄弟の真剣な表情にぎゅっと手を握りしめた。
肺の病で亡くなったナーシャ…
それぞれが、それぞれの立場で自分を責めた。痩せ細っていく彼女にしてやれる事は本当にもうなかったのだろうか。
「兄上にお任せします」
スウォルト伯は頭を下げた。
明日の昼までに戻るといって、ゲオルグは再び雪道を帰って行った。
良くも悪くも、むしろ嵐のような来訪だった。
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