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本編
サラ、髪を切る
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「わ、私たち…大事な所が抜け落ちていましたね…サラ様とユリウス様はお顔が同じだから大丈夫だとばかり…」
「私もよ、ドリス。細かい事全然考えてなかったわ…」
サラ の宿泊用に準備された部屋。
シーツを切り取ったという亜麻で出来た布をティアナから譲り受けた。
ドリスが慣れない手つきで細長い布をサラの胸に巻いている。
実際、言うほどの凹凸はないのだけれど…。
「はっ!『私たち』だなんて、サラ様を巻きこんでしまって申し訳ありませんっっ」
「いや、そんなに気にしなくても…っというか、き、きつい…ドリス…」
「キャーッ申し訳ありませんっっ!」
スウォルト家で見るドリスは真面目な子だと思っていたけれど…結構慌てん坊なのね。
サラは苦笑しながら自分より年上の侍女ドリスを興味深い目で眺めた。
─コンコン。
うっすら汗をかいたドリスがようやく布を巻き終え一息ついた頃。
「サラ、入るわよ」
ティアナが何かを両手で握りしめながら部屋に入ってきた。
シャツのボタンを留めていたサラの手が止まる。
「ティアナ、それは…何?」
「今から貴方の髪を切るわ」
ティアナの持つ鋏が鈍く光ったような気がした。
「…っ! お待ちくださいティアナ様っ。かかか髪を切るだなんて…そこまでしなくてもっ」
身を縮め恐縮した格好でドリスがサラを庇うように前に出る。
「下がりなさい」
邪魔者を見るような目でドリスを一瞥し、ティアナはサラの正面に立つ。
「本当に貴方たちは呑気ね。田舎のスウォルトじゃ周りに10人位しか居ないだろうけど…
貴方がこれから向かうのは王都よ。何百人、何千人と人がいるわ。
大勢の中で男性として見せなくてはいけないのよ」
「えっと…20人位かな」
「気にするのはそこじゃなくて!」
スウォルト家の人数を訂正するサラに真面目に突っ込みを入れ、ティアナは表情を曇らせた。
「サラとユリウスは双子なのだから顔はそっくりよ。でも一般的に長い髪は女性として見えてしまうわ」
冷静に第三者から見るとそうなのだろう…。
頬の筋肉が緊張するのをサラは自覚した。
「私だって女の子の大事な髪の毛を切るなんて嫌…。
サラがユリウスとして王都で過ごすつもりなら髪を切りなさい」
それだけの覚悟を見せなさい、と告げたティアナの唇は僅かに震えていた。
この世界において、髪は女の命と例えられるように女性らしさの象徴として意味を持つ。
美しく長い髪はより魅力的に女性を輝かせる。
サラも腰の辺りまで伸ばしていて、父親やユリウスからサラの髪は綺麗だと褒められていた。
髪を結んで男物の服を着ればユリウスに見えるという自信があった。
サラはそんな自分を恥じた。
世界を選んだ時から、私は約束された平穏や安定のない道を進まなくちゃいけない…。
「…切る」
ドリスが絶句し口元を両手で覆った。
ティアナの瞳が一瞬揺れる。
「私に任せてちょうだい」
悪いようにはしないわ、呟いたティアナが控えていた侍女に合図を送る。
侍女たちによって椅子に座らされ、マントのように布でくるまれてサラは身動きが取れなくなった。
ティアナは持っていた鋏を細目の侍女に手渡した。
素早く髪の毛が数束にかき分けられ、耳元で刃物が髪を切り落とす音がする。
ふわりと金色の長い髪が床に落ちた。
あぁ……
こだわっているつもりはなかったけど、やっぱり少し寂しくて。
髪を切られている間、サラはぎゅっと目を閉じた。
◆
「まるでこの場にユリウス様がいらっしゃるようです…!」
ドリスが目元を拭いながら感嘆の声を上げた。
肩に触れる程度にバッサリ切られた髪が頬に当たってくすぐったくて
サラはぎこちなく笑った。
背中には三つに編まれた長い髪がゆらりと揺れる。
「外側の髪の毛を切らせてもらったわ。内側を残したからドレスを着た時はまとめ髪に出来るし
サラに戻った時困らないと思うけど…」
ティアナはやや距離を置き、サラの出来栄えをチェックする。
「編み込んだ髪を内側でまとめて留めて頂くと隠せると思います」
細目の侍女が実際にやってみせながらドリスに説明してくれた。
「助かったよ、ティアナ」
ユリウスを口調を真似ながら、少しだけ低めの声でティアナに微笑むと。
ティアナの頬がほんの少し赤く染まったような気がした。
「私もよ、ドリス。細かい事全然考えてなかったわ…」
サラ の宿泊用に準備された部屋。
シーツを切り取ったという亜麻で出来た布をティアナから譲り受けた。
ドリスが慣れない手つきで細長い布をサラの胸に巻いている。
実際、言うほどの凹凸はないのだけれど…。
「はっ!『私たち』だなんて、サラ様を巻きこんでしまって申し訳ありませんっっ」
「いや、そんなに気にしなくても…っというか、き、きつい…ドリス…」
「キャーッ申し訳ありませんっっ!」
スウォルト家で見るドリスは真面目な子だと思っていたけれど…結構慌てん坊なのね。
サラは苦笑しながら自分より年上の侍女ドリスを興味深い目で眺めた。
─コンコン。
うっすら汗をかいたドリスがようやく布を巻き終え一息ついた頃。
「サラ、入るわよ」
ティアナが何かを両手で握りしめながら部屋に入ってきた。
シャツのボタンを留めていたサラの手が止まる。
「ティアナ、それは…何?」
「今から貴方の髪を切るわ」
ティアナの持つ鋏が鈍く光ったような気がした。
「…っ! お待ちくださいティアナ様っ。かかか髪を切るだなんて…そこまでしなくてもっ」
身を縮め恐縮した格好でドリスがサラを庇うように前に出る。
「下がりなさい」
邪魔者を見るような目でドリスを一瞥し、ティアナはサラの正面に立つ。
「本当に貴方たちは呑気ね。田舎のスウォルトじゃ周りに10人位しか居ないだろうけど…
貴方がこれから向かうのは王都よ。何百人、何千人と人がいるわ。
大勢の中で男性として見せなくてはいけないのよ」
「えっと…20人位かな」
「気にするのはそこじゃなくて!」
スウォルト家の人数を訂正するサラに真面目に突っ込みを入れ、ティアナは表情を曇らせた。
「サラとユリウスは双子なのだから顔はそっくりよ。でも一般的に長い髪は女性として見えてしまうわ」
冷静に第三者から見るとそうなのだろう…。
頬の筋肉が緊張するのをサラは自覚した。
「私だって女の子の大事な髪の毛を切るなんて嫌…。
サラがユリウスとして王都で過ごすつもりなら髪を切りなさい」
それだけの覚悟を見せなさい、と告げたティアナの唇は僅かに震えていた。
この世界において、髪は女の命と例えられるように女性らしさの象徴として意味を持つ。
美しく長い髪はより魅力的に女性を輝かせる。
サラも腰の辺りまで伸ばしていて、父親やユリウスからサラの髪は綺麗だと褒められていた。
髪を結んで男物の服を着ればユリウスに見えるという自信があった。
サラはそんな自分を恥じた。
世界を選んだ時から、私は約束された平穏や安定のない道を進まなくちゃいけない…。
「…切る」
ドリスが絶句し口元を両手で覆った。
ティアナの瞳が一瞬揺れる。
「私に任せてちょうだい」
悪いようにはしないわ、呟いたティアナが控えていた侍女に合図を送る。
侍女たちによって椅子に座らされ、マントのように布でくるまれてサラは身動きが取れなくなった。
ティアナは持っていた鋏を細目の侍女に手渡した。
素早く髪の毛が数束にかき分けられ、耳元で刃物が髪を切り落とす音がする。
ふわりと金色の長い髪が床に落ちた。
あぁ……
こだわっているつもりはなかったけど、やっぱり少し寂しくて。
髪を切られている間、サラはぎゅっと目を閉じた。
◆
「まるでこの場にユリウス様がいらっしゃるようです…!」
ドリスが目元を拭いながら感嘆の声を上げた。
肩に触れる程度にバッサリ切られた髪が頬に当たってくすぐったくて
サラはぎこちなく笑った。
背中には三つに編まれた長い髪がゆらりと揺れる。
「外側の髪の毛を切らせてもらったわ。内側を残したからドレスを着た時はまとめ髪に出来るし
サラに戻った時困らないと思うけど…」
ティアナはやや距離を置き、サラの出来栄えをチェックする。
「編み込んだ髪を内側でまとめて留めて頂くと隠せると思います」
細目の侍女が実際にやってみせながらドリスに説明してくれた。
「助かったよ、ティアナ」
ユリウスを口調を真似ながら、少しだけ低めの声でティアナに微笑むと。
ティアナの頬がほんの少し赤く染まったような気がした。
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