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本編
新しい友達
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「女の子は東館、男は西館に分かれているので、くれぐれも勝手な行き来はしないように。中央には管理室と食堂があって…」
フェリクスが新入生であるティアナとサラを丁寧に案内してくれたが、サラの頭の中は初めての王都に興奮しきりだった。
(なんて近代的なのかしら!)
スウォルトは自然に囲まれた家だったので、自給自足・必要なものだけを作って生活していた。
ところが王都の道路はきちんと整備されていて、馬車が揺れない。
人々が行き交う街は賑やかで華やかで花があちこちで咲き乱れていて。
建物は豪華で美しく…隙間風も吹かない完璧な設計!
フェリクス寮長の無駄のない所作が、都会の貴族らしい雰囲気を醸し出していた。
「女の子」「男」と呼び方を変えて言う所が、女性を大切にしてくれてる紳士っぽくて素晴らしい!
サラはフェリクスを眺めながら、自分もフェリクスのような紳士になろうと決意した。
「ユリウス、何か質問はある?」
何もかもが目新しく、自制出来ずあちこちを眺めてしまうサラに、フェリクスはくすっと笑いながら声をかける。
(しまった、田舎者丸出しだわ…)
ティアナからじとっとした視線を感じながら、慌てて平静を装ったが言葉が出てこなかった。
何か気品のある言葉を…そう思うのだけれど出てこない。
サラは取り繕うのをやめた。
「あまりに綺麗でびっくりしました」
がくっとティアナが肩を落とす。
いや、だって仕方ないしね。スウォルトより都会を見るのはこの世界で初めてだったんですもの。
社会見学しているような気持ちになってへらっと笑うと、フェリクスも笑みを返してくれた。
「分からないことがあったらいつでも質問して。僕は2階の寮長室に居るからいつでもどうぞ」
フェリクスは最後に新入生の部屋へと案内し、自室に戻っていった。
ユリウスの部屋は1階の奥に準備されていた。
部屋は広く、寝室とリビングと侍従者用の部屋とお風呂がついている。
各部屋にお風呂がついているなんてほんと豪華すぎる…。
寮内をもっと色々見て回りたかったが、長旅で疲れていたので夕飯を食べずそのまま寝てしまった。
胸に巻いていた布は苦しかったのでベッドの上で外した。
◆
──翌朝。
ドリスに再び布を胸に巻いてもらい、真新しい制服のシャツに袖を通す。
シャツ+ベスト+リボンタイにブレザーを羽織るとサラも立派な王立学院基礎科の生徒になる。
髪はドリスが丁寧に編み直し、見えないように後頭部にピンで留めてまとめてくれた。
ここからはドリスと別れ一人で学校に行かなくてはならないのね…。
ドリスを見ればサラ以上に緊張していて、ふっと笑ってしまった。
「…ドリスは私の分身みたいだわ」
働き者の侍女の手をそっと握り持ち上げる。
「サラ様…?」
「ドリスがこうして緊張したり泣いたり困ったりしてくれるから、私はその分強くなれる気がする。
すべて神様のお導きね。心置きなく頑張れそう」
「もももったいないお言葉を…。私はずっとお仕えし始めた頃からサラ様一筋なだけで…っ」
「ありがとうドリス……」
握った手に力をこめた。くっと目に力を入れて前を見据える。
「…行ってくる」
くるりと踵を返し、振り返らず部屋を出た。
◆
新入生はAクラスとBクラスに分けられた。
クラス分けは「入学願書到着順」とのことらしい。
王都在住者は願書をすぐに提出してAクラス。
遠方の貴族は通達~願書提出まで時間がかかりBクラス。
貴族社会では早く正確に情報を扱えるかが重要となる。取引や信用に繋がるからだ。
王都在住のAクラスの生徒達は早くもBクラス=田舎貴族として、見下すような視線に変わっていた。
一方、BクラスはAクラスとの差を敏感に察知する者、不穏な空気だけ感じる者、全く気にする様子の無い者と反応は様々である。
「はぁ~緊張するなー」
重い空気を破る明るい声にサラは振り返った。
サラと同じ位の背丈をした男子生徒と目が合う。
「こんなにさ、同じ歳の貴族がこんな大勢集まるってすごくない?」
そこに緊張…?! サラは発想の面白さに吹き出した。
「この偶然は…皆兄弟と思っていいのかな」
真面目な顔してニコラスが腕を組む。
「いや、それは違うと思うけど…でも縁は感じるかも」
「うん、それだ!これって縁だわ。オレはニコラス・ファネル。よろしく」
「僕はユリウス・スウォルト」
ニコラスはスウォルトと聞いて怪訝そうに眉を寄せた。
「スウォルト…?って、雪男や狼男が住んでる、北の大地?」
「…いや、雪男も狼男も住んでないから」
まさか本当に噂話を信じてる人がいるなんて…。サラは真顔で否定した。
「うぉっマジかー!」
「おい、うるさいぞニコラス」
ニコラスの頭の上から低い声がして、ごつんと拳が頭に落ちた。
「いって…、あ、こいつレオナルド・エヴァンスね」
「おい、勝手に俺の自己紹介するなっ」
「僕はユリウス・スウォルト。よろしく」
サラが笑顔で挨拶すると、レオナルドがぴくっと反応した。
「スウォルト…って、まさか……」
エヴァンス…残念だけど雪男居ないからね。
◆
人懐っこいニコラスのおかげで入学初日からサラに2人の友達が出来た。
ニコラス・ファネル、14歳。
短めの栗毛が特徴のシェルンに住むファネル家の次男坊。
レオナルド・エヴァンス、14歳。
赤毛、長身でニコラスと同じシェルンに住むエヴァンス家の長男。
同い年が集まるのって、本当にすごい縁だわ…。
サラはニコラスの言葉を噛み締めながら、ドリスの待つ寮へ笑顔で帰った。
フェリクスが新入生であるティアナとサラを丁寧に案内してくれたが、サラの頭の中は初めての王都に興奮しきりだった。
(なんて近代的なのかしら!)
スウォルトは自然に囲まれた家だったので、自給自足・必要なものだけを作って生活していた。
ところが王都の道路はきちんと整備されていて、馬車が揺れない。
人々が行き交う街は賑やかで華やかで花があちこちで咲き乱れていて。
建物は豪華で美しく…隙間風も吹かない完璧な設計!
フェリクス寮長の無駄のない所作が、都会の貴族らしい雰囲気を醸し出していた。
「女の子」「男」と呼び方を変えて言う所が、女性を大切にしてくれてる紳士っぽくて素晴らしい!
サラはフェリクスを眺めながら、自分もフェリクスのような紳士になろうと決意した。
「ユリウス、何か質問はある?」
何もかもが目新しく、自制出来ずあちこちを眺めてしまうサラに、フェリクスはくすっと笑いながら声をかける。
(しまった、田舎者丸出しだわ…)
ティアナからじとっとした視線を感じながら、慌てて平静を装ったが言葉が出てこなかった。
何か気品のある言葉を…そう思うのだけれど出てこない。
サラは取り繕うのをやめた。
「あまりに綺麗でびっくりしました」
がくっとティアナが肩を落とす。
いや、だって仕方ないしね。スウォルトより都会を見るのはこの世界で初めてだったんですもの。
社会見学しているような気持ちになってへらっと笑うと、フェリクスも笑みを返してくれた。
「分からないことがあったらいつでも質問して。僕は2階の寮長室に居るからいつでもどうぞ」
フェリクスは最後に新入生の部屋へと案内し、自室に戻っていった。
ユリウスの部屋は1階の奥に準備されていた。
部屋は広く、寝室とリビングと侍従者用の部屋とお風呂がついている。
各部屋にお風呂がついているなんてほんと豪華すぎる…。
寮内をもっと色々見て回りたかったが、長旅で疲れていたので夕飯を食べずそのまま寝てしまった。
胸に巻いていた布は苦しかったのでベッドの上で外した。
◆
──翌朝。
ドリスに再び布を胸に巻いてもらい、真新しい制服のシャツに袖を通す。
シャツ+ベスト+リボンタイにブレザーを羽織るとサラも立派な王立学院基礎科の生徒になる。
髪はドリスが丁寧に編み直し、見えないように後頭部にピンで留めてまとめてくれた。
ここからはドリスと別れ一人で学校に行かなくてはならないのね…。
ドリスを見ればサラ以上に緊張していて、ふっと笑ってしまった。
「…ドリスは私の分身みたいだわ」
働き者の侍女の手をそっと握り持ち上げる。
「サラ様…?」
「ドリスがこうして緊張したり泣いたり困ったりしてくれるから、私はその分強くなれる気がする。
すべて神様のお導きね。心置きなく頑張れそう」
「もももったいないお言葉を…。私はずっとお仕えし始めた頃からサラ様一筋なだけで…っ」
「ありがとうドリス……」
握った手に力をこめた。くっと目に力を入れて前を見据える。
「…行ってくる」
くるりと踵を返し、振り返らず部屋を出た。
◆
新入生はAクラスとBクラスに分けられた。
クラス分けは「入学願書到着順」とのことらしい。
王都在住者は願書をすぐに提出してAクラス。
遠方の貴族は通達~願書提出まで時間がかかりBクラス。
貴族社会では早く正確に情報を扱えるかが重要となる。取引や信用に繋がるからだ。
王都在住のAクラスの生徒達は早くもBクラス=田舎貴族として、見下すような視線に変わっていた。
一方、BクラスはAクラスとの差を敏感に察知する者、不穏な空気だけ感じる者、全く気にする様子の無い者と反応は様々である。
「はぁ~緊張するなー」
重い空気を破る明るい声にサラは振り返った。
サラと同じ位の背丈をした男子生徒と目が合う。
「こんなにさ、同じ歳の貴族がこんな大勢集まるってすごくない?」
そこに緊張…?! サラは発想の面白さに吹き出した。
「この偶然は…皆兄弟と思っていいのかな」
真面目な顔してニコラスが腕を組む。
「いや、それは違うと思うけど…でも縁は感じるかも」
「うん、それだ!これって縁だわ。オレはニコラス・ファネル。よろしく」
「僕はユリウス・スウォルト」
ニコラスはスウォルトと聞いて怪訝そうに眉を寄せた。
「スウォルト…?って、雪男や狼男が住んでる、北の大地?」
「…いや、雪男も狼男も住んでないから」
まさか本当に噂話を信じてる人がいるなんて…。サラは真顔で否定した。
「うぉっマジかー!」
「おい、うるさいぞニコラス」
ニコラスの頭の上から低い声がして、ごつんと拳が頭に落ちた。
「いって…、あ、こいつレオナルド・エヴァンスね」
「おい、勝手に俺の自己紹介するなっ」
「僕はユリウス・スウォルト。よろしく」
サラが笑顔で挨拶すると、レオナルドがぴくっと反応した。
「スウォルト…って、まさか……」
エヴァンス…残念だけど雪男居ないからね。
◆
人懐っこいニコラスのおかげで入学初日からサラに2人の友達が出来た。
ニコラス・ファネル、14歳。
短めの栗毛が特徴のシェルンに住むファネル家の次男坊。
レオナルド・エヴァンス、14歳。
赤毛、長身でニコラスと同じシェルンに住むエヴァンス家の長男。
同い年が集まるのって、本当にすごい縁だわ…。
サラはニコラスの言葉を噛み締めながら、ドリスの待つ寮へ笑顔で帰った。
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