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本編
文化祭1
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「今日はですね、2週間後に迫った王立学院文化祭の出し物を決めたいと思います」
Bクラス担任、ケリー先生がにこやかに告げた。
「昨年は何をされたのですか?」
級長のティアナが手を挙げる。
「内容は毎年ダンスだね。これをいかに面白楽しく発表するか中身が大切です」
面白楽しく…クラスがざわざわした。
ケリー先生はにこにこと笑顔を絶やさない。
王族出身のケリー先生は現在Bクラスの担任教師をやっている。
初めて聞かされた時は驚いたものの、当のケリー先生本人は楽しそうなのでいつの間にか馴染んてしまっていた。
「時間さえ守れば何やっても自由です。極端な話、一人で踊って他が裏方でも面白ければ可ですので皆で話し合って決めてください」
「何その罰ゲーム…」
ニコラスがうへっと口を歪めた。
クラスの皆も困ったように黙り込む。
生徒が協力し絆を深める、という目的で文化祭は早い時期に開催されるらしい。
予備知識のないサラたちBクラスは入学早々大きな壁にぶつかっていた。
「面白楽しくって…ハードル高くないですか、ケリー先生」
「そうかなぁ……じゃあ、今舞踊で習ってるダンスを披露するとかは?」
「授業では集団舞踊を…。では、バロックダンスはいかがでしょうか」
バロックダンスは集団舞踊の総称で、男女分かれて組になり、相手を変えながら全員で踊る。この世界でも貴族間で集団舞踊として親しまれていた。
「仮面をつけて踊るのも面白いかもな」
「あ、それいいかも!」
レオナルドの意見にニコラスが賛同する。
「仮面つけてたら踊りが下手でも分からないしね…ふふふ」
「ニコラス、こわいよそれ」
サラに呆れられても気にする気配はなく、ニコラスは上機嫌で仮面のデザインを描き始める。「…豚?」と聞いたら「狼だよ!」と怒られた。その間もティアナは級長らしく、てきぱきと司会進行をこなしている。
仮面の装着は多数決で可決となり、あれよという間にBクラスの出し物は「仮面集団舞踊」に決定した。
◆
放課後。
サラとティアナは生徒が去った教室に残っていた。
級長の命令で実行委員をすることになったのだ。
打ち合わせ、という名目で2人は向かい合わせで座っている。
「…まずいよ、ティアナ。目立つことは避けたいのに…」
誰もいない教室で、サラはつい声を潜めてしまう。
「貴方と話す機会を増やす為よ。女子が男子と親密すぎるのは問題があるでしょ」
「それはそうだけど…」
「…最初はどうなる事かと思ってハラハラしたけど、意外とうまくやってるじゃない」
ティアナの言葉にサラの頬が赤くなる。
「うん。意外と、かな……」
「小鹿みたいなニコラスとも仲良くやってるし」
「小鹿……」
先日の舞踊の授業でピョンピョン跳ねまくり、先生に怒られていたニコラスを思い出しサラは吹き出した。
「…楽しく過ごせてる、かも」
「それは何より」
ティアナは短く言い捨てると、はぁと重く息を吐いた。
「…本人以上に周囲が心配ってどうなのよ…」
「え?」
「貴方が平然としてるから、心配して損したってこと」
「いや、平然とは…してないけど…」
どこかでティアナに迷惑をかけてしまったのだろうか…。
サラは考え込んでしまった。
「それだけ愛されてるってことだよね」
「せ、先生?! いつの間に!」
2人は教壇に佇むケリー先生から声をかけられるまで気づかなかった。
いつからそこに……サラの体が緊張で固くなる。
「熱心なのもいいけど、女の子が遅くまで残るのは駄目ですよ」
笑顔の中に有無を言わせぬ圧力を感じ、サラ達は慌てて帰り支度をした。
「危ないから2人一緒に帰るようにね」
「ごきげんよう、ケリー先生!」
ぺこりと一礼し、逃げるように教室を後にした。
…………。
……………………。
一刻も早く学院を出るべく、無言のままひたすら足早に歩く。
「………サラの名前は出していないはずだけど…」
「女子口調はしてないと信じたい……」
気をつけなきゃね…と二人は顔を見合わせ頷いた。
恐るべし、ケリー先生。
Bクラス担任、ケリー先生がにこやかに告げた。
「昨年は何をされたのですか?」
級長のティアナが手を挙げる。
「内容は毎年ダンスだね。これをいかに面白楽しく発表するか中身が大切です」
面白楽しく…クラスがざわざわした。
ケリー先生はにこにこと笑顔を絶やさない。
王族出身のケリー先生は現在Bクラスの担任教師をやっている。
初めて聞かされた時は驚いたものの、当のケリー先生本人は楽しそうなのでいつの間にか馴染んてしまっていた。
「時間さえ守れば何やっても自由です。極端な話、一人で踊って他が裏方でも面白ければ可ですので皆で話し合って決めてください」
「何その罰ゲーム…」
ニコラスがうへっと口を歪めた。
クラスの皆も困ったように黙り込む。
生徒が協力し絆を深める、という目的で文化祭は早い時期に開催されるらしい。
予備知識のないサラたちBクラスは入学早々大きな壁にぶつかっていた。
「面白楽しくって…ハードル高くないですか、ケリー先生」
「そうかなぁ……じゃあ、今舞踊で習ってるダンスを披露するとかは?」
「授業では集団舞踊を…。では、バロックダンスはいかがでしょうか」
バロックダンスは集団舞踊の総称で、男女分かれて組になり、相手を変えながら全員で踊る。この世界でも貴族間で集団舞踊として親しまれていた。
「仮面をつけて踊るのも面白いかもな」
「あ、それいいかも!」
レオナルドの意見にニコラスが賛同する。
「仮面つけてたら踊りが下手でも分からないしね…ふふふ」
「ニコラス、こわいよそれ」
サラに呆れられても気にする気配はなく、ニコラスは上機嫌で仮面のデザインを描き始める。「…豚?」と聞いたら「狼だよ!」と怒られた。その間もティアナは級長らしく、てきぱきと司会進行をこなしている。
仮面の装着は多数決で可決となり、あれよという間にBクラスの出し物は「仮面集団舞踊」に決定した。
◆
放課後。
サラとティアナは生徒が去った教室に残っていた。
級長の命令で実行委員をすることになったのだ。
打ち合わせ、という名目で2人は向かい合わせで座っている。
「…まずいよ、ティアナ。目立つことは避けたいのに…」
誰もいない教室で、サラはつい声を潜めてしまう。
「貴方と話す機会を増やす為よ。女子が男子と親密すぎるのは問題があるでしょ」
「それはそうだけど…」
「…最初はどうなる事かと思ってハラハラしたけど、意外とうまくやってるじゃない」
ティアナの言葉にサラの頬が赤くなる。
「うん。意外と、かな……」
「小鹿みたいなニコラスとも仲良くやってるし」
「小鹿……」
先日の舞踊の授業でピョンピョン跳ねまくり、先生に怒られていたニコラスを思い出しサラは吹き出した。
「…楽しく過ごせてる、かも」
「それは何より」
ティアナは短く言い捨てると、はぁと重く息を吐いた。
「…本人以上に周囲が心配ってどうなのよ…」
「え?」
「貴方が平然としてるから、心配して損したってこと」
「いや、平然とは…してないけど…」
どこかでティアナに迷惑をかけてしまったのだろうか…。
サラは考え込んでしまった。
「それだけ愛されてるってことだよね」
「せ、先生?! いつの間に!」
2人は教壇に佇むケリー先生から声をかけられるまで気づかなかった。
いつからそこに……サラの体が緊張で固くなる。
「熱心なのもいいけど、女の子が遅くまで残るのは駄目ですよ」
笑顔の中に有無を言わせぬ圧力を感じ、サラ達は慌てて帰り支度をした。
「危ないから2人一緒に帰るようにね」
「ごきげんよう、ケリー先生!」
ぺこりと一礼し、逃げるように教室を後にした。
…………。
……………………。
一刻も早く学院を出るべく、無言のままひたすら足早に歩く。
「………サラの名前は出していないはずだけど…」
「女子口調はしてないと信じたい……」
気をつけなきゃね…と二人は顔を見合わせ頷いた。
恐るべし、ケリー先生。
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