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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【2−3】
しおりを挟む「え、何? なんて言ったの?」
けれど、私の問いには「ふっ」と笑みだけが返され、すっと立ち上がっておばあ様の背後に回った煌先輩は、車椅子のブレーキを外した。
「そろそろ病室に戻るわ。もうすぐ、次の点滴の時間なんだよ」
点滴? あ、そっか。
ここは、病院。おばあ様は入院してらっしゃるんだから、もうお部屋に戻らないといけないのよね。寂しいけど……。
「煌ちゃん、どこに行くの? 私、まだ、すずちゃんとお話ししたいわ」
「ばあさん。悪ぃけど、それは無理だ。十一時から点滴するって看護師さんが言ってたろ?」
あ……。
「あの! おばあ様? 私、会いに来ます! またお伺いしますからっ。だから、お部屋に戻られてください」
動く車椅子から私を振り返ってくれたおばあ様のお顔に、私と同じ気持ちが浮かんでるのがわかって、つい、『次の約束』を口にしてしまっていた。
「そう? じゃあ、また会いましょうね。ね、すずちゃん。今度はお店に来てね。シャンプーしてあげる」
「……あ、はい」
あれ? 私、今うっかりお返事したけど、『お店に』って……え?
「涼香、こっちに来てくれ」
ゆっくりと車椅子を押す煌先輩が目線で自分の隣を指し示したから、おばあ様の横からそこに移動して煌先輩に並んだ。
「お前には酷な話だけど」
切れ長の目がチラリとこちらを見て、それから低めた声が落ちてきた。
「何でもわかってるようで、わかってない。ばあさん、そんな状態なんだよ」
おばあ様に聞こえないようにという配慮だろう、唇をあまり動かさずに言葉が続く。
「ばあさんにとって一番大切なモンは、じいさんと千葉の店の思い出だからさ。いろんなことを忘れていってるけど、あそこでの思い出は、ばあさんの中でまだ鮮明に残ってんだ。というか、あの店ん中で生きてんだな。ばあさん」
病院の中庭に面したエントランスまで来たところで、いったん車椅子が止められ、煌先輩の大きな手が頭に乗せられた。
「『すずちゃん』のことを覚えてんのも、じいさんと千葉の店との共通の思い出だからなんだ。ばあさんを慕ってくれてるお前には、ある意味、酷なことを教えちまって悪かった。けど、また会ってやってくれたら、嬉しい」
低めた声で煌先輩が空気に乗せた言葉は、とても痛みをともなうもので。――そして、とびきり優しい響きだった。
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