キミとふたり、ときはの恋。【Summer Breeze】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
21 / 48
キミとふたり、ときはの恋。【第三話】

Summer Breeze【2−6】

しおりを挟む



「わぁ! 北斎に広重に、歌麿? あ、写楽に春信、師宣ーっ! わあぁ、どれも綺麗ねぇ。こんなにたくさんのポストカード、ありがとう。素敵なお土産、嬉しいっ」
「良かった。喜んでくれて。浮世絵好きだって言ってたから、これにしたよ」
「奏人は実際に見られたんでしょ? ボストン美術館、浮世絵の展示、たくさんあるもんねー。羨ましい! あー、いいなぁ。私も見たーい! 日本で展示されないかしら。絶対、見に行くのになぁ」
「ふふっ。本当に好きだよね。じゃあ今度、都内の美術館の予定、見といてあげるよ。浮世絵なら定期的に美術展が開催されるだろうしね。もし展示があれば、いつか一緒に行こう」
「うん! うん、行きたいっ」
 嬉しいな。
 奏人は約束を破らない。
 だから、奏人が『今度』とか『いつか』って口にしたことは、『絶対』なんだもん。
 嬉しいなっ。
 奏人との次の約束が、できた。

「ふふっ」
 心の中が、胸が、じんわりと温まる。
 それを噛みしめ、手にしたポストカードを胸に当てながら目を伏せ、ひっそりと微笑んだ。
 私のために浮世絵のポストカードをお土産に選んでくれたり、こんな風に美術展の約束をしてくれる。
 奏人は、いつも本当に、私に優しい。
「……うーん、どうしようか。涼香が喜んでくれるのは俺も嬉しいんだけどね。そんな風にしてるのを見ると、ちょっと複雑だな」
「え?」
 何? 『複雑』って……。
 リビングのソファーで隣り合って座る奏人が、それまでの笑みから少し困ったような苦笑に変えた。
「奏人?」
 その理由を尋ねるように首を傾げれば、右肩に乗った奏人の手によって左側に身体が傾き、奏人の右腕と私の左腕がくっついた。
 近くなった目線が、雄弁に私を覗き込んでくる。
「実は、この浮世絵のポストカードを物色してた時、一色が傍に来てさ。俺がこれを手にしてるのを見たアイツが便乗して、自分の土産に同じものを選んでいったんだ」
「一色くんが?」
 わ、もしかして一色くんも浮世絵好きなのかしら?
「だから、今、涼香が持ってるそれは、高階とお揃いなんだよね」
「あっ、そういうこと? そっか。じゃあ、高階くんが浮世絵好きなのかな。新学期に会ったら聞いてみようかしら? もしかしたら話が合……」
「ということで、高階と揃いのものをそんな風に大事そうに胸に抱え込んだりしたら、駄目だよ」
 え……。
「もちろん、撫でたり頬ずりも厳禁だからね。ムカつくから。すごく」
 引き寄せられた腕の中で、浮世絵好きの仲間が増えたかもと喜んで浮き立った身体が、ぴきんっと固まった。
「ほ、頬ずり……は、しないと思われ……」
 固まった身体をそのままに首だけをぐぎっと戻し、『これだけは言っておかなくちゃ』と思ったことをかろうじて伝えた。

 いくら浮世絵が好きでも、私、ポストカードに頬ずりはしないもん。
 角度や向きを変えたりして、じっくりたっぷり眺めるだけだもん。
「そう? しない? こんなことだよ?」
「ぁっ」
 ひゃあっ!
「こんな風に、したりしない?」
 まっ、真顔!
 奏人こそ、真顔でそんなことしたり聞いたりしないでくださいっ。
 いきなり顔の距離がゼロになって、ほっぺが密着。そして、ふにふにと頬ずりが繰り返されてるけど、すぐ上から見下ろしてくるお顔が思いっきり真顔なのを何とかしてほしい。
「しっ、しな……」
「こんな風に角度や向きを変えたりして、じっくりたっぷり堪能したり、しない?」
「ふぁ、っ」
 しない。
 絶対、しない。だって、これ。
「あ……かな、とっ」
 頬ずりじゃなくて、キス……。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

新しい家族は保護犬きーちゃん

ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝初めて🐶保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。 過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。 初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃんがもたらす至福の日々。 ◇ 🔶保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾 🔶日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾 🔶🐶挿絵画像入りです。 🔶拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇‍♀️

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

カラフル

凛子
恋愛
いつも笑顔の同期のあいつ。

処理中です...