降りしきる桜雨は、緋(あけ)の色

冴月希衣@商業BL販売中

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見えぬ未来と、重なる手 【1−1】

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 ——カンッ!

 木槍の先端同士が激しくぶつかる音が響く。

 ——カッ! カンッ!

 それは、そよ吹く夕風を一閃で薙ぎ切る鋭利な音。

「うっ!」

 流麗な動きから繰り出された力強くも的確な打ち込みの衝撃は凄まじく、気づけば僕の木槍は勢いよく跳ね上げられていた。

 渾身の力を込めて突き出したはずであるのに、手から離れた木槍は素早く回転しながら宙を飛び、半月を描いて背後に転がっていった。

「……っ、つぅ……」

 お師匠様の一撃を受け止めた手首に力が入らない。肘までの筋が、じんじんと痺れているのだ。なんという振り抜きの速さ、凄まじさだろう。

「よし。今日は、ここまでにしておこう」

「はい。ご指南、ありがとうございました」

 お役目で多忙な師匠だが、三日ぶりの稽古ということで、今日は剣術と槍術そうじゅつの両方に時間をいてくださった。とても、ありがたい。

「おい、十蔵。ちょっと、こっちへ来い」

「はい」

 常ならば、稽古の終了を告げられた後は木刀での素振りの回数を言い渡される。しかし、今日はそれがない。

 挨拶をしたのち、僕よりも頭ひとつぶんは背丈のある体躯の持ち主を訝しく見つめれば、僕が手にした木槍にちらりと視線をやった相手に木陰にいざなわれた。

「手ぇ、出せ。左手だ」

「……」

「チッ。やっぱりか。この馬鹿野郎が」

 言われるまま、無言で左手を差し出した途端、相手の人相が変わった。至極、凶悪なものに。



「手のひらの肉刺まめが潰れてるぞ。お前、俺が言いつけた素振りの回数、守ってねぇな?」

「……」

「黙ってねぇで答えろ。俺は、その日の稽古の内容で回数を決めてるんだぞ。お前、昨日の素振りの回数、言ってみろ」

「五百回、です」

 一瞬、答えるのを躊躇したが、お師匠様の厳しい目線ですぐに観念した。きっともう全て見抜かれているに違いないのだから、正直に答える他ない。

「はあぁ……お前なぁ……俺がお前に課した回数は、二百回だぞ。しれっと倍以上、やってんじゃねぇよ。馬鹿たれ」

「申し訳、ありません」

 額に手をやり、首を振りながら「この阿呆が。本当に馬鹿野郎だ」ともう二回、追加で言われたことで、自分がこの人をひどく呆れさせたのだとわかった。

 けれど、やらずにはいられなかったのだ。

「お前。何を焦ってる? 確かに、初心者のうちは手に作った肉刺まめなんて潰れてなんぼだが。お前の上達ぶりからしたら、そんな無茶、今は必要ねぇだろ」

 ——何を焦っているのか。

 眉間にしわを寄せて発せられたその問いかけに、ぴくりと肩が動いた。

 そうだ。その通り。僕は、焦っている。

 だが、その〝焦りの理由〟を、お師匠様に話すわけにはいかない。この人にだけは言えない。


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