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弐
ひみつの花園 【三】
しおりを挟む「あつこ? すきなやつに、ふみ、かいたか?」
「えっ?」
――どくんっ!
呪いの文のことを考えていたら、不意打ちで別の文の話題になってしまった。鼓動が、せわしなく跳ねる。
「えー、それは、その……色々あってね? まだ、かしら?」
「なぜ、まだ、なのだ? きのう、うずらまると、やくそくしたのに」
うん、そうよね。約束した。だから、書いていないとは言いにくくて、さりげなく目線を外して答えたのに。
朝顔の蔓と葉の隙間から、ちょんと顔を覗かせ、こちらを見上げてくる緋色の瞳がとても澄んでいて綺麗だから、正直に言うしかない。
強い陽射しに負けぬよう色濃く大きく育っていく蔓と葉、そして色とりどりの朝顔の花弁に美しく映えている真白き体毛の子猫の前にしゃがみ、本心を吐露する。
「うずら丸。私ね、怖いの。だって光成お兄様、私が贈った青梅の糟漬け、もしかしたら迷惑だったかもしれないのだもの。お兄様のお口に合うようにと一生懸命に作ったのに、『とても美味しかった』とお返事の文をくださったのは、蔵人所のご同僚であられる源建様なのよ?」
「みなもと?」
「えぇ。私の作った物など食べたくないから、源蔵人様に丸ごと差し上げてしまわれたのかもしれない。そう思うと……」
あら、嫌だ。私ったら、説明しているだけなのに、胸が痛い。
自分が放った自虐の言葉で傷ついてしまったみたい。気が強いって自称してるくせに、駄目ね。
「あつこ、ないているのか? あつこを、なかせるやつ、うずらまるが、ころしてやるぞ?」
「あっ、だ、大丈夫! 泣いてないし、光成お兄様は悪くないの。次は、もっと美味しく作らなくてはと思っただけよ? せっかく、うずら丸が、好きな相手には美味しい物を贈ればいいって提案してくれたんですもの」
慌てて両手を振って、否定。笑顔を作る。
実際、まだ涙は出ていないし。大切な光成お兄様を、お友だちに傷つけさせるわけにはいかない。
うずら丸は純真だから、私が気をつけなければ。
「そうだ。うまいものを、けんじょうすると、よろこんでもらえる。びゃくえんさま、いつもよろこんでくれて、うずらまるを、なでてくれる。あれ、うれしい」
とても嬉しそうに、子猫が目を細めた。
『びゃくえんさま』は、うずら丸がずっと恋している相手。妖猫の頭領らしい。
知った時は、かなり驚いたのだけれど、うずら丸は女の子。
お互い、片恋の相手が居ることで、私たちはより仲良くなれた。むしろ、うずら丸だけが私の理解者だ。
美しさと有能な仕事ぶりで、ご本人がかなりな毒舌家の厳しいお方だと承知して尚、あちらこちらに隠れ信奉者(しかも男女問わず)が存在する光成お兄様への切ない恋心を相談することができるのは、うずら丸だけ。
「あつこ。では、うめのあじを、たずねるふみ、にするといい」
「あっ、そうね。それなら、お兄様宛てに文が書けるわ。素敵な助言をありがとう。うずら丸っ」
こんなに気が合う子、他にいない。
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