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肆
恋華の、等しく咲き揃う 【五】
しおりを挟む「驚いたでしょ? びっくりでしょお? これはね、灰炎ちゃ……」
「ほほっ、ほんとっ? 今、おっしゃられたことは本当ですか? 白焔様!」
お話の途中と承知していたけれど、我慢できなかった。気づけば、前のめりで問いかけていた。
「うふふんっ、本当よ」
妖猫の琥珀色の虹彩が陽に煌めき、いたずらっぽく細められる。
「灰炎ちゃんの希望なの。初めて出来た唯一のお友だちだから、篤子ちゃんが住む国が自分の居場所、なんですって」
「……っ、うずら、丸っ」
私のこと、まだお友だちだと言ってくれるの?
「あ、ちなみにぃ。アタシも色々な事情が重なって大陸とこっちを行き来することになったんだけど、この国での住まいは大納言家に決まったから、灰炎ちゃんともども今後ともよろしくっ」
「まぁ、光成お兄様のお邸ですか。はい、どうぞよろしくお願いいたします。あの、白焔様? では、うずら丸も大納言家でお預かりですか?」
妖猫と露見してしまっている以上、もう内裏でともに暮らすことは叶わない。それくらい、わかっている。
「あら、いけない。アタシとしたことが、大事な説明すっ飛ばしてたわ。灰炎ちゃんはね、陰陽寮でのお預かりになるわ」
「陰陽寮で? それは、内裏を騒がせてしまった妖だから、ですか?」
やはり、陰陽師たちはうずら丸を危険な妖だと思っているのね……。
「違うぞ、篤子。灰炎は、妖としてはまだ子どもの分類。朔の夜に増幅するという妖力を制御することもまだ難しいのだろう? だから、真守殿が専任で預かってくださることになったのだ。真守殿の父上である賀茂護生様の監督のもと、内裏の外にある陰陽寮の詰所で」
「そうなの。あの陰陽小僧の親父様ね、陰陽博士なんですって。で、その陰陽寮の詰所でなら、篤子ちゃんとも面会していいんですってよ。内裏の外だから。良かったわねっ」
「あ、ありが、とう、ございます」
「全ては、陰陽博士に掛け合ってくれた真守殿のおかげだ。お前、月が変われば、また内侍司で上の女房としてのお務めに復帰するのだろう? 帰る場所があることと、友の帰還。それが叶ったことを皆に感謝し、よく務めに励みなさい」
「はい……はい、お兄様。そうします。ありがとうございます。白焔様も、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
嬉しい。うずら丸とまた会える。お話しできる。
それに、光成お兄様も、とてもお優しい。嬉しい。
私に向けられたお言葉は、お兄様のお人柄の一面を表す厳しいものだったけれど、うずら丸についての知らせを、ここまで直接届けにきてくださった。
ごく簡単に文で知らせることもできるのに、そうはせず。わざわざ淡海のほとりの大津まで、ご自身で足を運んでくださっている。
私が、お兄様にとって近しい者だからだ。
私の片恋は永遠に届くことはなくとも、身近な昔馴染みとして大事に扱ってくださっているのだとわかるから、とても嬉しい。
「ありがとうございます。お兄様――――大好きです」
あまりに嬉しすぎて、物心ついてから初めて、素直に『大好き』と告げることができた。
応援ありがとうございます!
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