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肆
恋華の、等しく咲き揃う 【八】
しおりを挟む先日、内裏の弓場殿で行われていた、蔵人所と滝口との弓引き対決を引き合いに出す。もちろん、弓の名手である光成お兄様について熱く語るためだ。
「弓の命中率も一番でしたよね。さすが、伝説の弓作りが自ら弓を製作したがるというほどの腕前と、見物していた皆が溜め息をついておりました。ですが、俺がそのことに触れると、光成様は決まって『私程度の弓引きは、いくらでもいる。主上のため、さらに精進せねば』と真顔でおっしゃるのです。もう充分に名人の域に達しておられるのに、俺、あまりの神々しさに心臓が止まりかけました」
「きゃー、わかりますー! お兄様って、あの美貌をひけらかすどころか、女顔だと気にしてるところも、とてもお可愛らしいでしょう? 強く賢く美しいという美点だらけなのに、ご自分に対する評価は低くて、とことん無自覚だなんて。そんな方、好きにならないわけないもの。真守様のお気持ち、とてもよくわかりますわっ」
「ほんとですかっ? やっぱり近江様は、わかってくださるんですね。そうなんですっ。宮中でも、あちらこちらで光成様のお噂を耳にするのですが。曲がったことがお嫌いなお方だから、ついつい出てしまう厳しいお言葉のせいでその相手に嫌われていると、ご本人は思い込んでらっしゃる。実際は、その逆なのに」
「ああぁ、それもよくわかりますー! お兄様に叱られるその人に、私がなりたいっ」
「びゃくえんさまも、いってた。みつなりのおやじさま、とても、いけてる。すてきだ、って」
「あ……えぇ、そうね。白焔様は、“そっち”ですものね。うずら丸も、私たちと一緒に頑張りましょう?」
「がんばる。うずらまる、がんばる。おんなのこの、いじ。みせる」
萩の花が咲き揃う庭で、私たちの恋の華も鮮やかに咲き揃う。
内侍司でのお務めを始める前は、私と光成お兄様のことで盛り上がってくれるのは、撫子の君――――お兄様の妹姫、珠子だけだった。
内裏では、上の女房の皆様相手にこんな話は出来なかったから、うずら丸だけが私の理解者だった。
まさか、次に会ったら『お粥を食べる度に必ず唇を火傷する呪い』をかけてやろうと目論んでいた相手と、光成様愛でこんなにも意気投合できるなんて思ってもみなかったわ。
例え、想いは届かなくとも、想い続けることはできる。
こうして、気が合う者同士、恋の華を咲かせることができる幸せを、私は見つけた。
現在が楽しければ、それでいい。これでいい。
いつか、お兄様ではない誰かを熱烈に恋い慕う。そんな未来が、私にも訪れるかもしれないのだから。
だから今は、胸に秘めた固い蕾がいつの日か綻び、紅く艶やかに咲きこぼれる時を待てばいい。
「あつこー!」
「近江様っ」
「はい、なんですか?」
この、とても大切なふたりとともに――。
-終-
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