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見えぬものと、見えるもの 【11】
しおりを挟むこれは、どういうことだろう。
温かな愛情で私を包み、育ててくださった“母”が、私への殺意を隠していない。
それは、カルスを王位につけるため?
とても信じられない。信じたくない。
が、禍々しい憎悪と殺意が、ひしひしと伝わってくるのも確かだ。
「……ルリーシェ。私の後ろに控えていてくれ」
混乱する思考と衝撃を振り払い、肩を抱いていたルリーシェを背に庇った。
なぜ、このような事態になったのか、わからない。
が、ミネア様が放つ黒い狂気に備えなければいけない。
丸腰で、その上、盲目。足手まといにしかならない私だが、そんなことは言っていられないのだ。
「刺しなさい、カルス! あの女の息子を! 早くっ!」
「うわあぁぁあっ!」
ミネア様の金切り声に続いて、カルスの絶叫が辺りに響いた。
それに重なって、これから起こることに備えて構えたのだろうロキの身体から、かすかな金属音が聞こえる。
「ロキ、それを渡せ。カルスの剣を持っているのだろう?」
「それは、できません」
この返答で、抜け目なく短剣を拾ってから私をかばいに走ったのだと知れる。が、今その剣を持つのはお前ではない。
「いいから、渡せ! カルスの前に立つのは私だ!」
私の怒鳴り声と、カルスの絶叫が止むのは同時だった。
「どけ」
一瞬の沈黙の間を縫い、ロキを押しのけて前に出る。
カルスが剣を携え、向かってくるのなら、その前に立つべきなのは私だ。
黙って伸ばした右手に、柄の感触が触れた。
「お気をつけて。いざとなったら加勢いたします」
短剣を私の手に握らせたロキの声かけに、敢えて答えない。
「ルリーシェを頼む」
これだけを告げた。
死ぬ気はない。カルスを手にかける気もない。
ただ、私を『あの女の息子』と憎々しげに呼んだミネア様の殺意には、立ち向かう。
盲目の身となっても、だ。
「兄上っ……あにっ……うわあぁぁっ!」
「殺しなさい!」
母、アステイアの死後。私を慈しみ、育ててくれたミネア様の愛情は、全て欺瞞だったのか。
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