黎明の天(そら)に、永遠を誓う

冴月希衣@商業BL販売中

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epilogue

携えるは、ただひとつの愛 【3】

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「それに、ミネア様も随分と落ち着かれたと、ザライアから聞いた。なれば、余計に私が行かぬほうが良いだろう?」

 私への憎悪と狂気に蝕まれていたミネア様は、神殿長ザライアの名のもと、修養という名目で神殿の斎場で過ごし、心身ともに落ち着かれたということで、つい先日、王妃宮へと戻られた。

 驚いたことに、あの狂った変貌の大半はレイドによる洗脳のせいだったらしい。

 が、ミネア様がお心の内に抱え込まれていた闇は、小さくとも確かに存在していて。

 私はそれを知っていたのに、実際には見えてはいなかったのだ。

 国内の有力者の娘の中から母の女官に選ばれ、その後、父に無理強いされてカルスを身ごもったこと。

 その時、ミネア様には婚約者がいたこと。

 私は、それを知っていたのに。

 父を恨むことなく、実母に疎まれていた私にも愛情を注いでくださったから、その一面しか見ていなかった。

 見えていなかったのだ。

 どうして私にも優しくしてくださるのかと、幼い私は、一度ミネア様にお尋ねしたことがある。

 その時、側妃である自分に、私の母が優しくしてくれるのが嬉しいからだと答えてくださったのを、ずっと鵜呑みにしていた。

 その時の笑みが、とても静かで、優しかったから。

 実は、私の母から陰湿な苛めを受けていたというのに。



 母、アステイアは、とても美しく、気性の激しい人だった。

 我が国との戦に負け、その協定のために父に嫁いできた母にも、ミネア様と同じく、想う相手がいたという。

 母付きの護衛の騎士だった恋人と引き裂かれ、祖国の安寧のためだけに私を産んだ。

 が、自身をそんな境遇に追い込んだ父ドラシュを、気位の高い母が愛せるわけもなく。心を開かない母の代わりに父が側妃に迎えたミネア様にも、きつい仕打ちをするようになったという。

 その後、再び起こった隣国との戦で、恋人であった騎士が戦死したことを知り、その後を追って自害してしまった。

 私の十歳の誕生日のことだ。

 大地の女神様に全てをさらけ出し、神殿の奥宮で贖罪の祈りを続けているレイドの告白で知った実母の姿と人生は、彼女を愛していた私にはとてもつらく、痛々しいものとなった。



「国王陛下が御譲位なされたら、王妃様もご一緒に湖畔の離宮に移られるそうですね」

「そうなされると聞いた。カルスが即位すれば、間を置かずに妃も迎えるだろう。そのために王妃宮を空けておかねばならないしな」

 レイドの告白で知った事実は、もうひとつある。

 酷い仕打ちを受けたにも関わらず、アステイア妃の息子である私を慈しみ、育てたことを不憫に思ったレイドが、王妃宮での祭祀を利用してミネア様を洗脳した。

 ミネア様の子であるカルスを王位につけるべく、機会を窺うように。

 元々のミネア様は、控えめで愛情深い性質。だから、母に疎まれていた私をカルス同様、可愛がってくれたのだが。その心には、黒い染みが、徐々に広がっていた。

 ミネア様がレイドと引き裂かれ、父ドラシュの側妃となったのは、心を開かない母アステイアの身代わりのため。

 傲慢で独善的な王が、真実愛していたのは、アステイアひとりだった。

 父は、隣国に赴いた際に母を見初め、深く愛するようになったが、乱暴な態度しかとれずに見向きもされなかったという。

 その後、戦を利用して政略結婚で正妃に迎えるものの、一向に心を開かない母に焦れ。当てつけと身代わり、両方の目的でミネア様を側妃に。

 結果、ミネア様とレイドの運命を狂わせた。


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