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第三章
5回目のバレンタインデー【1】
しおりを挟む「武田くん。これ、本命チョコでーす」
「えっ、本命っ?」
「うん。美味しいよー。どうぞー」
「あ、ありがとう。でも、ごめん。俺、本命チョコはお返しできないから受け取れないんだ。ごめん」
「えーっ、せっかく持ってきたのに!」
「ごめんな。お気持ちだけ、ありがたくいただきます」
二月十四日。バスケサークルの練習試合後、相手チームのマネージャーが武田くんに告白した。
告白というか、バレンタインに乗っかってのお誘い&自己アピールだよね。あれは。
彼が医学部生だと知ってから急に馴れ馴れしくなったあの女子が、真剣な気持ちで本命チョコを用意したとは思えない。
とはいえ、武田くんは最高に素敵男子だから、彼を本気で好きになった可能性も否めないけれど。
「でもね、マネージャーさん。武田くんはね、あなたの気持ちには応えませんよ。だって、彼には好きな子がいるから」
もう、この世にいない女の子に、ずっと片想いしてるから。
「だから、私のチョコも今年は断られちゃうね。あのマネージャーさんみたいに。せっかく……」
せっかく、頑張って作ったんだけどな。
心の中だけに落とした呟きは、ついさっき、本命チョコの受け取りを拒否されてたマネージャーさんが不服そうに言っていたのと同じ言葉。
それにしても、武田くん、今年から本命チョコは受け取らないことにしたんですね。そりゃ、そうか。お返しのためのあれこれに使う時間を学業に使ったほうが良いに決まってる。
ちょっと、そんな気はしてた。私のチョコも受け取ってもらえない可能性も考えたけど、チョコを作らない選択肢はなかったから今年も用意したけれど……。
三年前、同級生になって初めてのバレンタインデーのため、好きなチョコレートの種類を尋ねた私に「俺、トリュフが一番好きなんだぁ」と照れ顔で教えてくれた人に、それ以来ずっとトリュフを作ってきたのだから、今年も張り切ってしまった。
でも……何回も試作を繰り返して、やっと満足のいく仕上がりになったチョコレートだけど……まだ渡せていない。
今までの私なら、とっくに渡してる。
高校の三年間、バレンタインデーの朝は武田くんを昇降口で待ち伏せて『突撃・私のチョコを一番に食べてください! はい、アーン! 作戦!』を決行してたんだから。
「高校生の私、ほんとに元気でしたねぇ」
今、思えば、見苦しいくらいに肉食系だった。
だけど、そんな自分が嫌いじゃなかった。
大好きで大好きで大好きで、いつか彼女になりたいと思ってるその人と同じ学校に通えてる幸運を、ただのラッキーで終わらせたくなかった。
私の王子様に、ちゃんと『好き』を伝えたかった。たとえ、同級生としての親愛しか返してもらえなくても、『あなたを好きです』と言いたかった。
「自己満足でしかなかったけど……でも、そろそろ、それも潮時かな」
溜め息が重い。胸が痛い。
ザラザラ、チクチク。胸の内側を掻き回されるような、針で刺されてるようなこの感覚、覚えがある。とても醜い感情だ。
私の大好きな人に、亡くなった後も想ってもらえてる女の子への嫉妬と羨み。それから、五年間の片想いが報われることはないと諦め始めてる自分への憐憫。いろんなものが黒く重く、胸中で渦巻いてる。
恥ずかしい。
恥ずかしい。恥ずかしい。
私は、なんて嫌な子だろう。
亡くなった彼女は、もっと生きたかったに違いない。病気になんかなりたくなかったに違いないのに。健康な自分がその子を羨んでる。
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