花霞にたゆたう君に

冴月希衣@商業BL販売中

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第五章

君に、捕らわる 【10−1】

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「あの、土岐くん? 私も、もう一度聞きたいんだけど……じ、自信なくて。あの、ほんとに私のことを、その……」
 顔を真っ赤にさせて言いづらそうにしてる彼女の様子に、口元が綻ぶ。想いが満たされて気分が良い俺は、その台詞の後を引き受けてみた。
「うん、好きだよ?」
「あっ、そう、なの? そう……」
 小さく呟きながら、だんだんと俯いてしまった顔。そして、沈黙。この反応は、なぜ?
「なら、どうして?」
 俯いていた頭が、勢いよく上げられた。
「それなら、なんでっ。あんな……みいこ先生とあんな風にしてたの? だから、私っ」
 先生? 加賀先生が、何だって?
「あんな風にっ。だ、抱き合ってるからっ。だから! 私、飛び出してっ……」
 抱き合っ……て、ないぞ? 何の話をしてるんだ?

「あーあ。こりゃ、彼氏、全然気づいてないっぽいぞ? みいちゃん、どうするー?」
「そうね。どうしようか。もとい、どうしてくれようか」
 いつの間に、そこに来ていたのか。加賀先生とアキラが、俺たちの後ろに並んで立っていた。
「そもそもさ。みいちゃんがあんな風にダイブするから、紛らわしいことになったんじゃないのか?」
「アキラ。今更、それ言う? ちょっとムカついたから、つい、よ。勢いでああなっただけじゃないの」
 ちょっとムカついたからって。そんな理由で雪上に押し倒されたのか、俺は。
 まぁ、怪我したまま黙って滑ってたことは悪いと思ってるが。
「土岐くん! ほら、忘れ物よ!」
 何かが、下手投げで放られた。
 あ、サングラスか。先生に謝罪して、それっきり外したままだった。
 取りあえずポケットに入れておこうと目線を下に向けたところで、彼女の足元が目に入った。
 しまった! 呑気に喋ってる場合じゃなかった。
「白藤さん! 足! 大丈夫っ?」
 大丈夫なわけない。わかってるのに、他に尋ねる言葉が浮かばなかった。
「あ、えーと、ちょっと痛い、かな?」
「だろうと思ったよ。ちょっと待ってて。すぐに取ってくるから」
 彼女の言葉を受けるなり、アキラが背を向けて走り出す。その方向に、一台のスノーモービルが見えた。「取ってくる」って、あのマシンのことか。

「あれに乗ってきたの?」
「あ、うん」
 だから、こんなところに居たのか。
「お待たせ。涼香ちゃん、早く乗って」
「え、あ……」
 戻ってきたアキラに、後ろに乗るように促されたが、白藤さんは困ったように俺とアキラを交互に見て、最後に加賀先生を見た。
「アキラ。いったん、そこから降りて」
 そこで、加賀先生がアキラを手招きした。
「それは、ここに置いたままにして。もう一台、取ってきましょう」
「もう一台? みいちゃん、どういうこと?」
「土岐くんも怪我してるのよ」
「えっ、怪我っ?」
「えっ、怪我っ?」
 彼女とアキラの声が見事にかぶった。
 しかも、同時に首を振って、俺を見る表情までもが同じとか。ちょっとイラつくんだが。アキラ限定で。
「ねぇ? 十五分くらいだけど。今から、二人っきりにしてあげるわ」
 背中がポンと叩かれて、スノーモービルのほうに身体を向けさせられた。
「怪我人はこれに乗って、大人しく待ってなさい」
「え?」
「その代わり、ロッジに戻ったら覚悟しときなさいよ」
 一見、優しく見える笑顔が怖い。
 俺は別に、このまま滑っても大丈夫なんだが、ここはお言葉に甘えておこうか。
 少しでも、この子と一緒にいたい。二人きりなら、尚更だ。
「アキラ、そういうわけだから。もう一台取ってきたら、それぞれを乗せて帰りましょう」
「なるほど……って、おい! じゃあ、俺はどうやってロッジまで戻りゃいいんだ?」
「あんたは走ってついて来なさい。さっ、行くわよ!」
「えっ、嘘だろ? ああっ、待ってくれよ、みいちゃんっ!」
 言い捨てるなり、自分だけサッサとスキーで滑り出した先生をアキラが慌てて追いかける。
 ちょっと。いや、かなり。初めてアキラに同情心が湧いた。必死で先生を追いかける姿が、本当に忠犬に見えるな。

「じゃあ、お言葉に甘えて、モービルに座って待とう。足、痛いでしょ?」
 彼女を振り返って、手を差し出した。少しドキドキしながら。
「あ、うん」
 それに、手が乗せられるのを黙って見つめる。躊躇いなく乗せられた手を、きゅっと包んだ。
 手を差し出せば、笑顔で応えてくれる。たったこれだけのことが、泣きたいくらいに嬉しい。
 彼女をシートに座らせて、その横に凭れかかって立つ。もちろん、手は繋いだままだ。
 いつの間にか、雪は止んでいた。冬の柔い陽射しが、広く銀世界に降り注いでいる。
 雪の白がそれに反射して煌めいて、まるで白く浮き上がるような輝きに取り囲まれてでもいるかのようだ。
 その中で、雪よりも白い肌を薄桃色に染めている彼女を、ただ見つめていた。こんなに近くにいられることの幸せを感じながら。


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