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キミとふたり、ときはの恋。【第五話】
冬萌に沈みゆく天花 —告白—【6一2】
しおりを挟む「奏人に謝りたくて、話し合いもしたかったから嬉しかった」
すごく驚いたけど、奏人のほうから今日の約束について連絡をくれたことは本当に嬉しかった。チカちゃんは「ほらね。何も心配いらなかったでしょ」って笑ってた。
「待ち合わせ場所に私が到着した時もいつも通りに接してくれたし、今も話しやすい雰囲気にしてくれてるの、嬉しい」
「いや、それは当たり前のことだから、そんな風に言ってもらうことじゃないよ。一昨日、少し話せる機会があったのに、俺は動かなかったし」
一昨日、終業式で目が合ったけど、声を掛け合うどころか、お互いに近寄ることもしなかった。既に今日の約束を取り付けていたし、奏人も私と同じく、話し合いの場は学校じゃないと考えてるんだと思ったから私はなんとも思わなかったんだけど、そのことを気にしてくれてたのね。やっぱり奏人は優しい。
そんな優しいこの人に、私はちゃんと謝らなくちゃいけない。
「今日、じっくり話し合おうと思ってくれてたからでしょ。えーと、じゃあ、まずはこの前の……」
「待って」
「え?」
お誕生パーティーを欠席した件から謝罪しようとしたら、ストップがかかった。
「俺も涼香に言いたいことがあるんだ。どっちが先かなんてことに意味はないと知ってるけど。今回のことは俺に非があるから、俺から先に言わせてほしい」
えーっ! 非があるのは私でしょ? どう考えても!
「ど、どうぞ」
と思ったけど、譲ることにした。「感情に任せて声を荒げた。怖かっただろ?」と、すごくすごく痛そうな表情が向けられたから、「いえいえ、私から!」なんて言えなくなった。
「ずっと我慢してた、と俺が言ったこと。まずは、この件から話すべきだよね」
「あ、はい」
「言葉通りだよ。ただ、最初はそんな自覚はなかった。平気なつもりだったんだ」
私から目線を外し、中空を見つめながら紡がれる甘いテノールを聞く。
話題の選び方が奏人らしいと思った。直球だ。お互いにとって最もセンシティブなところから切り込んでくる。
「いつからだったか。胸を何かで押さえつけられるような、そんな感覚を覚えるようになった。例えるなら、形の定まらない真っ黒な重石が強弱をつけて圧迫を与えてくるような」
その重石、私の中にもあるよ。
心の中だけで伝える。相槌は打たない。奏人の顔だけを見つめる。こちらを向いてくれた時にすぐに目線を合わせられるように。
「大したことないと思ってたけど、時々、ひどく苦しいなと感じるようになって。それを自覚したのは秋に入った頃かな。花宮さんの見舞いにふたりで行っただろう?」
ちらりと向けられた視線に、こくんと頷く。そして思い出す。おばあ様のお見舞いに奏人と行った日のことを。あれは、九月の中旬。
「帰り際、花宮先生と話す機会があったよね。ご家庭の内情について」
「……うん」
今度は相槌を打った。私の返答を待ってる問いだったから。
「萌々ちゃんのお父様が……三人のご兄妹の中で煌先輩とだけ折り合いが悪い、というお話ね」
言いにくい内容だけど、口にした。ここには私たちしかいない。
「そう。それで、そのことを既に知っていると、花宮先生に君が言った。千葉に住んでいた頃、花宮先輩から聞いたと。驚いたよ。そこまで踏み込んだ話をする仲だったのかって」
返答に困った。首を、縦にも横にも動かせない。
正確には、煌先輩からじゃなくて、おばあ様から聞いたんだけど。千葉にいた頃の私が、先輩のおじい様、おばあ様が経営なさってる理髪店で皆さんと親密に過ごしてたのは事実だから。
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