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キミとふたり、ときはの恋。【第五話】

冬萌に沈みゆく天花 —告白—【7一3】

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「三人ともが私を無視した。通ってた女子校は中学の一、二年はクラス替えが無くて持ち上がりだったから、一年半、何をするにも四人で行動してたのに、いきなり独りぼっちになった。遊園地でのことをどれだけ謝っても、『うるさい幽霊がいるね。鬱陶しい』って三人で笑い合うだけ。誰も私とは言葉を交わさない。冷たい目で睨まれる以外は、徹底して無視され続けた」
 一度、息をつく。奏人の視線が横から注がれてるのを感じながら、深呼吸をそっと一回。すぐに言葉を継いだ。

「どうしたらいいのか、謝罪の気持ちはどうやったら届くのかと悩んでるうちに日にちは過ぎて、その週の金曜日になった。放課後、幽霊扱いで無視される日々に〝ある変化〟が起きた。『白藤涼香を呼んでほしい』って、下校する生徒に校門で声掛けしてる男子がいるって騒ぎが発生したの。私を名指しした人、さぁちゃんが片想いしてる相手だった」
「……」
「呼ばれてても行けるわけなくて、急いで裏門から帰った。そうしたら、次の日の部活終わりにその人はまた来たの。今度は校門の脇で待たれてたから気づかなくて、捕まってしまった」

 言い終わると同時に、奏人の手が私の手に触れた。両手で包み込みながら、そっと指が開かれて、持ってた抹茶ラテのカップが奏人の手に移った。いつの間にか、きつく握りしめてしまってたから、こぼしてしまう前に取り上げてくれたんだ。
「大丈夫? 少し飲む?」
「うん」
 取り上げたカップをまた渡してくれるから、お言葉に甘えて少し飲んで、差し出してくれた手にまたカップを返す。自分でも、持ったまま話すのは危険な気がしたから、手厚い介助がありがたいわ。
「あの、続き、話すね」
「ん」
 ほんとは奏人に持ってもらわなくてもベンチにカップを置けばいいとわかってるけど、甘やかしてくれてる理由がなんとなくわかるし、私も今は甘えたい気分だから、このまま続ける。

「私ともっと話したいから来たって言われた。遊園地ではタイミングが掴めなかったけど、連絡先も交換したいって。私、『困ります』としか言えなかった。そしたら、『諦めない。友だちになってくれるまで何度でも来る』って言われて……反射的に『もう来ないでください』って叫んで逃げ出した。その人は追いかけてこなかった」
 自分の叫びが辺りに響いた感覚が蘇る。
 思っていた以上に大きな声を出してしまった驚きと、私の声に顔を歪めた相手の痛そうな表情。それから、下校中の生徒たちから向けられた好奇の眼差し。全てに戦慄いて、私は逃げ出した。


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