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キミとふたり、ときはの恋。【第五話】

冬萌に沈みゆく天花 —告白—【7一5】

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「そうしたら、居直ったと受け取られた。ずっと二人の後ろで泣いてたさぁちゃんが前に出てきて、『どうして謝らないの?』って聞かれた。私は、今までどれだけ謝っても無視してたのに、何を言ってるんだろう、と考えてたから返事が出来なかった」
 この時、私も泣いて謝ってたら、何かが変わったんだろうか。
 こんなことを思うのは、当時の私が思い描いてた未来とは全く異なる時間を、今、生きてるからよね。

「『嘘をついたことを、どうして謝らないの?』って聞かれても、嘘はついてないから謝れなかった。さぁちゃんの恋のために協力できなかったことなら謝れたけど。『信じてたのに! 嘘つき! 裏切り者!』と責められても黙ってた。すると、さぁちゃんは私の肩を掴んで、こう言った。『私が伊藤くんを好きって知ってるくせに邪魔して、横取りしたことを謝れ!』って。私は『伊藤くんって、誰?』と尋ねた」
「え?」
 疑問の声を小さくあげた奏人に、無言で笑みだけを返して、続ける。

「『さぁちゃんの好きな人は、高瀬くんじゃないの?』って質問した。そしたら、『もうすっかり彼女気取り? 下の名前で呼び合ってるって見せつけて、むかつく! 私の前で何回も呼ぶな!』って、さぁちゃんが叫んだ。そこで初めて気づいたの。スポーツドリンクの男子が私に自己紹介した『高瀬』って名は、名字じゃなかったんだって。私、確かにさぁちゃんの前で何度も高瀬くんって呼んじゃってた」
 対面でも、送信したメッセージの文面でも。

「自己紹介でその名乗りをされたら誰でも勘違いするだろ。その男が確信犯だっただけで、涼香は悪くない」
「確信犯? かどうかはわからないけど、私が迂闊だったと思う。遊園地にお父さんが迎えにきて皆と別れる時、その人にスポーツドリンクの御礼を言うのに名前を呼んだら男子たちが一斉に囃し立てて、なんか変だなって思ったけど、そのままにしたのよ」
 『高瀬舟』の高瀬だよ。覚えやすいだろ? と教えてもらった。その通り、覚えやすかった。当日の皆との会話はどこか噛み合わないなと思うこともあったけど、出来るだけ集団から離れようと、そっちに神経を使っていたから、違和感に触れることはしなかった。私が悪い。

「そこで予鈴が鳴った。一週間、私を無視してたけど、その日その場所に呼び出したのは、金曜、土曜と続けて伊藤くんが私に会いに学校まで来たから、これ以上、調子に乗らないように釘を刺すためだって言われた。二人が先に背中を向けて、でもさぁちゃんはそれに続かずに私を睨みつけてきた。『調子に乗らずにちゃんと反省したら、一ヶ月の無視だけで済ませてやったのに。でも謝らないなら許さない』って言ってから、去っていった」

「一ヶ月って……なんだ、それ。その女、まともな想像力が無いのか。自分が無視される側に立ってみて、一ヶ月という期間の長さを考えてみろ」
 私のために怒ってくれてる奏人が差し出してくれた抹茶ラテはもうぬるくなっていて、かなり長く喋り続けていたのもあって、一気に飲み干した。
 よし、続きを話そう。


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