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キミとふたり、ときはの恋。【第五話】
冬萌に沈みゆく天花 —告白—【7一9】
しおりを挟む「困ってるところを助けてもらって、強い励ましの言葉もいただいた。それだけじゃなく、おばあ様は私の家に電話をかけてくださった。親に心配かけたくない私と押し問答があったんだけど、おばあ様はこう言ったの。『学校でのトラブルをご両親は知るべきで、子どもはそれを正確に報告する義務があるのよ。ご両親がどれだけ心配なさるかはご両親の問題で、すずちゃんはお友だちとの間に起きたことをありのまま話すだけでいいの』と。あと、『まずは、汚れた制服を洗って乾燥機にかけてる途中ですから、終わるまで我が家でお預かりしてます。誘拐犯じゃありません。とお電話させてね』って」
おっとりとした口調に茶目っけを加えて微笑んだお顔を、まだくっきりと思い出せる。当時はそこまでの余裕がなかったけど、今にして思えば、どうしておばあ様はあそこまで親切にしてくださったんだろう。
「そんな風に言ってもらったら、気が楽になったね」
「うん、そうなの。で、お母さんが車で迎えに来ることになって、帰りの車中で、さぁちゃんたちとのことを全部話せた」
「当日にちゃんと伝えられたんだね。良かった」
「おばあ様の言葉のおかげよ。初めて会ったよその子に、すごく親身になってくださったから。ただね、お母さんから伝えてもらったら、お父さんが激怒しちゃって、そっちが大変だった」
「もちろん、涼香に対して、じゃなく。クラスメイトへの激怒だったんだろ」
「そうなのよ。学校に乗り込むって言うのをお母さんとおばあちゃんが止めたら、じゃあ弁護士さんに電話するってスマホで検索を始めたから、そのスマホを私がタックルして奪って、さらにお母さんが庭に蹴り捨てて。家の電話はエビゾウを抱っこしたおばあちゃんが上に座って死守するっていう荒技で止める羽目に」
「タックル……蹴り捨て……うん、確かに荒技だね」
あ、今日一番の微妙な表情。整ったお口元がぴくぴくしてる。堪えなくても、笑ってくれて大丈夫なのに。
「いつもながら賑やかな家庭でしょ? 主にお父さんが残念だけど」
「いや、なんと言うか、白藤教授の扱いが……あ、うん。そうだね。楽しいご家庭だよね」
「ふふっ……あー、でもね。家では元気な私もね。翌日に学校に行くってことを考えたら萎縮しちゃってね。その後しばらく、登校できなかった」
「涼香……」
「ひとまず体調不良ということで、お母さんが担任の先生に連絡してくれてね。冬休み直前だったし、期末試験の結果も良かったから、気持ちが落ち着くまで自宅で過ごせばいいってお父さんが言ってくれたの。でもね、学校には行けないくせに、どうしようもなく寂しくて、家族以外の誰かと話したくて、おばあ様のお店には通ってたの」
あー、言っちゃった。
「すごく自己中心的で、わがままなことしてた。家族もおばあ様も、誰も駄目だって言わないのをいいことに、お店の休業日になるとお母さんに車で送迎してもらって、おばあ様の家で楽しく過ごしてたのよ。立ち向かわなきゃいけないことは、たくさんあったのに」
祥徳に編入する前のことを奏人に話せなかったのは、自分がこんな人間だということを言いたくなかったから。
「いつまでもそうしてるわけにはいかないって気づいてたけど、仲良くしてた子たちから苛めを受けたという事実を盾にして、現実逃避してた。それは年が明けても続いた。もうその頃には両親が担任と会って、不登校は苛めが原因だと当事者三人の名前を伝えていたから、余計に行けなかった。数日後に三人の反省文が届けられたけど、私は読めなかった」
弱かった。卑屈だった。自分の殻に閉じこもって泣くだけだった。そのくせ、都合の良い時だけ他人に頼る自分勝手な子だと知られたくなかった。
「何もしないで逃げ続けた。でも、一月が終わる頃、現実逃避の日々に変化が起きた。きっかけは煌先輩が作ってくれた。煌先輩は、伊藤高瀬くんと同じ中学だったの」
奏人は無言だ。何も言わない。ただ、繋いでる手から温もりだけを与えてくれてる。
もうちょっと待ってね。この長い話、あと少しで終わるから。
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