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4 降る雪の… #5
しおりを挟む「――うわー、風が冷たい! 兄さん、ほんとに気をつけてね? 今日は、この冬一番の冷え込みらしいよ」
「大丈夫だ。撮影するだけだし。現地にいるのは3時間程度だから、今夜には戻ってくるよ」
「そうなの? でも、せっかく京都まで行くんだから泊まってくれば? 天橋立も近いし」
「まぁな。それは、行ってから考えることにするよ。じゃ、行ってくる」
「うん、気をつけてね。いってらっしゃい!」
――京都府 京丹後市 峰山町 磯砂山
全国各地に点在する羽衣伝説の土地のひとつに、足を踏み入れる。
毎年この時期になると、全国の羽衣伝説の地を訪れるのが、俺の冬の恒例となっていた。
静岡の三保の松原や滋賀県の余呉湖は二回ずつ行ってるし、去年は沖縄の宜野湾だ。
うん。マジで女々しいよな、俺。自分でも引くわ。どん引き。こんなこと、十年以上もしてんだからな。
登山道の階段を登りながら、ひとり乾いた笑いを漏らす。
山頂に向かう前に、峠から少し下った樹林帯の中にある小さな池に立ち寄った。
「天つ乙女が降りし井か……」
八人の天女が水浴びしたという真奈井の池。樹木に囲まれ、美しい翡翠色に輝く神秘的な池を眺め、羽衣を隠されて天に帰れなくなった天女に思いを馳せる。
俺の演じたカグヤは、直情的に想いをぶつけてくるミカドにほだされる形で愛を得たが、最終的には時や次元を越えても消えない結びつきを育んだ。
あの時の俺たちに、そこまでの結びつきがあれば良かったのに。
はあぁ……駄目だ。女々しすぎる。
毎年、こんな感傷に浸りながら羽衣伝説の地の写真を撮り続けてる。
もう、やめよう。来年は、こんなことやめよう。そう思ってるのに、あの学園祭の時期が近づくと、訪れる場所を決めているんだ。
「俺、いつまで、こんななんだ?」
空を振り仰いで独りごちるけれど、答えはわかりきってる。
溜め息をひとつ落とした時、ひと際強い風が吹き抜けた。木々の枝が大きくしなり、地面に落ちた葉がカサカサと浮いては舞い踊る。
気温が、ぐっと下がった気がした。
「……さむ」
取りあえず、山頂を目指そう。
カメラをリュックに戻し、天女の名残に背を向けた。
山頂へ続く階段に戻ってすぐ、上からおりてくる人影が見えた。こんな寒い日に、俺と同じような物好きがいたのか。
……ん?
「あ……」
え? 嘘、だろ。
人影の輪郭がはっきりと目に入ってきた刹那、ぴたりとその場に足が縫い止められた。
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