妖(あや)し瞳の、艶姿

冴月希衣@商業BL販売中

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鳴弦に、愛の言霊の閃く 【十四】

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 しかも、その時のことを思い出すだけで、今、ものすごい勢いで胸の鼓動が速まっている。困った。これを、どうしたら……。


「あー、であるから、だな。光成?」



――どくんっ!


「な、なんですか?」


 庭に面した簀子縁《すのこえん》で隣り合って座っていた人が、不意に私との距離を詰め、ぴったりと身を寄り添わせてきた。そのせいで、さらに鼓動が跳ね上がる。


「あのな?」


「は、はい」


 私の手が、温かな手に掬い取られ、互いの指が絡む。きゅうっと強く、握られた。


「ふたりきりの時だけで良いから、敬語をやめて話してくれないか? 想いを通じ合わせた今、我らにはそれがふさわしいだろう?」


「敬語を、やめる? のですか?」


「そうだ。それくらい、良いだろう? 我らは、運命に定められた恋の相手なのだから」


「……っ」


 掬い上げた私の指先にそっと口づけながらの、囁き。その言葉の威力に、眩暈がする。


 この人は、“こういう人”。普段は度を超した迂闊者のくせに、こと恋愛に関しては、驚くほど押しが強い。その上、歯が浮きそうな甘い睦言を平気で口にする。


 昨年の秋、撫子と間違って私のもとに夜這いしてきた時もそうだった。


 毎日、何かしらの失敗を重ね続けているのに蔵人所の皆様に本気で嫌われることがない『人たらし』が、こういう面でも遺憾なく発揮されているのだ。


 全く、始末に負えない。


「私は、今よりももっと、お前の近くに行きたいのだよ。そのためには、他人行儀な言葉遣いが邪魔だろう?」


 ちゅっ、ちゅっと。とても大切な物のように、優しい口づけが私の指に降る。


「お前からも、私を求めてほしい。まずは、『建』と敬称なしで呼んでみてくれ」


「今、ですか?」


 そして、指越しに私を射抜いてきた瞳に懇願の光を見てしまえば。


「ん、今すぐ。頼むよ」


「は、はい」


 馬鹿な私は、相手の手をぎゅっと握り返し、あっさりと頷いてしまう。


 そうして、ゆっくりと近づいてくる相手の唇に胸の鼓動を速め、瞳を閉じて告げるのだ。


「……たけ……」


「いいとこ邪魔して、ごめーん! でも、光成ちゃーん。西の対《たい》から筆頭女房のおばさんが向かってきてるから、手ぇ握ってちゅっちゅしてたら、ばれちゃうわよぉ」


「うわあぁっ!」


 あ……。


「びびびっ、白焔っ? な、なぜ、お前がここに居るのだっ?」


「建、おひさしぶりぃ。てゆうか光成ちゃん、アタシの帰還のこと、建に言ってないの? ひどぉい!」


「えっ、帰還? 帰還とは、どういうことだ? 光成っ!」


 ああぁ、面倒くさい展開に……。


 しかし、白焔の言う『筆頭女房のおばさん』とは、安芸のことだろう。ならば、安芸が到着するまでに手早く説明を終えなければ。


「建殿。うっかり失念しておりましたが、白焔は昨夜、大陸より帰還しておったのです」


 名残惜しいが、握り合っていた手をさっと離し、身体もずらして、説明を始めた。


 「あ、敬語になってる」という不満声が聞こえてきたが、それは当然無視。


「建殿も、その身の内に取り込んでおられた時期のことですので、ご記憶にあるでしょう? この白焔が、灰炎の捜索をしていた三月《みつき》の間に都中の妖怪どもを全て支配下に置き、その頭領となっていたことを」


「あー、そういえば。呼んでもないのに、やたら闘いを挑まれたり、あちこちでちょっかいをかけられたりしてたなぁ」


「そうそう。その度に、ぺぺっとあしらってるうちに、相手のほうからアタシの配下になりたいって寄ってくるようになったのよ。ぶっちゃけ、灰炎ちゃんのことで手いっぱいだったんだけど、慕われちゃったらしょうがないでしょ? で、気づいたら、都の近辺に巣くう妖《あやかし》のほとんどが、アタシの熱烈な信者になってたってわけ」


「そのことで、こちらと大陸とを行き来して眷族《けんぞく》を束ねていきたい白焔と、今後現れるかもしれない邪悪な妖への抑止力が欲しい陰陽寮との利害が一致したわけなのです」


「利害……つまり、いざという時には、陰陽寮は白焔と共闘したいということか?」


「はい。ですが、問題は、都における白焔の住まいでした。はっきり言って、引き取り手が誰もいなかったのです。こやつが、あれこれと条件をつけすぎて」


「えー、だぁってぇ。アタシ、綺麗な物と美味しい物に囲まれて過ごしたいのよぅ。ってことで、住むなら光成ちゃんのところがいいって逆指名しちゃったのっ」


「それで、ここに居たのか。あー、驚いた。しかし光成。お前、よく引き受けたな」


「仕方ないではありませんか。陰陽寮の主だった皆様から直々に頼まれましたし、他の方に預けて変な迷惑をかけるくらいなら、こやつの言動に慣れている私が、と思ったのですよ」


「そ、そうか。なんか悪いな。本来なら、意識を同じくしていた私が預かるべきところのような気がするのに」


「あー、駄目駄目。建のところは、駄目。だって建の親父さま、ちょっぴりふっくらさん、だもん。アタシ、無理無理っ」


「え……」
「え……」


「それに引き替え、光成ちゃんの親父さまは、イケてるからアリなのよ」


「え……」
「え……」


「ほっぺぷくぷくの建の親父さまと違って、すらっと痩身だしぃ。真面目な風貌なのに所作がすっきり爽やかで、声が渋いのよぅ。アタシの好み、どんぴしゃ!」


「え……」
「え……」


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