転生したら奴隷だったので人生絶望的かと思ったけれど豪運スキルをきっかけになんだかんだうまくやれてます

小龍ろん

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精霊誕生

66. 道具の発注

 テリヤキバーガーの試食会は好評に終わった。

 スピラもローウェルも気に入ってくれたみたいだし、翼人の郷で食べたことがあるハルファも満足げだったので問題はない。特に気に入ってくれたのがシロルで、何度も何度もおかわりを要求してきたので大変だった。主にローウェルが。

 いや、最初は魔法で対応しようと思ったんだよ。魔術師ギルドで良さそうな魔法スクロールを見繕って、風魔法のウインドカッターとシュレッディングストームを覚えてみたんだけど、攻撃魔法を料理に転用するのはなかなか難しそうだった。

 まず試したのが、ウインドカッター。風の刃で目標を切り裂く、風属性の初級攻撃魔法だ。この風の刃を同時に複数出現させるようにアレンジできないかと思ったんだけど……結論を言えば、無理だった。

 魔法技能が未熟なのか、それともイメージ力が足りないのか。原因はわからない。だけど、手応えから言って、どんなに熟達してもひき肉づくりに適していなさそうだったので断念した。

 もう、一方のシュレッディングストームは風属性の中級攻撃魔法。広範囲に暴風を発生させ、内部にいるものをズタズタに切り裂くという魔法だ。こっちはある程度アレンジできそうな手応えを感じた。でも、さすがに効果範囲を肉塊のごく近くの領域だけに絞るのは難しくて、現状ではうまくいかなかったんだ。

 というわけで、ひき肉づくりはローウェルにお願いしたんだよね。刃物の扱いになれているからか、作業スピードは想定以上に早かった。包丁二刀流でトトトンとひき肉を作ってくれたんだけど、それでも作業としてはなかなか大変だったみたい。シロルのおかわり攻勢の前に敗北を喫したんだ……。

 というわけで、僕はガロンドの職人街に来ている。ひき肉を作るための道具――ミンサーと、おろし金を鍛冶屋さんに作ってもらうためだ。僕としてはシュレッディングストームでひき肉をつくることを諦めてはいないけど、魔法の上達にはそれなりに時間が掛かりそうだったからね。もし、コンテスト開催日ギリギリになって、やっぱり出来ないとなっても困るし。

 鍛冶屋さんに伝手はないんだけど、商業ギルドのルランナさんにおすすめの鍛冶屋さんを聞いておいたから抜かりはない。

 ちなみに、僕以外はお休みってことで自由行動だ。鍛冶屋さんに大勢で押しかけるのも迷惑だからね。ハルファとシロルはスピラと行動するって言ってた。屋台めぐりで敵情視察もするって話だけど……まあ、遊びみたいなもんだよね。料理コンテストはまだ先の話だし、コンテストに出す商品はまだ開発中って人が多いんじゃないかと思う。

 職人街にはいろんな職人さんが揃っているんだけど、鍛冶屋さんは街の外縁部に集まっている。町中でカンカンやるとうるさいから、一カ所に集められてるんだって。たしかに、鍛冶屋さんの密集地帯に近づくと、あちこちから金属を叩くようなやかましい音が響いてきた。

 目的の鍛冶屋さんは、鍛冶屋地帯の特に奥まった場所にあるザルダン工房。鉱人の親方が取り仕切る鍛冶工房だ。入り口をくぐると、僕より少し年上くらいの少年がこちらを見ていた。たぶん、職人見習いの子だろうね。

「こんにちは。商業ギルドの紹介できました」
「え? ああ、こんにちは。……ん? 商業ギルド」
「はい、ルランナさんから」
「……ちょっと待ってろ」

 少年はそれだけ言うと、奥に引っ込んでいった。一応、ルランナさんから紹介状のようなものも貰ってたんだけど見せる間もなかったね。

 しばらくすると、少年がおじさんを連れて戻ってきた。おじさんは身長がやや低く、代わりに横幅がある。とはいえ太っているのではなく、全身が筋肉で覆われている感じ。典型的な鉱人の体型だ。たぶん、この人がザルダン親方だね。

「草人……じゃねえよな。お前みたいな坊主が、なんでまたギルドからの紹介を? ルランナからの紹介って、またややこしい依頼か?」

 若干うんざりとした声音で親方がぼやいている。どうやら、ルランナさんから色々無茶ぶりされているみたいだ。まあ、それだけ腕がよくて融通が利くと信頼されているんだと思うけど。

「ややこしいかどうかはわからないですけど。作ってほしいものがあるんです」

 さっそく、おろし金とミンサーについて説明する。まあ、おろし金は問題ない。実際、似たようなものを作ったことがあるというので、すぐに引き受けてもらえた。

 問題はミンサー。なにが問題って、僕自身がミンサーの構造がどうなっているか知らないんだよね。説明するのが大変だ。なので、サンプルとして、ミンチ前の肉と、ひき肉、そして、それを調理したテリヤキバーガーを用意してある。それらを親方の前に並べて、用途について説明しようとしたんだけど――

「ふむ? 見たことがない料理だな?」

 親方がテリヤキバーガーに興味津々だ。

 そういえば、鉱人ってお酒と食事が大好きな種族なんだった。美食家って感じじゃないんだけどね。むしろ鍛冶に集中しているときはストイックでお酒も飲まずにひたすらに仕事に打ち込むみたい。その反動なのか、仕事が一段落つくと驚くほどお酒と食事に貪欲になるんだって。

「よくわからんが、これを作るための道具がいるわけだな? ならば、最終的にどんな料理ができるのか確認しておかなければならんな」

 親方は自信満々にそう言い放った。あまりにも堂々としているから、なんとなく納得しそうになったけど……肉をミンチにすることだけわかっていればいいよね?

 まあ、幾つか用意してあるから、ひとつぐらい食べてもいいけど。

「えっと、じゃあどうぞ」
「おお、そうか! それでは遠慮なく」

 ザルダン親方はテリヤキバーガーに大きな口でかぶりつく。立派なひげにテリヤキソースがついて大変なことになっているけど、それを指摘するまもなく親方が叫んだ。

「これは……うまい!」

 どうやら気に入ってもらえたみたい。それ自体は良かったんだけど……。

 親方の声につられてか、おそらく作業部屋だと思われる奥の部屋から続々と鉱人の職人が姿を現したんだ。全員で親方に、何を食べているのか詰め寄っている。正直、ちょっと怖い。

 そして、親方が僕をさして、あいつに貰ったと言ったものだから、さあ大変だ。さすがに僕に詰め寄って来たりはしなかったけど、俺たちにはないのかという無言の圧が凄い!

 どうしてこんなことになったんだ……。
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