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邪気封滅
175. お迎え
気がつけば、ハルファは真っ白な空間にいた。周囲には何もない。見渡す限り一面の白。白以外のものといえば、自分と自分の影だけだった。
「トルト! スピラちゃん! ねえ、みんな!」
不安に駆られてハルファは仲間の名前を呼ぶ。しかし、返事はない。それどころか自分の声すら反響も残さずに消えていった。
泣き出したい気持ちをぐっと飲み込む。
(今は状況を確認しないと。泣くのは後からでもできるんだから)
改めて周囲を見回しても、白以外には何もない。壁も床も天井も真っ白で、方向感覚どころか上下の感覚さえおかしくなりそうな空間だった。無闇に動いても意味はないと判断したハルファはその場に座り込む。心が折れたわけではない。体力の消耗を抑えるためだ。
座り込んだまま、ハルファは状況を整理することにした。
直前の状況から考えて、魔法陣によってこの空間に転移させられたのだろう。あの魔法陣は部屋全体に広がっていた。ハルファ以外も同じような空間に捕らわれている可能性が高い。
考えれば考えるほど絶望的な状況。だが、ハルファは仲間のことを――トルトのことを考えると不思議と勇気が湧いてきた。
(だって、あのトルトが大人しく捕らわれたままでいるはずないもの)
今度は何をしでかすんだろうと考えると、ハルファの顔には自然と笑顔が浮かんできた。
翼人の郷において、ハルファは特別な子だった。白い羽を持つ翼人は高貴な生まれ。人間の貴族とは少々違うが、種族を導く指導者の氏族である。その上に、彼女は運命神の巫女としての資質があった。
使徒と巫女。翼人全体で見ると、それほど珍しい存在でもない。とはいえ、彼等は神から選ばれた存在。露骨に崇められたりはしないが、それでも敬いをもって対応されるのは確かだ。
ハルファも幼い頃から、郷の大人たちからそのような扱いを受けていた。子供たちは大人の態度を敏感に察する。
もし、子供たちが親から尊ばれるハルファを疎ましく思って懲らしめてやろうという動きがあったならば、彼女はそれを返り討ちにして、喧嘩して……そして無理矢理仲良くなっていただろう。ハルファはそれくらいお転婆な少女だ。
だが、不幸なことに彼女は指導者の氏族だった。周囲にいたのも、幼いころからきちんと教育を受けた子供たち。かつて翼人が運命神から受けた恩をしっかりと聞かされ育った子供たちにその巫女たるハルファに悪意を持つことない。子供たちもハルファを尊き存在として接した。だが、それは対等な関係ではない。その結果、ハルファは郷で孤立していた。
鬱屈した郷での生活を嫌ったハルファはたびたび郷を抜け出すようになる。奴隷狩りにあったのも、それが原因だ。そうして奴隷として売られてしまいそうになったとき、トルトと出会った。
トルトは不思議な子だ。特別強そうに見えるわけでも、賢そうに見えるわけでもない。だけど、そばにいると安心できる。そして、何よりハルファのことを巫女ではなくただのハルファとして見てくれる。それがハルファにはうれしかった。そんな風に見てくれたのは、故郷では彼女の両親と兄くらいだったから。
(ちょっとだけ気にくわないことがあるとすれば、私のことを妹扱いすることだよね! 私たちは友達なんだから、対等な関係だもの!)
トルトが一緒に故郷を探してくれると言ってくれてうれしかった。故郷に戻れない心細さも、トルトと一緒に過ごすうちに薄れていった。何と言っても、トルトといれば退屈はしない。楽しいこともたくさんやってくる。サリィにミル、レイとの冒険は楽しかった。シロルは可愛いし面白い。スピラという友達もできたし、その兄であるローウェルも優しくしてくれる。いつの間にか、故郷に戻りたいという気持ちすらなくなっていた。
できればこのままずっと旅をしていたい。トルトと一緒に。
神託によって運命神と対面したときにハルファはそのことを自覚した。翼人の郷へ戻ることもできると、運命神より告げられたからだ。言葉に詰まるハルファに、運命神は旅を続けることを提案してくれた。彼女はその提案に一も二もなく飛びついた。運命神はその様子を見てから、穏やかに言ったのだった。トルトを頼むね、と。
(あのときの運命神様、嬉しそうだったけど……ちょっぴり寂しそうだったな)
ともあれ、ハルファはその頼みを承諾した。運命神から頼まれたのだから、巫女として応えなければならない。もちろん、そんなのは建前だ。そうすればトルトと一緒にいられる理由が増えるから。
(おっと、いけない。いつの間にか思い出を振り返ってた。それよりもなんとかここを脱出しないと!)
不安はすっかりと消えている。
「よし!」
ハルファが気合いを入れるために立ち上がった、そのとき。
「あ、いたいた。ハルファ、大丈夫だった?」
突然生まれた気配と一緒に、のんびりとした声が聞こえてくる。振り返ると、そこにはいつもと変わらないトルトの姿があった。
「トルト! スピラちゃん! ねえ、みんな!」
不安に駆られてハルファは仲間の名前を呼ぶ。しかし、返事はない。それどころか自分の声すら反響も残さずに消えていった。
泣き出したい気持ちをぐっと飲み込む。
(今は状況を確認しないと。泣くのは後からでもできるんだから)
改めて周囲を見回しても、白以外には何もない。壁も床も天井も真っ白で、方向感覚どころか上下の感覚さえおかしくなりそうな空間だった。無闇に動いても意味はないと判断したハルファはその場に座り込む。心が折れたわけではない。体力の消耗を抑えるためだ。
座り込んだまま、ハルファは状況を整理することにした。
直前の状況から考えて、魔法陣によってこの空間に転移させられたのだろう。あの魔法陣は部屋全体に広がっていた。ハルファ以外も同じような空間に捕らわれている可能性が高い。
考えれば考えるほど絶望的な状況。だが、ハルファは仲間のことを――トルトのことを考えると不思議と勇気が湧いてきた。
(だって、あのトルトが大人しく捕らわれたままでいるはずないもの)
今度は何をしでかすんだろうと考えると、ハルファの顔には自然と笑顔が浮かんできた。
翼人の郷において、ハルファは特別な子だった。白い羽を持つ翼人は高貴な生まれ。人間の貴族とは少々違うが、種族を導く指導者の氏族である。その上に、彼女は運命神の巫女としての資質があった。
使徒と巫女。翼人全体で見ると、それほど珍しい存在でもない。とはいえ、彼等は神から選ばれた存在。露骨に崇められたりはしないが、それでも敬いをもって対応されるのは確かだ。
ハルファも幼い頃から、郷の大人たちからそのような扱いを受けていた。子供たちは大人の態度を敏感に察する。
もし、子供たちが親から尊ばれるハルファを疎ましく思って懲らしめてやろうという動きがあったならば、彼女はそれを返り討ちにして、喧嘩して……そして無理矢理仲良くなっていただろう。ハルファはそれくらいお転婆な少女だ。
だが、不幸なことに彼女は指導者の氏族だった。周囲にいたのも、幼いころからきちんと教育を受けた子供たち。かつて翼人が運命神から受けた恩をしっかりと聞かされ育った子供たちにその巫女たるハルファに悪意を持つことない。子供たちもハルファを尊き存在として接した。だが、それは対等な関係ではない。その結果、ハルファは郷で孤立していた。
鬱屈した郷での生活を嫌ったハルファはたびたび郷を抜け出すようになる。奴隷狩りにあったのも、それが原因だ。そうして奴隷として売られてしまいそうになったとき、トルトと出会った。
トルトは不思議な子だ。特別強そうに見えるわけでも、賢そうに見えるわけでもない。だけど、そばにいると安心できる。そして、何よりハルファのことを巫女ではなくただのハルファとして見てくれる。それがハルファにはうれしかった。そんな風に見てくれたのは、故郷では彼女の両親と兄くらいだったから。
(ちょっとだけ気にくわないことがあるとすれば、私のことを妹扱いすることだよね! 私たちは友達なんだから、対等な関係だもの!)
トルトが一緒に故郷を探してくれると言ってくれてうれしかった。故郷に戻れない心細さも、トルトと一緒に過ごすうちに薄れていった。何と言っても、トルトといれば退屈はしない。楽しいこともたくさんやってくる。サリィにミル、レイとの冒険は楽しかった。シロルは可愛いし面白い。スピラという友達もできたし、その兄であるローウェルも優しくしてくれる。いつの間にか、故郷に戻りたいという気持ちすらなくなっていた。
できればこのままずっと旅をしていたい。トルトと一緒に。
神託によって運命神と対面したときにハルファはそのことを自覚した。翼人の郷へ戻ることもできると、運命神より告げられたからだ。言葉に詰まるハルファに、運命神は旅を続けることを提案してくれた。彼女はその提案に一も二もなく飛びついた。運命神はその様子を見てから、穏やかに言ったのだった。トルトを頼むね、と。
(あのときの運命神様、嬉しそうだったけど……ちょっぴり寂しそうだったな)
ともあれ、ハルファはその頼みを承諾した。運命神から頼まれたのだから、巫女として応えなければならない。もちろん、そんなのは建前だ。そうすればトルトと一緒にいられる理由が増えるから。
(おっと、いけない。いつの間にか思い出を振り返ってた。それよりもなんとかここを脱出しないと!)
不安はすっかりと消えている。
「よし!」
ハルファが気合いを入れるために立ち上がった、そのとき。
「あ、いたいた。ハルファ、大丈夫だった?」
突然生まれた気配と一緒に、のんびりとした声が聞こえてくる。振り返ると、そこにはいつもと変わらないトルトの姿があった。
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