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第2章 コロニー128脱獄計画
9話 「作戦決行」
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作戦決行日。
本来なら女との金の取引の日であり、中央の人間との接見がある日だ。
ミリセアの状態をしっかりと確認できていない事が心残りだが、それは婆さん達に任せて俺は中央の人間の話を聞きに行くことにしよう。
俺は家を出ると、婆さんの家に立ち寄る。
皆今日が勝負の日である事をわかっているようで、独特の緊張感が蔓延していた。
「いよいよ今日が、取引の日だねぇ……」
「あぁ、それなんだが」
何から話したものか。
グロムを尾行し、ミリセアが捕らえられていると思しき場所を発見した事。
中央がミリセアの件を解決してやれるかもしれんから来いと呼んでいる事。
昨日の来訪者の事。
俺は一つ一つ伝え、婆さんはそれだけ進展してるなら早く言いなと怒った。
正直、これだけの情報の獲得は昨日の僥倖によるものなので言い出すタイミングが無かったのだが、悪いと付け加えておく。
「じゃ、あたし達はその小屋だね。中央にいるいけ好かない男の対処は、あんたに任せるよ」
「あぁ。気を付けてな」
「あたしゃ心配される程衰えちゃいないよ」
まぁ、70を迎えてなお階級は軍人級だ。
末恐ろしい魔術の師匠。こういう時は、頼りにするとしよう。
「お前らも頼むぞ」
レンとノアははいと頷き、俺は内層の更に中央へと歩を進めた。
ーーー
「入れ」
甲冑を着た兵士の響く声を聞いて、俺は煌びやかな扉を開く。
いつだかと同じような状況だが、今日はあの日とは違う。
「来たか。カイラス・ヴァレンティア」
「お招きいただき光栄です。ヴァリウス様」
巨大な椅子に堂々と構えたヴァリウスと対面する。
今日はヴァリウスと、扉の前にいる兵士の2人のみだ。
「悪いが近衛兵よ。席を外してくれまいか」
「はっ!」
圧倒される豪勢な空間に2人きりとなる。
いよいよと言った様子で、ヴァリウスは語りだした。
「ヴァレンティア。貴様が軍に辞表を出したというのは本当か。私には少し信じられないのだがね」
「はい。先日のエルム区の騒動を期に、外層の人々の為に力を使いたいと思ったのです」
「そうか……」
ヴァリウスはその言葉の全てを確かめるように重い声を出す。
「貴様の働きは、常々聞き及んでいた。このコロニーの最高戦力として数年間、職務を全うしてくれた事を嬉しく思う。そこで、その功労者に褒美を出しても良いのではないかと、私は思ったのだ」
……来たか。
「私もあのエルム区の騒動から、外層の様子にまで耳を貸すようにした。するとどうだ。君とも繋がりのあるミリセア・フローラという少女が、拉致されたというではないか」
「……えぇ」
「その罪人が要求してきたのは、やはり金か」
「はい。神龍金貨を1000枚ほど、要求されました」
「それは、可哀想にな……」
ヴァリウスはその苦しさを分かち合うように、優しい声色を作り提案をする。
「その金額、貴様の働きに免じて、私が捻出してもいい」
「本当ですか」
「あぁ。これは外層の治安まで維持できなかった私の至らなさでもある。君への褒美としては、丁度いいだろう」
これが、この人のやり方なのだろう。
こうやって精神状態の擦り切れたであろう人間に寄り添い、服従させ、盟約を結ばせようとする。
「だが申し訳ない事に、条件はある。軍事に、これからも励んでくれぬか。君の並々ならぬ成果に我々も助けられている。それを受け入れてくれるのなら、人質の件を私が全て解決しよう」
「そうですか」
「悪い話では、なかろう?」
ヴァリウスは表情を緩ませる。
勝ちを確信したのか、事が上手くいっているのが面白くてたまらないのか。
もういい。ここまで吐かせる事が出来れば、あの女からの情報は真実だと分かる。
この騒動の締めに入るとしよう。
「いいや、それは俺にとっちゃ悪い話だな。ヴァリウス」
「……なに?」
ーーー
ベリンダ視点
カイが突き止めた小屋が遠くに見えた。
そこは内層の端。高い建物の陰になるような位置にある廃墟のような様相で、いかにも人質を隠すのにうってつけに思える。
「あんたたち。そこからは気を付けなよ」
「大丈夫。まだ距離がある」
レンもノアも真剣に、ミリーを救出しようと望んでくれている。
数年前まではあたしの後ろをついて、新しい場所や外層の暗がりにいくだけで足を震わせてたってのに。今となってはあたしの足が震えてるよ。疲労で。
昔はやってたけど、風魔法を使って少し体を浮かせてみようか。
……いや、久々にやったそれであたしが戦線離脱したら間抜けすぎる。
もしミリーにお婆さん大丈夫?なんて駆け寄られでもしたらあたしの心が折れる。
そう思い、歩く事を決意した時だった。
「誰か出てきた」
ノアがそう呟く。途端道端の石ころのように音を殺し、その相手を警戒した。
まだ遠くなので、顔はよく見えないが、背丈と立ち振る舞いからして、あのカイの同僚の可能性が高い。
まったく、面倒くさい協力者だ。
「あんたたち、ひとまず動くんじゃないよ」
……まずいね。
カイの方が上手くいっていれば、今頃ヴァリウスとかいうこの件の黒幕を追いつめているはずだ。
だが、もし失敗したら?人質は場所を変えられるか、ミリー自体にナイフが突き立てられてもおかしくはない。
その為に恐らく午前、見張りのいないタイミングでミリーを回収するって手筈だったんだが……今日が勝負の日だからか、向こうも気合いが入ってるって訳かねぇ。
男は小屋の入り口からピクリとも動かない。
あれは無防備なのではない。探っているのだ。
質の良い剣士はしっかりと音を聞く。今この距離で、堂々と足音を出せば気が付かれるだろう。
そのまま、数分が経つ。
埒が明かないので、あたしらは小屋をぐるりと回るようにして移動する。
何か中の様子を探る事は出来ないかと思ったんだ。
結果、窓はあれど高く中の様子は覗けない。
あたしはならばと隣の建物に登る。
そこで待っていろとジェスチャーをして、階段を登っていく。
よく考えたらこの役目は足にきているあたしがやる事ではないが、登りはじめたもんは仕方がない。
3階程度の位置まで登り、中を覗き見た。
確かに、ミリーらしい背丈の子が中にいる。
あたしの視力じゃ限界があるが、確かに人の存在は確認できた。
すると少女は顔を上げ、こちらを見た。
あたしの事が、見えている?
彼女の視力なら、あたしが分かるのか?
すると、ミリーらしき人物は窓に張り付くようにして立ち上がる。
これなら下のレンとノアがミリーか確認できるだろう。
レンとノアが反応し、ミリーが窓を叩く。
「……!」
安堵感から来る気の緩みから音を出したのか、男に気付かれている!
その上ミリーに夢中なもんで、レンとノアは近づく男に気付いていない。
「チッ……」
あたしは即座に魔術を展開する。
意識を指先に集中させ、狙いを定める。
イメージするのは2人と迫る男の間に作る風。
レンが剣を抜く時間を稼げるくらいの、力強い風を放った。
風が落ち着き、戦況が見える。
レンが剣を抜き、男と対峙している。
だが狙いがやや左に逸れたか。体幹の弱いノアを派手に吹き飛ばしてしまった。
あたしの視力じゃ、レンとの戦闘にこの距離から的確に魔術を飛ばせない。
この高さから降りようと決意し、とっさに階段から飛び降りた。
若い頃はよくやっていた、自分の体重を支えるほどの風、衝撃を吸収する風を起こす。
恐怖でやや豪風気味となった風を抑えて、なんとか着地する。
なんだ。結構やれるじゃないか。
次からの移動は、風を使ってもいいだろう。
あたしは男と向きあった。
状況は2対1。なんとか、凌げるだろうか。
本来なら女との金の取引の日であり、中央の人間との接見がある日だ。
ミリセアの状態をしっかりと確認できていない事が心残りだが、それは婆さん達に任せて俺は中央の人間の話を聞きに行くことにしよう。
俺は家を出ると、婆さんの家に立ち寄る。
皆今日が勝負の日である事をわかっているようで、独特の緊張感が蔓延していた。
「いよいよ今日が、取引の日だねぇ……」
「あぁ、それなんだが」
何から話したものか。
グロムを尾行し、ミリセアが捕らえられていると思しき場所を発見した事。
中央がミリセアの件を解決してやれるかもしれんから来いと呼んでいる事。
昨日の来訪者の事。
俺は一つ一つ伝え、婆さんはそれだけ進展してるなら早く言いなと怒った。
正直、これだけの情報の獲得は昨日の僥倖によるものなので言い出すタイミングが無かったのだが、悪いと付け加えておく。
「じゃ、あたし達はその小屋だね。中央にいるいけ好かない男の対処は、あんたに任せるよ」
「あぁ。気を付けてな」
「あたしゃ心配される程衰えちゃいないよ」
まぁ、70を迎えてなお階級は軍人級だ。
末恐ろしい魔術の師匠。こういう時は、頼りにするとしよう。
「お前らも頼むぞ」
レンとノアははいと頷き、俺は内層の更に中央へと歩を進めた。
ーーー
「入れ」
甲冑を着た兵士の響く声を聞いて、俺は煌びやかな扉を開く。
いつだかと同じような状況だが、今日はあの日とは違う。
「来たか。カイラス・ヴァレンティア」
「お招きいただき光栄です。ヴァリウス様」
巨大な椅子に堂々と構えたヴァリウスと対面する。
今日はヴァリウスと、扉の前にいる兵士の2人のみだ。
「悪いが近衛兵よ。席を外してくれまいか」
「はっ!」
圧倒される豪勢な空間に2人きりとなる。
いよいよと言った様子で、ヴァリウスは語りだした。
「ヴァレンティア。貴様が軍に辞表を出したというのは本当か。私には少し信じられないのだがね」
「はい。先日のエルム区の騒動を期に、外層の人々の為に力を使いたいと思ったのです」
「そうか……」
ヴァリウスはその言葉の全てを確かめるように重い声を出す。
「貴様の働きは、常々聞き及んでいた。このコロニーの最高戦力として数年間、職務を全うしてくれた事を嬉しく思う。そこで、その功労者に褒美を出しても良いのではないかと、私は思ったのだ」
……来たか。
「私もあのエルム区の騒動から、外層の様子にまで耳を貸すようにした。するとどうだ。君とも繋がりのあるミリセア・フローラという少女が、拉致されたというではないか」
「……えぇ」
「その罪人が要求してきたのは、やはり金か」
「はい。神龍金貨を1000枚ほど、要求されました」
「それは、可哀想にな……」
ヴァリウスはその苦しさを分かち合うように、優しい声色を作り提案をする。
「その金額、貴様の働きに免じて、私が捻出してもいい」
「本当ですか」
「あぁ。これは外層の治安まで維持できなかった私の至らなさでもある。君への褒美としては、丁度いいだろう」
これが、この人のやり方なのだろう。
こうやって精神状態の擦り切れたであろう人間に寄り添い、服従させ、盟約を結ばせようとする。
「だが申し訳ない事に、条件はある。軍事に、これからも励んでくれぬか。君の並々ならぬ成果に我々も助けられている。それを受け入れてくれるのなら、人質の件を私が全て解決しよう」
「そうですか」
「悪い話では、なかろう?」
ヴァリウスは表情を緩ませる。
勝ちを確信したのか、事が上手くいっているのが面白くてたまらないのか。
もういい。ここまで吐かせる事が出来れば、あの女からの情報は真実だと分かる。
この騒動の締めに入るとしよう。
「いいや、それは俺にとっちゃ悪い話だな。ヴァリウス」
「……なに?」
ーーー
ベリンダ視点
カイが突き止めた小屋が遠くに見えた。
そこは内層の端。高い建物の陰になるような位置にある廃墟のような様相で、いかにも人質を隠すのにうってつけに思える。
「あんたたち。そこからは気を付けなよ」
「大丈夫。まだ距離がある」
レンもノアも真剣に、ミリーを救出しようと望んでくれている。
数年前まではあたしの後ろをついて、新しい場所や外層の暗がりにいくだけで足を震わせてたってのに。今となってはあたしの足が震えてるよ。疲労で。
昔はやってたけど、風魔法を使って少し体を浮かせてみようか。
……いや、久々にやったそれであたしが戦線離脱したら間抜けすぎる。
もしミリーにお婆さん大丈夫?なんて駆け寄られでもしたらあたしの心が折れる。
そう思い、歩く事を決意した時だった。
「誰か出てきた」
ノアがそう呟く。途端道端の石ころのように音を殺し、その相手を警戒した。
まだ遠くなので、顔はよく見えないが、背丈と立ち振る舞いからして、あのカイの同僚の可能性が高い。
まったく、面倒くさい協力者だ。
「あんたたち、ひとまず動くんじゃないよ」
……まずいね。
カイの方が上手くいっていれば、今頃ヴァリウスとかいうこの件の黒幕を追いつめているはずだ。
だが、もし失敗したら?人質は場所を変えられるか、ミリー自体にナイフが突き立てられてもおかしくはない。
その為に恐らく午前、見張りのいないタイミングでミリーを回収するって手筈だったんだが……今日が勝負の日だからか、向こうも気合いが入ってるって訳かねぇ。
男は小屋の入り口からピクリとも動かない。
あれは無防備なのではない。探っているのだ。
質の良い剣士はしっかりと音を聞く。今この距離で、堂々と足音を出せば気が付かれるだろう。
そのまま、数分が経つ。
埒が明かないので、あたしらは小屋をぐるりと回るようにして移動する。
何か中の様子を探る事は出来ないかと思ったんだ。
結果、窓はあれど高く中の様子は覗けない。
あたしはならばと隣の建物に登る。
そこで待っていろとジェスチャーをして、階段を登っていく。
よく考えたらこの役目は足にきているあたしがやる事ではないが、登りはじめたもんは仕方がない。
3階程度の位置まで登り、中を覗き見た。
確かに、ミリーらしい背丈の子が中にいる。
あたしの視力じゃ限界があるが、確かに人の存在は確認できた。
すると少女は顔を上げ、こちらを見た。
あたしの事が、見えている?
彼女の視力なら、あたしが分かるのか?
すると、ミリーらしき人物は窓に張り付くようにして立ち上がる。
これなら下のレンとノアがミリーか確認できるだろう。
レンとノアが反応し、ミリーが窓を叩く。
「……!」
安堵感から来る気の緩みから音を出したのか、男に気付かれている!
その上ミリーに夢中なもんで、レンとノアは近づく男に気付いていない。
「チッ……」
あたしは即座に魔術を展開する。
意識を指先に集中させ、狙いを定める。
イメージするのは2人と迫る男の間に作る風。
レンが剣を抜く時間を稼げるくらいの、力強い風を放った。
風が落ち着き、戦況が見える。
レンが剣を抜き、男と対峙している。
だが狙いがやや左に逸れたか。体幹の弱いノアを派手に吹き飛ばしてしまった。
あたしの視力じゃ、レンとの戦闘にこの距離から的確に魔術を飛ばせない。
この高さから降りようと決意し、とっさに階段から飛び降りた。
若い頃はよくやっていた、自分の体重を支えるほどの風、衝撃を吸収する風を起こす。
恐怖でやや豪風気味となった風を抑えて、なんとか着地する。
なんだ。結構やれるじゃないか。
次からの移動は、風を使ってもいいだろう。
あたしは男と向きあった。
状況は2対1。なんとか、凌げるだろうか。
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