【完結】魔物世界と太陽の鳥 ~魔法軍最強の俺はコロニー上層部が腐ってるので少女を連れて別のコロニーを目指す~

中島伊吹

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第3章 本物の太陽

15話 「長い旅の始まり 後編」

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 今日は長い1日だったが、これで一旦休憩だ。皆で飯にするとしよう。



 飯の中身はパンやナッツ類、キノコ類、スープ用の粉末なんかが主だった。

 外層の食事の中から腐りにくい物を選抜したものなのでバリエーションは皆無だが、まぁこんなものだろう。



 適当にスープ用の粉末を手に取り、土の魔術で食器を作り、水の魔術と掛け合わせてスープにする。

 こういう時の土魔術の汎用性の高さは異常だ。



 全員分のスープを混ぜ、パンを浸し、まだ家の感触を確かめていたミリーと剣を研いでいたグロムを呼びつけた。

 というかそんな長く剣を研ぐ必要あったか?飯の準備めんどくさいから剣を研ぐフリをしていなかったか?



 まぁいいかと思いつつ皆で飯にする。



「うーん。可もなく不可もなくだね」

「もうちっとパンチの効いたのが好みだな俺は」



 評論家2人に怒られた。

 別に俺は食べれる状態にしただけだが、さも俺が料理下手みたいになってるのが不服だ。



 大した量でも無いので皆すぐに食べ終わり、ミリーが口を開いた。



「汗がベトベト、拭きたい」



 そう言われ、荷物を開く。

 タオルを持ち出し、ミリーに渡した。



「お湯もあった方がいいか」

「うん」



 土の魔術で桶を作り、水の温度を炎で上げる。それをお湯とし、ミリーに渡した。



「ミリーは一応魔術が使えはするんだったよな」

「え、あ、うん。すっごい微妙にだけどね」

「そうか。じゃあ洋服も洗って、適当に乾かしてこい」



 ミリーはokのジェスチャーをすると、桶を重そうに持ちながら土の建物に入っていった。

 それまで黙っていたグロムが、期を見計らったように口を開く。



「ほんとにこんな距離移動しちまって大丈夫だったのか?あの子魔術師だろ?」



 ミリーの足腰に関しての心配らしい。



「いいんじゃないのか。本人がいいって言うなら」

「俺は明日あの子が動けなくなることに賭けてもいいぜ」



 やる気のある剣士によくある無茶だとグロムは言う。

 まぁ実際そうかもしれないが、今回は明確なゴールがある。距離的な進展があるならいいんじゃないかとも思う。



 グロムとの雑談がやけにぎこちない。

 今日の朝、あんな会話をしたのだから当然か。



「にしてもなぁ……俺は職も放り投げてなにやってんだろうな」

「後悔しているのか?」

「いんや?今朝の俺は何度やってもあの選択をしてだろうな。ただ今後の結果次第で後悔することになるかもしれんのが、ちっと不安なだけだ」



 グロムは考え込んだ末に伸びをして、ゆっくりとこう続けた。



「まぁ正直あんな事して、現実逃避の意味もあったとは思うな。あんな場所から逃げ出してぇって」



 グロムにとってそれは過去の自分を捨て去る為の強さでもあり、過去の自分から逃げたいという弱さでもあったのだろう。



「きっかけって、案外そんなもんが多い気はするがな。夢を追うだとか、憧れとかよりも、もっと後ろ向きな原動力」

「まぁ……そうかもなぁ」



 炎がパチパチと小さくなって来たのでまた炎魔法で強くし、風魔法で火力を増す。



「あの子……おめぇはミリーって呼んでるが、あの子はコロニー003で暮らす事になるんだろ?」

「あぁ。もしグロムがコロニー003に定住する事になったら、たまには様子を見てやってくれ」

「あれ、お前は003には住まねぇの?」

「俺は128に戻る」

「そうなのか……」



 グロムとしては一緒に003でやっていくイメージだったのだろうか。

 それも悪くは無いが、俺のやりたい事とはなんだか違うな。



 そう思った時、土のドームからどんがらがっしゃんと音がした。



「おいミリー、大丈夫か」

「うん……足に桶落としただけ……」



 その声からは明らかに苦しみが伝わってくる。結構痛いやつだなあれ。



「あの子は、なんか危なっかしいなぁ。俺はおめぇのお守りがまだ必要に思うぜ。それか、1人で生きていくだけの強さをつけるか」

「お前なりの教訓か?」

「まぁそうだな。絶対だと言う気はねぇが、間違ってもねぇだろ?」



 1人になり、力をつけて生きてきたグロムはその大切さを知っているのだろう。

 向こうではアルヴァン・フローラがミリーを家族のように扱うだろうから、魔術を極める必要はなくなりそうだが。

 強さというのは魔術に限った話では無いだろう。

 軽くうなずきを返して、言葉を探す。



 きっとこれからの旅路で、色々な事へ踏み出す勇気がいる事になるだろう。

 強さや経験があれば、その勇気に根拠が生まれる。

 それはこんな世界を生きる為に、必要な物だ。



 ミリーが帰ってきて、炎に当たり出す。

 この子は婆さんの元を離れ、きっと俺の元も離れ、大人になっていく。

 そうそう行き来も出来ないだろうが、この子が大人になった時など、なんらかの節目の時は会い行きたいと思った。



 グロムが次は俺でいいなと言い、土の家に入っていく。

 ミリーの髪を風の魔術で乾かしながら、忘れないように解毒をかけ、その最中せっかくなので今日の感想を聞く事にした。



「どうだった。初めての地上は」

「凄かったよ。夜がこんなに明るいのも凄いと思う」



 コロニーの夜は人工太陽を完全に遮断してしまうので、そこも違和感なのだろう。



「足は大丈夫か?明日も歩くぞ」

「多分平気。道中のコロニー236?って所にも早く行きたいし」

「そうか。ミリーは根性があるな」



 この旅の目的はコロニー003だが、ひとまずは中継地点であるコロニー236を目指す。

 昼にそう伝えたので、彼女にとってそこも楽しみな場所の1つに加えられたらしい。



 まぁ、その場所は少し曰く付きなのだが……。



「ねぇカイ。明日歩く所はなにがある?」



 この旅を1番楽しそうにする彼女には、その事はまだ伝えなくていいだろう。



ーーー



1日目終了

移動距離 35km

残り345km
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