【完結】魔物世界と太陽の鳥 ~魔法軍最強の俺はコロニー上層部が腐ってるので少女を連れて別のコロニーを目指す~

中島伊吹

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第3章 本物の太陽

17話 「ヴェイルヴィンドに潜む影」

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 地上を数日旅して、分かってきた事がある。

 まず生息する魔物は周囲の地形変化と同時に変貌する。



 平原から谷に入れば新しい狼のような魔物と遭遇し、そこから密林地帯に差し掛かかれば植物の姿形をした魔物や、植物に色合いを似せて不意打ちを狙う魔物等が出てくる。

 基本的にこの辺りの魔物が特段強い……というような場所は無かったが、不意打ちを狙われる可能性のある密林地帯は常に気を張らないといけなかった為精神的な疲労が大きく、少し時間を食った。



 また、案外人間を襲わない魔物もいる。

 太陽の鳥がその最たる例なのだろうが、他にも20cm程度のムカデのような魔物や、10cm程度のトンボのような魔物も。

 それら全てが小さくとても人間を捕食できないであろう事から、恐らく先祖含め人間を食べずに生きてきた魔物は人間に興味を示さないのであろうと結論づけた。



 まぁそもそも仕事で戦った魔物でも、こちらが魔術を使い力を見せれば逃げていく種族なども居た。

 その為人間は命を賭けてまで捕食しなければならない存在というよりは、魔物の生命を維持する魔力の回収において、最も効率のいい捕食対象が人間という事なのだろう。



「ん、建物!あれじゃない?」



 ミリーがはしゃいだ。

 彼女の指さす方に視線をやると、ツタが巻かれて緑に染まった塔のような建造物が見えた。

 人工的な建物、人の暮らした証のある街並み。

 ようやく辿りついた。ここが、ヴェイルヴィンドだ。



ーーー



 コロニーというのはそもそも、都市の人を収容できるように作られる。

 その為、コロニー付近には放棄された都市があるのが普通で、そこには100年前に人類が放棄した地上の文明が眠っている。



 つまり、中継地点であるコロニー236で暮らす人類が100年前に拠点としていた街という訳だ。

 コロニー236まですんでの距離まで来ている証明でもある。



「はは、こりゃすっげぇな……。100年前まで、ここに普通に人が住んでたって事だもんな」



 グロムは瓦礫を蹴飛ばして俺達の道を作りながら、感嘆の息を漏らす。



「ねぇ、もっと街の中がどうなってるのかも見よ」

「おぅ。いいねぇ。どのみち舗装された道を歩くんならここを通るし、行こうぜ。カイもそれでいいだろ?」

「まぁそうだな。倒壊の危険とかは無さそうなのか?」

「あぁー、流石に建物の音まではわっかんねぇけど、今の今まで建ってたんなら大丈夫なんじゃねぇの」



 まぁそれもそうか。

 変な力の与え方をしない限り倒壊などの危険はないだろう。

 グロムより前に出て二次災害が広がらないよう意識しながら、風を巻き起こし道端に転がる瓦礫等を飛ばしていく。



 少し歩いて街の中央辺りまで差し掛かった時、グロムが待てと言った。



「なぁ、さっきから気になってたんだがなんか音がしねぇか?」



 言われて耳を澄ます。

 建物はミシミシ言ってるが、それ以上の音は聞こえない。



「そうか?」

「んー、聞こえない」



 ミリーが周りを見渡しながら耳を澄ます。

 かなり注意深く周りを探っているが、特段何も見つからなかった様子。



「妙な音なのか?」

「最初はあんまり全部の建物から鳴ってるもんだからただのきしみだと思ったんだが、にしちゃ鳴りすぎな気がしてきたんだよな」

「地鳴りで街中が揺れているとかか?」

「さぁ……」



 周りを見渡していたミリーから腰の当たりをトントンとされ、なんだか神妙な顔で服を掴んでくる。



「ねぇ、なんか緑の奴がそこで動いてた気がするんだけど……」

「本当か?」



 ミリーの視線の先を見るが、何も居ない。密林に居た魔物の類だろうか。



 そう思った時だった。



「やっ……!」



 ミリーが声をあげ、彼女に細長い舌が巻き付く。

 同時に俺とグロムが反応し、水の球と剣でその舌を切り刻み、ギャアアという声。その声の主は、緑の巨体に長い舌を持った大蛇であった。



「こりゃまずいな。相当な数がいるぜ」

「ざっといくつだ」

「この音を全部蛇だとするなら30……40……下手すりゃもっといやがる」



 あらゆる建物内に隠れ、巣にしていたという事か。

 グロムの推察、それに応えるように、次々と2m~6m程度の大蛇が溢れ出てくる。

 婆さんは大蛇とミミズと龍には気を付けろと言った。要注意の魔物に極限まで接近され、囲まれている。状況は最悪だ。



 複数の大蛇が再び長い舌を伸ばし、こちらを捕食しようと目論む。



「舐めんなっ……!」



 グロムはその全てに呼応するように切り刻んでいく。

 俺は荷物を降ろし、ミリーに語り掛けた。



「おいミリー。その中から腕に着ける装備を取ってくれ。茶色の、穴が沢山あいてるやつだ」

「う、うん。分かった」



 数を減らさなければ次々と増援を呼ばれる。

 俺は水の魔術を展開し、次々と大蛇を撃ちぬいていく。

 風の魔術を使って吹き飛ばしてもいいだろうか。

 いや、奴ら程の巨体を一斉に動かすのなら、かなり強い風の力が必要だ。

 そうなれば俺達ごと巻き込む事になるだろう。



「あった、はい、これ!」



 慌てふためくミリーから装備が渡される。

 処理しきれない魔物と相対した際に使う、魔力の弾丸を複数方向に飛ばす装備だ。

 腕に装着し、大蛇に狙いを定め、放つ。



 殺す速度は三割増しだ。大蛇の悲鳴が次々と上がり、その大蛇の死骸が他の大蛇の進行を少し食い止めているのが分かる。

 そう感じた時、大蛇らは一斉にこちらに向かうよう動きだした。



「下がれ、来るぞ!」



 俺の魔術を使っても、この数は捌ききれない。

 それどころか次々と大蛇らが増えていっているような感覚すらある。

 俺は荷物を抱え、ミリーも抱えた方が早いのでそうして、3人で撤退する。



「おいカイ、何か策はねぇのか」

「あるが、ここじゃ使えない。必要なのは広く見晴らしの良い場所だ」

「私分かるよ。この街に入るとき、横におっきな花畑が見えた」

「なら、そこまで撤退するぞ」

「ったく……しゃあねぇなぁ」



 グロムはそう言うと、背後から迫る大蛇を迎え撃つ。

 迫る足音からそこに辿り着けないと判断し、時間稼ぎをするつもりなのだろう。

 グロムが舌の間を潜り抜け、蛇の本体を切り刻んでいく。

 だがあれじゃいずれ餌となるのはグロムの方だ。何か方法はないだろうか。



 周囲を見渡す。近くにあるのは壊れかけの家と、苔むした塔だ。

 それぞれ全て倒壊の危険があって……。



「おい、グロム!下がれ」



 俺の声に反応し、俺の見ている方向で何をしようとしているか察したのか、こちらに駆けてくる。

 早まる鼓動を抑え、自分の中で成功するイメージを反復する。

 意識を指先に集中させ、苔むした塔に狙いを定め、極限まで巨大化した水の弾丸を装備により複数方向に飛ばす。



「うはっ、おめぇえぐい事しすぎだぜ。あっぶねぇ」



 塔は道であるこちら側にとてつもない地響きと共に倒れ込み、グロムと大蛇との間に横たわる。

 大蛇がそれを乗り越えようとこちらに来るのが分かったが、ひとまずは見晴らしの良い場所まで移動する事だ。俺達3人は花畑まで駆ける。



「ごめん……私、足手まといだよね」



 ミリーが少し残念そうに俯き、そう口にした。



「感傷的になるのは後にしろ。今は周囲を警戒して、飛び出してくる魔物が居ないかを見てくれ」



 彼女は頷きを返し、3人で街中を駆ける。

 後ろを付いてきた数体は仕留めながら、街外れの花畑に辿り着いた。

 ここなら出来るだろう。

 荷物の中から普段は使わない杖を取り出し、魔力を込めていく。



「おい、来やがるぜ」

「あぁ、分かってる」



 街から雪崩のように大蛇が押し寄せる。

 彼らは死ぬことも厭わずこちらへ向かう。こちらが劣勢である事を理解しているのだろう。



「来い」



 杖を前方に掲げ、炎魔術を展開する。

 魔力の全てを集約させ、これまでに作った事のない火力と範囲で奴らを焼き尽くす。



 街の出口、そこに固まっていた大蛇たちは全てがけたたましい声をあげて、その場で力無く倒れていく。

 たまにこちらに抜けてきた勇敢な奴が居たが、それらはグロムが処理する。



「そういやおめぇは普段、広範囲になりすぎる事から杖を使ってなかったんだったか?」

「広範囲魔術は制御が難しい上に、そこまでの火力を求められる事は中々ないからな」



 予想外の急襲。地上に出て最も死を予感させたが、なんとか対応する事ができた。

 グロムが居なかったら危なかったかもしれないな。



「その子を守れば俺を許すっつー話、これでチャラになってもいいんじゃねぇの」

「いや、まだだな。お前の力はそんなもんじゃない」

「んだそりゃ」



 グロムと俺は緊張の糸が切れ、焼け野原となった花畑を眺めた。

 するとミリーが1人だけ、後ろを見て固まっている事に気付く。

 炎が広がっていない、綺麗な花畑だ。



「おいミリー、どうかしたか」



 少女は首を横に振る。

 そして大丈夫と口にした。

 戦いのさなか、自分が足手まといである事を気にしていたが、それだろう。



「私ずっと何もできなくて……ごめんね」



 エルム区の騒動の時もそうだった。

 あの時程の沈みようではないが、彼女は自分が力を使えない事にやけに神妙なようで、後ろ姿からは少しの落胆が伝わる。



「なぜ謝る。花畑の事を教えてくれたのも、装備を渡してくれたのも、助かった」



 少女は振り返り、軽く笑って見せる。

 太陽が沈もうとするのが分かり、今日の終わりを予感させた。

 コロニー236に行くのは、明日になりそうだ。
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