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無言で木々の下を歩く。爽やかな風が、静かに葉を揺らす。
私はアダムの背中を見つめた。
細身だがスッと伸びた背筋は美しい。
頼りない、小さな背中のあの子はもういない。
そうか…。もうだいぶ前から、私がいなくたって大丈夫なのね。
初めてアダムに会ったのは、私と殿下の婚約がまだ決まってもいない頃だった。
第一王子の腹違いの弟、アダムは"話せない子"だった。声が全く発せないというのだ。
アダムの母親は城の使用人で、大層美しかったらしい。
陛下に無理やり後宮に入れられたアダムの母親は、陛下と陛下との子である、実の息子のアダムを愛せず憎んだ。
そして心を病み、弱りきって最後は亡くなった。自から。
母親が亡くなったショックで、アダムは話せなくなった。
そんな時、アダムの遊び相手に選ばれたのが2つ上の私だった。
アダムは、常にわたしを無視した。
私をいないものとしたのだ。
子供で何の事情も知らない私は、アダムに優しくしたり、同情するどころかキレた。キレてキレてキレまくった。大説教である。
その後、なぜかアダムはまた話せるようになり、私に懐いた。
どこにでも着いて来たがった。
え、どしたん?と正直鬱陶しい時もあったけど、可愛い弟であり、今となっては親友なのだ。
「よいしょっと」
大きな木を背もたれにして、座り込んだ。
少し、涼しいくらいの風が気持ちいい。
「本当、令嬢らしくないね」
アダムはクスリと笑い、私と同じ目線に合わせて屈む。
私はドレスのポケットを探った。2つあったそれを、1つずつ手の中に隠しアダムに見せた。
「今、何を持っているでしょう?」
「なに?虫?」
アダムは嫌そうな顔をしてのけ反った。私はふふっと笑い手の中を見せた。可愛いやつね。
「ハズレ!じゃーん!昨日、お父様の部屋からくすねてきた高級キャラメルよ!」
キューブ型のキャラメルが、大切そうに白い紙に包まれている。
「やめてよ。イヴリンは平気で、虫とか蛇とか捕まえるから恐いよ」
呆れながらアダムはいう。
「いや、さすがに蛇は触れないから。今ね隣国でキャラメルが流行っていて、これは一番人気のお店の物らしいの!」
私もお父様に頂いたんだけど、あまりに美味しくて10個入りのものを1日で全て頂いたわ。
「美味っ!美味っ!」と叫びながらね。
そして昨日、お父様のお部屋で、パーティーでの件をお話ししていた時に発見したのだ。
お父様のお部屋には、これまた隣国のお土産物として盛んな、木製の熊が置いてある。
有名な職人の作品らしく、サーモンを咥えた立派な熊で、お父様はその熊をとても大切にしている。
埃をかぶれば、天然羊毛100%の埃取りブラシで、優しく丁寧に手入れをするのだ。お父様自ら。
そしてお父様はいつも大事な物を、その熊の後ろに隠す。
私はいつもそれを、失礼ながら微笑ましく思っており、見てみぬフリをしていた。
けれどあの高級キャラメルは違った。私は既にあのキャラメルの虜。見つけてしまったからには、もう遅い。
しかも1つも手をつけられていない状態のお洒落な箱に、私は震えた。
大変な話しをしていたにも関わらず、30秒に1度は熊の後ろに隠れる、かわいこちゃん達(高級キャラメル)をチラチラとガン見していた。
熊もかわいこちゃん達も、さぞかしビクついていただろう。
そして宴が始まり、ホールではどんちゃん騒ぎが始まった。
庭師のロジャーにシャンパンボトルを持たせ、お父様に近付けさせた。
鬼の酒豪、と謳われたロジャーに捕まれば、お父様はもう終わり。
アル中にならない程度に酔わせてね、と心の中で祈り、私はお父様のお部屋に潜り込み、キャラメルを2つだけ無事くすねた。
私は包み紙を外し指で掴んだ。
「ほらアダム、あーん」
アダムはきょとんとして目を瞬かせ、ゆっくりとその形の良い唇を開いた。
雛鳥のようなアダムが可愛い。
パクりとキャラメルを口の中に入れる。
「どう??美味しいでしょう??」
「…うん」
ふふふ。良かった。
片方の掌で、アダムの頬を触る。毛穴ひとつないツルリとした肌だ。羨ましい。
「立派になられたのね、アダム。」
マイラが現れて沢山の人が私から離れていった。それはやっぱり悲しくて寂しかった。
だけどアダムだけは、いつも私を気にかけてくれた。
だからアダムだけは、私のマイラへの虐めを信じてないのかもしれない。それはそれで嬉しい。
「いつも側にいてくれてありがとう。アダムは素敵な人と恋をして、素敵な結婚をしてね。それを祈ってる」
第二王子なら、少しは結婚の自由が許されるかもしれない。
私はどこかの国の片隅で、あなたの幸せを耳にするの。
それが私の幸せのひとつになる。
頬から手を離そうとしたその時、そのままアダムの手が重なってきた。
「オレの恋は、最初から最後まで、同じ人のものだよ」
アダムの真剣な眼差しから目を離せない。
不覚にも鼓動が早くなる。
「そう…なの?」
知らなかった。アダムには好きな人がいたのね。
私の手をそのまま引っ張り、二人でゆっくりと立ち上がった。
「次会う時は、もう親友ではないかもしれない」
「そうね…」
私は王族から婚約破棄をされた人間。
そして断罪される人間なのだから。
私はアダムの背中を見つめた。
細身だがスッと伸びた背筋は美しい。
頼りない、小さな背中のあの子はもういない。
そうか…。もうだいぶ前から、私がいなくたって大丈夫なのね。
初めてアダムに会ったのは、私と殿下の婚約がまだ決まってもいない頃だった。
第一王子の腹違いの弟、アダムは"話せない子"だった。声が全く発せないというのだ。
アダムの母親は城の使用人で、大層美しかったらしい。
陛下に無理やり後宮に入れられたアダムの母親は、陛下と陛下との子である、実の息子のアダムを愛せず憎んだ。
そして心を病み、弱りきって最後は亡くなった。自から。
母親が亡くなったショックで、アダムは話せなくなった。
そんな時、アダムの遊び相手に選ばれたのが2つ上の私だった。
アダムは、常にわたしを無視した。
私をいないものとしたのだ。
子供で何の事情も知らない私は、アダムに優しくしたり、同情するどころかキレた。キレてキレてキレまくった。大説教である。
その後、なぜかアダムはまた話せるようになり、私に懐いた。
どこにでも着いて来たがった。
え、どしたん?と正直鬱陶しい時もあったけど、可愛い弟であり、今となっては親友なのだ。
「よいしょっと」
大きな木を背もたれにして、座り込んだ。
少し、涼しいくらいの風が気持ちいい。
「本当、令嬢らしくないね」
アダムはクスリと笑い、私と同じ目線に合わせて屈む。
私はドレスのポケットを探った。2つあったそれを、1つずつ手の中に隠しアダムに見せた。
「今、何を持っているでしょう?」
「なに?虫?」
アダムは嫌そうな顔をしてのけ反った。私はふふっと笑い手の中を見せた。可愛いやつね。
「ハズレ!じゃーん!昨日、お父様の部屋からくすねてきた高級キャラメルよ!」
キューブ型のキャラメルが、大切そうに白い紙に包まれている。
「やめてよ。イヴリンは平気で、虫とか蛇とか捕まえるから恐いよ」
呆れながらアダムはいう。
「いや、さすがに蛇は触れないから。今ね隣国でキャラメルが流行っていて、これは一番人気のお店の物らしいの!」
私もお父様に頂いたんだけど、あまりに美味しくて10個入りのものを1日で全て頂いたわ。
「美味っ!美味っ!」と叫びながらね。
そして昨日、お父様のお部屋で、パーティーでの件をお話ししていた時に発見したのだ。
お父様のお部屋には、これまた隣国のお土産物として盛んな、木製の熊が置いてある。
有名な職人の作品らしく、サーモンを咥えた立派な熊で、お父様はその熊をとても大切にしている。
埃をかぶれば、天然羊毛100%の埃取りブラシで、優しく丁寧に手入れをするのだ。お父様自ら。
そしてお父様はいつも大事な物を、その熊の後ろに隠す。
私はいつもそれを、失礼ながら微笑ましく思っており、見てみぬフリをしていた。
けれどあの高級キャラメルは違った。私は既にあのキャラメルの虜。見つけてしまったからには、もう遅い。
しかも1つも手をつけられていない状態のお洒落な箱に、私は震えた。
大変な話しをしていたにも関わらず、30秒に1度は熊の後ろに隠れる、かわいこちゃん達(高級キャラメル)をチラチラとガン見していた。
熊もかわいこちゃん達も、さぞかしビクついていただろう。
そして宴が始まり、ホールではどんちゃん騒ぎが始まった。
庭師のロジャーにシャンパンボトルを持たせ、お父様に近付けさせた。
鬼の酒豪、と謳われたロジャーに捕まれば、お父様はもう終わり。
アル中にならない程度に酔わせてね、と心の中で祈り、私はお父様のお部屋に潜り込み、キャラメルを2つだけ無事くすねた。
私は包み紙を外し指で掴んだ。
「ほらアダム、あーん」
アダムはきょとんとして目を瞬かせ、ゆっくりとその形の良い唇を開いた。
雛鳥のようなアダムが可愛い。
パクりとキャラメルを口の中に入れる。
「どう??美味しいでしょう??」
「…うん」
ふふふ。良かった。
片方の掌で、アダムの頬を触る。毛穴ひとつないツルリとした肌だ。羨ましい。
「立派になられたのね、アダム。」
マイラが現れて沢山の人が私から離れていった。それはやっぱり悲しくて寂しかった。
だけどアダムだけは、いつも私を気にかけてくれた。
だからアダムだけは、私のマイラへの虐めを信じてないのかもしれない。それはそれで嬉しい。
「いつも側にいてくれてありがとう。アダムは素敵な人と恋をして、素敵な結婚をしてね。それを祈ってる」
第二王子なら、少しは結婚の自由が許されるかもしれない。
私はどこかの国の片隅で、あなたの幸せを耳にするの。
それが私の幸せのひとつになる。
頬から手を離そうとしたその時、そのままアダムの手が重なってきた。
「オレの恋は、最初から最後まで、同じ人のものだよ」
アダムの真剣な眼差しから目を離せない。
不覚にも鼓動が早くなる。
「そう…なの?」
知らなかった。アダムには好きな人がいたのね。
私の手をそのまま引っ張り、二人でゆっくりと立ち上がった。
「次会う時は、もう親友ではないかもしれない」
「そうね…」
私は王族から婚約破棄をされた人間。
そして断罪される人間なのだから。
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