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しおりを挟む頭にカッと血が昇る。
分かる。
分かるよ、お前の言いたい事も。
オレだってもしも反対の立場だったらいい加減にしろよ、オレ達友達じゃなかったのかよって怒ると思う。
でも先にオレ達の関係を崩したのはエルだ。オレだったらあんなやり方しない。
「…お前じゃん…先にそういう風に仕向けたのは」
「ファヌ?」
「いや、ははっ…そうかもな。お前の側にいると本当…得しかないよ。公爵様の推薦…いやコネのお陰で、兄貴が王立騎士団に入隊する事が決まった時からな」
「…怒ってるの?でもお兄さん喜んでたよね?」
「…っ、それだけじゃない。オレ、ここの転入試験を受けた時、全ての答案用紙を空白で出したんだぞ?」
「そんな事で不合格になる訳ないでしょう?ここの理事長誰だと思ってるの」
「…えと…誰?」
「僕の叔父上」
「…つぅー……」
「ねえファヌ。何が不満?お兄さんが望む職につけたのがそんなにいけない事?
僕はただ、君がどうして取り巻きになるのかが分からないだけ。得したいだけなら僕に言えばいい。欲しいモノがあるなら僕に言えばいい」
ー君は僕の特別。僕の側にいてくれるのなら何でも与えてあげる。
「エル、お前……」
ピュアな顔をしてまったく悪びれないエルがちょっと怖い。それにここまで開き直られると、何を言いたいのか論点が分からなくなる。
もう、どんな言葉を選んでも伝わらないような気さえした。
「…何も、いらない…」
「ファヌ」
「とにかくっ…オレはお前の取り巻きだ。世話になった分はちゃんとお前に返す」
「…」
「そーゆー事だから。じゃあなっ、お坊っちゃま!」
もう話しても無駄な坊っちゃんは放っておく。
何が特別だ。
お前がオレに何かを与えた時点で、オレ達の関係も大きく変わったんだ。
オレも兄貴も田舎の家族もみんな、お前に感謝して顔色を伺いながら生きていかなきゃならない。
オレはただ、お前の友達としていたかっただけなのに。
「ファヌ」
「…!なんだよっ、俺は今一人になりた」
「お弁当、明日はニード豆入れないでね」
「…え?」
「だから、ニード豆入れないで。僕、あれまずくて嫌い」
「いや…でもニード豆は世界最古のスーパーフードであって…」
「そんなの知らないから。ファヌは僕の取り巻きなんだよね?」
「あ…うん、まあ」
「取り巻きの言うことは聞かない」
さいですか…。
「あとね、ファヌ」
ふと気配を感じて顔をあげれば、えらい近くにファヌの美形があった。まじ美しいな。毛穴どこいった?
そう思うやいなや、ゆっくりとエルの白い指先がオレの顎をクイッと持ち上げた。
「エル…?」
あの…なに?と言いかけた時、
「お前、まじ面倒臭い」
オマエ、マジメンドクサイ
「…………………………………」
オレは顎クイ中のエルの指をはたき落とし、静かに辺りをキョロキョロ見渡した。
「えっ?えっ??今、誰か知らない声しなかった??幽霊??」
「どう聞いてもオレの声だったろ」
そう言ってダルそうに頭を傾けながら、ふわふわの髪をふぁさりとかきあげる。
「だ、だれ、お前」
プルプルと震える指をエルに向けるオレ。
「可愛い天使のエルだけど?」
「い…」
いやいやいやいやいやいやいや!!!!
オレの可愛い天使はそんな怪しげでスカした目付きなんてしない。
それになんだ?この滲み出るような色気は…!
パクパクと口を動かす事しか出来ないオレに、これまたダルそうに話す。
「でももうやめた。ファヌの為に天使のまんまでいようと思ったけど…つまらないんだもん。お前」
「…っ」
「好きにしなよ。取り巻きもよし、学園を辞めるのもよし。もうお前は自由だよ」
もはや言ってる事が勝手すぎて頭に入ってこない。
ふわわぁ~と眠そうにあくびをするエルが信じられなくて何度も目をこする。
堅苦しさから解放されたようにぐっと背伸びをする仕草は身体のラインごと綺麗なのに、まるでライオンみたいな奴だ。
「まっ、そーゆー事だから?じゃあね、ファヌ」
そう言って、颯爽と去って行くエル。
「………………………」
え…?あれ?ここはさっき、オレが先に去る場面だったよな?
もう、よく分からん。
分からないけど、面倒臭くつまらないオレはもうお払い箱のようだ。
「………ニード豆、安くて美味しいのに…」
何に後悔しても、あの日々にはもう戻れない。
それからの1年ちょっと、オレはと言えば学園を辞める事も取り巻きをやめることもしなかった。
ただただ取り巻き兼弁当係としてオレは仕事を全うした。
エルとの関係も別に良くなる事も、悪くなる事もなく、弁当の時間は普通の友人みたいに過ごした。
初めの頃はあまりの変貌に信じられなくてよそよそしく接してしまったが、エルが普通すぎてすぐ慣れた。
ただ天使のエルはいまだ戻らない。
エルは言う。これが元々の素だと。
オレは言う。そんなの信じない。いい加減返せオレの天使をと。
だがもういいのかもしれない。
一年ちょっと、オレはオレの出来る事を頑張った。
エルはいつも誰かに囲まれて楽しく学園生活をおくっているので、オレがいなくともなんら支障はない。
それにいまだに続く、取り巻き連中や他の生徒からのちょっとしたいやがらせも煩わしい。
結局、心が折れつつあった。
一体なぜ、オレはここにいるんだろう?
必要となんてされてないのに。
まだ友達でありたい気持ち、身勝手で残酷なエルの本質に恐れてしまう気持ち…そういった複雑なこの感情に疲れてしまったのだ。物凄く。
もう、こんな風に考えるのはやめよう。
新しく何かを始めるんだ。エルの為とかじゃなく自分の為に。
オレはもう、自由らしいから。
こうして徐々に距離を置き、弁当係も降り、オレはエルから離れる事を決心したのだった。
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