132 / 145
【番外編】普通な日々 ユズver.
1
しおりを挟む___ ……………… ___
「にぃたま~っ!」
これは…夢…だよね…ヨチヨチ歩いていた僕を両手を広げて待っているシオン兄上。
とっても綺麗でとっても強い、僕の大好きな人…
「ユズ~♡」
フワリと香る優しい香りと優しい声は俺の大好きな兄上、シオン・ローズウッド。
「にぃたま…っ…きゃあっ♡」
___ぽふっ…___
「あぁぁああっ!ユズ~~っ‼︎可愛いっ!」
「にぃたま!しゅきっ‼︎」
頬をスリスリと擦り寄せてくれる僕だけの特権。
本当に大好き。
ずっと一緒にいてくれたけど…カヤとオーク兄様によく連れて行かれたな。
そんな時…オーク兄様に連れられた第4王子のオリーブと出会ったんだ。
「ユズ、ご挨拶頑張ってみようか?」
「はいっ!えっと…お初に…お目にかかります。ユズ・ローズウッドと申しましゅ!」
___カァァァ…___
間違えちゃった…
『う゛っ…可愛い…っ!』
『オーク…顔…緩んでる…』
『お前だってっ!』
兄様達が何か言ってる…怒ってなさそうだけど…第4王子…なんだよね…兄様とちょっと離れてる?
「初めまして、僕はオリーブ。僕と兄上と歳が離れているのは間にもう1人いたんだ。お腹の中にいた時に天に還ったんだって。」
「…あ…知らずに申し訳ございませんっ!」
「良いんだよ。公にしてないから今の君と同じ顔になる人が多いんだ。なかなか兄様の次の子か出来なくて、もう3人いるから良いかって話になった時に俺が生まれたんだって。」
「そうなんですね。」
「ユズ、俺に敬語はいらないよ。同じ歳なんだよね?兄様達みたいに仲良くして欲しい。」
そう言うと、オリーブは手を差し出した。
「は…うん…よろしくね。」
「俺の事は呼び捨てで良いからね、あ…兄様達みたいに『オリー』でも良いよ。」
「…っ!そんなっ…おそれおおいです!」
「……シオンに無いしおらしさだよな…」
「…悪かったな…相手が相手だったからだよっ。」
「……っ…じゃあ…呼び捨て…で…オリー…ブ………恥ずかしい…っ。」
「「ん゛う゛っっ!」」
「………っ…ん゛んっ……よろしくな、ユズ。」
僕はその手を握ると、兄上にぎゅっとしてくれた時とは違ったドキドキがあった。
「オリーって…オークの時と違って王族って感じの風格があるよなぁ…将来が楽しみだ♪」
「オリーを褒めてくれるのは嬉しいが、その言葉は聞き捨てならねぇな。」
うん、僕と同じ歳なのに喋り方もしっかりして…凄いよね。
それから父様が僕の自慢をした…?…のと、オリーブの話を聞いたのがきっかけで、何度かシオン兄様や父様と一緒に王宮へ遊びに行く事が増えた。
ある日、王宮の庭にある大きな樹の下で一緒に読書を楽しんでいた時にオリーブに聞かれた。
「……ユズ…ユズは…その…婚約者は…いるの?」
「…どうしたの急に?別にいないよ。兄上みたいに綺麗じゃないし、サクラみたいに賢くもないしね。」
サクラは小さな頃から聡明だった。
絵本も3歳からしっかりと読み始め、今ではもう僕と同じ内容の本を読んでいる。
「ユズは…ローズウッド家を継ぐのかな?」
「僕は…う~ん…そうだね、シオン兄上のことを考えると…婚約者候補のままだけど、きっと王宮に嫁ぐよね。」
小さな頃は薄っすらとしか自覚をしてなかったけど、僕は…ローズウッド家の中では平凡な顔立ちをしている。
兄上やサクラは綺麗だ、可愛いと言ってくれるけど…自分の事はちゃんと理解している。
___僕は…平凡で……普通なんだ。___
そんな僕が、父上の跡を継ぐというのも…何か違和感があるんだけどね。
「…あのさ…ユズ…もし…俺がユズの事…好きって言ったら…どうする?」
「ん?うん、僕もオリーブの事…大好きだよ?」
「……っ!……いやっ…しっかりしろ…俺…っ!」
「どうしたの、大丈夫?」
オリーブが急に顔を真っ赤にして動揺してる?大丈夫かな??
「違っ…いや…違わない…えっと…その…あの……ユズッ!」
___ガシッ!___
「はい?」
「…っ…俺と……こんにゃく…して欲しいっっっ‼︎」
___こんにゃく????___
「間違えたぁぁぁぁ…………っ!」
両手を握って真剣に「こんにゃくして欲しい」?……
……こんにゃく……新しい王宮の遊びでもあるんだろうか?
でも「間違えた」って言ってるよね?
「……あの…オリーブ?」
「……あっ…ユズ…その…あの……」
スクッと立ち上がって涙目のオリーブ。
……あれ?体調悪くしちゃったかな?
「…うっ……今日は気分悪くなっちゃったからまた今度遊ぼうっ!カヤを呼んでくる~~~!!うわぁぁぁああああんっっ‼︎!」
「オリーブ⁈」
えっ…⁈何で…泣いて…えっ…⁈
僕が少し途方に暮れているとカヤが来てくれた。
「ユズ様、大丈夫ですか?」
「カヤ…僕…オリーブに何かしたかなぁ?」
「フフ…沈んだお顔も可愛いですけど、大丈夫ですよ。ただの自己嫌悪です。」
「可愛くないよ。でも何で自己嫌悪なの?」
「…それは…また近々オリーブ様が再挑戦してくるでしょうから、ご本人に聞きましょう。」
「…うん。」
カヤは俺にも優しい。
でもそれはきっと大好きなシオン兄上の弟だからだ。
「いつもの愛らしい笑顔を見せて下さい。貴方の笑顔はローズウッド家の宝なんですから。」
「もうっ、いつもカヤは言ってるけど、僕は自分の顔を十分理解してるんだからね!」
「してませんね。シオン様とまた違った愛らしいお姿なのに。全く…ローズウッド家は家族揃って無自覚なんだから。自覚して下さいね。」
綺麗で何でも出来るカヤに言われてもなぁ…
僕はそう思いながら、カヤと手を繋いで父様に先に帰ると伝え、屋敷へと戻っていった。
それから…数年で屋敷はすっかり変わってしまった。
オーク兄様が断罪され、僻地へと飛ばされた先がクロバイとライ兄様の新居だったのは良かったけど。
断罪された後にした兄様達の結婚式は小さな僕でも感動するほど美しく、今でもしっかりと覚えている。
シオン兄様は、2人と喧嘩をしては「実家?に帰らせてもらいますっ!」って、つい最近も気軽に屋敷に戻ってきたからあまり離れている実感はない。
でも気軽に帰る通路のある精霊の森の事、クロバイが精霊王でカヤが次代の精霊王という事…カヤとシオン兄様とオーク兄様それぞれに運命の紐が結ばれ、兄様は両方選んだという事。
あと、少し変わった事と言えば「俺も昔みたいに兄様って呼んで!」と言われて、シオン兄様も「兄様」呼びに戻った事かな。
小さな僕には全く分からなかった出来事。
今は少しずつ聞いては驚き、そしてあの日はそうだったんだと理解する。
突然屋敷の別館に籠って出てこなかったあの日、一生懸命兄様のためにと野菜を収穫してエンジュにも作ってもらった。
そのおかげでほんの少し野菜には詳しくなって、王宮の庭師とお話する機会が増えた。
クロバイはカヤに執事を任せ始め、少しずつ終わりの準備を始めている。
…でも、精霊王の終わりは…僕らの終わりよりもっと先の話なんだろう。
11
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる