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第14話 楓とパンケーキ
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***
数日後───
本日は、楓と葵がカフェに行く日。
学校が終わると1年生の教室には楓の姿があった。
「行くぞ」
「あ、うん」
楓は葵の席の前に来るなり、それだけ言うと教室を後にした。
「行ってらっしゃい」
荷物を持ち席を立つ葵に日向は笑顔で手を振る。
「日向は行かないの?」
「僕は行かないよ。楽しんで来てね」
「(楽しむも何も、一緒に行くの本当にあたしでいいのかな? 明らか行く人いないからしょうがなくな感じだし。実際言ってたけど)」
「遅い」
「ごめん」
昇降口に着くと若干不機嫌な楓がいた。
「行くぞ」
「ほんとに一緒に行くのあたしでいいの?」
「他に行くやついない」
「あ、そう」
やはり、楓は行く人がいなくて、渋々葵とカフェに行く感じのようだ。
無言のまま楓の後を続く葵。
「乗れるか?」
「大丈夫」
葵は単車の後ろに跨る、それを確認した楓も跨るとエンジンをかけた。
「あ、絶対俺に触れるなよ。だから落ちんな」
「分かってるよ」
元々、葵はそのつもりだったようで楓ではなく、車体を掴んでいた。
「わりぃ……」
「大丈夫」
「(女は嫌いというより、苦手って感じなのかな? 意外と優しいや)」
葵は女嫌いの楓の優しさに初めて触れたのだった。
単車を走らせること数分。
以前、日向と一緒に来たカフェに到着した。
「大丈夫だったか?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
「……」
楓はそのまま店の中へ入って行った。
「……」
メニューを見つめる楓は子供のようにキラキラと目を輝かせていた。
「(意外と可愛い所あるんだな。最近知り合ったばっかりだし、近づくなって言われてたから何気にこんなに喋ってるの今日が初めてかもな)」
「決まったか?」
「あ、うん。私はこれにする」
「俺はこれ。注文よろしく」
楓はメニューを指さすと注文を葵に託した。
「はーい」
「(そっか、店員も女の人だからか……)」
葵は店員を呼ぶと楓と自分の分を注文した。
「(前に日向と来た時も思ったけど、店員真っ赤だったな)」
葵はどこか遠い目をしながら思い出していた。
「俺と来ることになって悪い」
「ん? なんで楓が謝るの?」
「俺は女きら……苦手だし。喋んないからつまんないだろ?」
「(嫌いから苦手に直した。気にしなくていいのに)」
「つまんなくないよ。現に今喋ってるじゃん。嫌だったら私も来ないから気にしないで」
「……俺が女苦手なの気になるか?」
楓はいつもより少し低めの声を振り絞る。
「前に竜にも言ったけど、気になる、ならないというか……言いたくないことくらいあるだろうから楓が言いたくなった時に話せばいいよ。女のあたしで良ければいつでも聞くからさ」
「お前は声変えないんだな。他の女は猫なで声してきたり、人によって話し方変えるけど、お前は違う」
楓と葵が出会ってから初めて視線が交合う。
「一緒にしないで。声変えてどうするの? 別によく思われたいとか誰かと付き合いたいとか思ってもないし」
「変な女。後ろに乗せたのお前が初めてだし、女と2人で飯食うなんていつぶりかわかんねぇ」
「そっか。楓の居心地が悪くないならそれでいいよ」
「……悪くは、ない」
いつもは真一文字に結ばれた口。
葵は初めて楓の口元が緩んだ姿を目にした。
「(あ、笑った? いや、口角が少し上がっただけかな?)」
「うん。今日はいっぱい食べよ」
「ああ」
「お待たせしました」
数分後、パンケーキが2つ運ばれてきた。
葵が注文したのは、リンゴパンケーキ。
3枚のパンケーキの上にはたっぷりの生クリームと一口サイズにカットされたリンゴジャムが乗っていた。
その上には、メープルシロップがかけられ、ほのかに香るニッキが食欲をそそる。
そして、楓が注文したのはキャラメルパンケーキ。
たっぷりの生クリームの上にはキャラメルソースと荒く砕いたアーモンド、バニラアイスが乗っている。
「美味しそー!」
「……」
楓は無言だが、メニューを見ていた時よりも目を輝かせている。
口角も上がり、いつも出している近寄り難いオーラが全くと言っていいほどない。
「いただきます」
「……いただきます」
楓はボソッと言うとパンケーキを口に入れた。
「……うまっ」
葵は楓が一口食べたのを見届けると自分も口にした。
「美味しい……」
終始、2人は無言でパンケーキを食べ進めていった。
「美味かった」
「うまかった……」
会計を済ませると駐車場へ向かう2人。
「ねえ、お金」
「付いてきてもらったからいらねえ」
「そう、ありがとう。ご馳走様」
「ああ」
楓はそう、どこかぶっきらぼうに言うと単車に跨る。
葵もすかさず跨ると走り出した。
そのまま倉庫へ向かう2人。
「おかえりー」
「ただいま?」
いつもの部屋を開ければ日向が出迎えてくれた。
「どうだった? パンケーキ」
「美味しかった。前に行ったとき食べたかった物が食べてれてよかった」
「じゃあ次は3人で行こっか」
「そうだね」
また一つ約束が増えたのだった──
数日後───
本日は、楓と葵がカフェに行く日。
学校が終わると1年生の教室には楓の姿があった。
「行くぞ」
「あ、うん」
楓は葵の席の前に来るなり、それだけ言うと教室を後にした。
「行ってらっしゃい」
荷物を持ち席を立つ葵に日向は笑顔で手を振る。
「日向は行かないの?」
「僕は行かないよ。楽しんで来てね」
「(楽しむも何も、一緒に行くの本当にあたしでいいのかな? 明らか行く人いないからしょうがなくな感じだし。実際言ってたけど)」
「遅い」
「ごめん」
昇降口に着くと若干不機嫌な楓がいた。
「行くぞ」
「ほんとに一緒に行くのあたしでいいの?」
「他に行くやついない」
「あ、そう」
やはり、楓は行く人がいなくて、渋々葵とカフェに行く感じのようだ。
無言のまま楓の後を続く葵。
「乗れるか?」
「大丈夫」
葵は単車の後ろに跨る、それを確認した楓も跨るとエンジンをかけた。
「あ、絶対俺に触れるなよ。だから落ちんな」
「分かってるよ」
元々、葵はそのつもりだったようで楓ではなく、車体を掴んでいた。
「わりぃ……」
「大丈夫」
「(女は嫌いというより、苦手って感じなのかな? 意外と優しいや)」
葵は女嫌いの楓の優しさに初めて触れたのだった。
単車を走らせること数分。
以前、日向と一緒に来たカフェに到着した。
「大丈夫だったか?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
「……」
楓はそのまま店の中へ入って行った。
「……」
メニューを見つめる楓は子供のようにキラキラと目を輝かせていた。
「(意外と可愛い所あるんだな。最近知り合ったばっかりだし、近づくなって言われてたから何気にこんなに喋ってるの今日が初めてかもな)」
「決まったか?」
「あ、うん。私はこれにする」
「俺はこれ。注文よろしく」
楓はメニューを指さすと注文を葵に託した。
「はーい」
「(そっか、店員も女の人だからか……)」
葵は店員を呼ぶと楓と自分の分を注文した。
「(前に日向と来た時も思ったけど、店員真っ赤だったな)」
葵はどこか遠い目をしながら思い出していた。
「俺と来ることになって悪い」
「ん? なんで楓が謝るの?」
「俺は女きら……苦手だし。喋んないからつまんないだろ?」
「(嫌いから苦手に直した。気にしなくていいのに)」
「つまんなくないよ。現に今喋ってるじゃん。嫌だったら私も来ないから気にしないで」
「……俺が女苦手なの気になるか?」
楓はいつもより少し低めの声を振り絞る。
「前に竜にも言ったけど、気になる、ならないというか……言いたくないことくらいあるだろうから楓が言いたくなった時に話せばいいよ。女のあたしで良ければいつでも聞くからさ」
「お前は声変えないんだな。他の女は猫なで声してきたり、人によって話し方変えるけど、お前は違う」
楓と葵が出会ってから初めて視線が交合う。
「一緒にしないで。声変えてどうするの? 別によく思われたいとか誰かと付き合いたいとか思ってもないし」
「変な女。後ろに乗せたのお前が初めてだし、女と2人で飯食うなんていつぶりかわかんねぇ」
「そっか。楓の居心地が悪くないならそれでいいよ」
「……悪くは、ない」
いつもは真一文字に結ばれた口。
葵は初めて楓の口元が緩んだ姿を目にした。
「(あ、笑った? いや、口角が少し上がっただけかな?)」
「うん。今日はいっぱい食べよ」
「ああ」
「お待たせしました」
数分後、パンケーキが2つ運ばれてきた。
葵が注文したのは、リンゴパンケーキ。
3枚のパンケーキの上にはたっぷりの生クリームと一口サイズにカットされたリンゴジャムが乗っていた。
その上には、メープルシロップがかけられ、ほのかに香るニッキが食欲をそそる。
そして、楓が注文したのはキャラメルパンケーキ。
たっぷりの生クリームの上にはキャラメルソースと荒く砕いたアーモンド、バニラアイスが乗っている。
「美味しそー!」
「……」
楓は無言だが、メニューを見ていた時よりも目を輝かせている。
口角も上がり、いつも出している近寄り難いオーラが全くと言っていいほどない。
「いただきます」
「……いただきます」
楓はボソッと言うとパンケーキを口に入れた。
「……うまっ」
葵は楓が一口食べたのを見届けると自分も口にした。
「美味しい……」
終始、2人は無言でパンケーキを食べ進めていった。
「美味かった」
「うまかった……」
会計を済ませると駐車場へ向かう2人。
「ねえ、お金」
「付いてきてもらったからいらねえ」
「そう、ありがとう。ご馳走様」
「ああ」
楓はそう、どこかぶっきらぼうに言うと単車に跨る。
葵もすかさず跨ると走り出した。
そのまま倉庫へ向かう2人。
「おかえりー」
「ただいま?」
いつもの部屋を開ければ日向が出迎えてくれた。
「どうだった? パンケーキ」
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