舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

文字の大きさ
34 / 75

第33話 学園祭

しおりを挟む

***


数日後、学園祭が始まった。

校庭に植えられた金木犀の甘い香りが漂う。


たくさんの客が足を運ぶ。
その多くが女性だ。

校門から昇降口までの間には各クラスの看板が置かれていた。


客に紛れ、クラスTシャツに身を包んだ生徒達がビラ配りをしている。

その中には1年2組の生徒の姿もあった。

「1年2組ホストやってます。来てください」

スーツをかっこよく着こなし、髪の毛はワックスで遊ばせ、前髪は左に流し、耳にはいくつかピアスが付いていた。

その美少年がニコッと笑えば女性客は頬を染める。

「行きます!」

女性客はそのまま1年2組の教室へ。

そんな具合で、昇降口で声をかけたほとんどの女性客は1年2組に直行している。

「葵似合いすぎじゃねぇか?」

一緒にビラ配りをしていた蓮は、その美少年の頭からつま先までじっくり見る。

「そう? 男装嫌だったけど、意外と楽しいね」

そう──ほとんどの女性客を虜にしていたのは葵だった。

背丈の低い葵はシークレットブーツを履き、他の男子生徒と変わらない程だ。

「疲れた……休憩しよう」
「ああ、そうだな」

午前中はずっとビラ配りをしていた葵と蓮。

1年2組の教室を覗けばたくさんの行列が出来ていた。

「すげぇ……」

蓮が思わず声を漏らす。

「あ! さっき昇降口にいた人ですよね! あなたを指名します!」
「あたしも!」
「私も!」

蓮の声で葵に気づいた女性客は次々に声を上げる。

「あ、えっと……」
「頑張れ」

戸惑う葵をよそに、蓮は小声でそう呟くと去っていた。

「(蓮の奴……覚えてろよ)」

葵は蓮の背中を睨みつけた。

その睨みに女性客から悲鳴が上がったのは言うまでもない。

「柚佑。俺、指名貰ったんだけどどうしたらいい?」

葵は教室の隅で休憩していた柚佑に声をかけた。

「葵ちゃ……じゃなかったね。じゃあ指名してくれた人の順番になったら案内して、飲み物とか聞いて話しといて」
「了解」
「それにしても似合うね。そこらの男よりかっこいいんじゃない?」
「あ、ありがとう」

柚佑の言葉に若干照れくさいのかそっぽを向く葵。

「いらっしゃいませ。お嬢様。こちらのお席へどうぞ」

指名してくれた人の順番となり、葵は席へ案内した。

「あ、あのお名前なんて言うですかぁ?」

案内したのは先程指名してきた3人組の女性客。

机を2つ縦に並べ、それを囲うように並べられた椅子。

髪の毛をクルクルと巻き、濃いめの化粧をした女が上目遣いで問いかける。

「……えっと、葵です。よろしくね」

キツめの香水が葵の鼻を掠め、思わず顔を逸らす。

「可愛いお顔してるね」
「本当に男の子?」

左右に座る、ショートカットにした女とツインテールの女が問いかける。

「男ですよ」
「(本当は女だけどさ……)」

葵は顔に出さず接客を続けた。

15分という時間はあっという間に過ぎ、帰る時間となる。

「今日はありがとう。また来てね」

葵が笑みを見せれば、3人組は顔を真っ赤に染め帰って行った。

「(今のうちにトイレ、トイレ)」

隙を見て、教室を出た葵。

「(どっちに入る?)」

葵はトイレの前で立ち止まる。

男装しているが中身は女。

このまま男子トイレに入った所で違和感はない。

ただ、クラスメイトにあった場合は気まずい。

変わって女子トイレは違和感しかない。

女性客に合えば大騒ぎになる可能性もある。

「(……あ、取ればいいのか)」

葵は頭に手を置くとそのまま髪の毛を掴みウィッグを外した。

髪の毛を整えれば男には見えない。

葵はそのまま女子トイレへと入って行った。

ウィッグを手洗い器の所に置き、個室に入り用を足す。

手を洗ってトイレを出ると、入る前には誰も居なかった廊下にたくさんの人がいた。

葵は蓮を探す為、昇降口へ向かう。

ウィッグをトイレに置き忘れたとも知らずに。

「(あれ? いないや。まだ休憩かな? なら、あたしも休憩しよう)」

昇降口を覗いたが、蓮の姿はなかった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

王子が好みじゃなさすぎる

藤田菜
恋愛
魔法使いの呪いによって眠り続けていた私は、王子の手によって眠りから覚めた。けれどこの王子ーー全然私の好みじゃない。この人が私の運命の相手なの……?

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...