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第61話 生きる資格
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「あお……。龍華に戻れとは言わねぇ。けど、桜玖と柑太が助けてくれた命だ。無駄にはすんなよ……」
萩人は俯く葵の頭に手を置く。
「む……りだよ……。あたしが生きる資格なんて……ない……んだよ」
「あおっ!! 生きる資格がないって……なんだよそれ! ふざけんなよっ!! 桜玖と柑太が命懸けでお前を守ったんだよ!! お前がっ! 生きる資格がないっていうのは……桜玖と柑太の気持ちを踏みにじることになんだよ! 辛くても、お前は……生きなきゃなんねぇだよ!!」
「……っ……しゅ、しゅ……うちゃん。ご、めんなさい……」
萩人の言葉が合図かのように、葵は膝から崩れ落ちた。
両方の手の平で顔を覆う葵。
だが、涙が流れることはなかった。
あの日から、悲しくても葵は泣くことができないでいる。
「悪い。言いすぎた……。でも、あいつらが助けてくれた命なんだよ。辛いけど一緒に生きていこうな」
萩人はそう言いながら、その場にしゃがみこみ、葵と目線を合わせた。
「うん……。萩ちゃ……ん。さ、桜玖は?」
「……まだ、まだ、眠ったままだ」
葵の言葉に萩人は首を左右に振る。
あの日、鉄パイプの下敷きになった桜玖は5ヶ月経った今も目を覚ましていない。
「そっか……」
それから暫くの間、沈黙が続いた。
「……なあ、あお。お前がここにいるってことは学校も辞めたんだよな?」
萩人は立ち上がり、葵の隣に腰掛ける。
「うん」
「なら、"立河学園"に来ないか?」
「立河学園?」
「ああ。俺の知り合いがいるんだ。1人でいても色々考えちまうだろうし。少しは気晴らしになるんじゃないか?」
「学校か……。ありがとう、ちょっと考えてみる」
「ああ。じゃあ、俺はこれで帰るな。あ、そうだ。連絡先教えろよ」
「あ、うん」
2人は携帯を取り出すと互いの連絡先を交換した。
「さんきゅうな。じゃあまた。元気でな」
「うん……萩ちゃん、ありがとう」
「ああ」
そして、萩人は葵の家を去って行った。
***
「──ちゃん、──おちゃん、あおちゃん!」
「へ……? あ、ごめん。なに?」
萩人に立河学園に誘われたことを思い出していた葵は日向の呼びかけに気づかず反応が遅れた。
「ずっと呼んでたんだ。大丈夫?」
心配そうに首を傾げる日向。
「(日向かわいい)」
「うん、大丈夫だよ」
葵はフッと笑うとそう答えた。
「なら、よかった。前に言ってたパンケーキのお店に今度行かない?」
葵の言葉に日向の顔は一瞬で明るくなる。
「パンケーキってこの前行った?」
「うん。前は2人ずつで行ったけど、今度は葵ちゃんと楓さんと僕の3人で」
「パンケーキは食べたいけど、出歩いて大丈夫なの?」
「それは大丈夫。車で送り迎えするし俺と日向がいる」
葵の問いかけに答えたのは楓だった。
パンケーキを食べれるのが余程嬉しいのだろう。
いつもは無表情の楓の顔が少しだけ柔らかい。
「ありがとう」
「(色々思い出して辛かったから甘いもの食べれるのは嬉しいな。今、こうして学校に行けてるのは萩ちゃんのおかげだな。今度ご飯奢ってあげよ)」
葵は俯くと誰にも見られないように口角を上げた。
萩人は俯く葵の頭に手を置く。
「む……りだよ……。あたしが生きる資格なんて……ない……んだよ」
「あおっ!! 生きる資格がないって……なんだよそれ! ふざけんなよっ!! 桜玖と柑太が命懸けでお前を守ったんだよ!! お前がっ! 生きる資格がないっていうのは……桜玖と柑太の気持ちを踏みにじることになんだよ! 辛くても、お前は……生きなきゃなんねぇだよ!!」
「……っ……しゅ、しゅ……うちゃん。ご、めんなさい……」
萩人の言葉が合図かのように、葵は膝から崩れ落ちた。
両方の手の平で顔を覆う葵。
だが、涙が流れることはなかった。
あの日から、悲しくても葵は泣くことができないでいる。
「悪い。言いすぎた……。でも、あいつらが助けてくれた命なんだよ。辛いけど一緒に生きていこうな」
萩人はそう言いながら、その場にしゃがみこみ、葵と目線を合わせた。
「うん……。萩ちゃ……ん。さ、桜玖は?」
「……まだ、まだ、眠ったままだ」
葵の言葉に萩人は首を左右に振る。
あの日、鉄パイプの下敷きになった桜玖は5ヶ月経った今も目を覚ましていない。
「そっか……」
それから暫くの間、沈黙が続いた。
「……なあ、あお。お前がここにいるってことは学校も辞めたんだよな?」
萩人は立ち上がり、葵の隣に腰掛ける。
「うん」
「なら、"立河学園"に来ないか?」
「立河学園?」
「ああ。俺の知り合いがいるんだ。1人でいても色々考えちまうだろうし。少しは気晴らしになるんじゃないか?」
「学校か……。ありがとう、ちょっと考えてみる」
「ああ。じゃあ、俺はこれで帰るな。あ、そうだ。連絡先教えろよ」
「あ、うん」
2人は携帯を取り出すと互いの連絡先を交換した。
「さんきゅうな。じゃあまた。元気でな」
「うん……萩ちゃん、ありがとう」
「ああ」
そして、萩人は葵の家を去って行った。
***
「──ちゃん、──おちゃん、あおちゃん!」
「へ……? あ、ごめん。なに?」
萩人に立河学園に誘われたことを思い出していた葵は日向の呼びかけに気づかず反応が遅れた。
「ずっと呼んでたんだ。大丈夫?」
心配そうに首を傾げる日向。
「(日向かわいい)」
「うん、大丈夫だよ」
葵はフッと笑うとそう答えた。
「なら、よかった。前に言ってたパンケーキのお店に今度行かない?」
葵の言葉に日向の顔は一瞬で明るくなる。
「パンケーキってこの前行った?」
「うん。前は2人ずつで行ったけど、今度は葵ちゃんと楓さんと僕の3人で」
「パンケーキは食べたいけど、出歩いて大丈夫なの?」
「それは大丈夫。車で送り迎えするし俺と日向がいる」
葵の問いかけに答えたのは楓だった。
パンケーキを食べれるのが余程嬉しいのだろう。
いつもは無表情の楓の顔が少しだけ柔らかい。
「ありがとう」
「(色々思い出して辛かったから甘いもの食べれるのは嬉しいな。今、こうして学校に行けてるのは萩ちゃんのおかげだな。今度ご飯奢ってあげよ)」
葵は俯くと誰にも見られないように口角を上げた。
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