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「いやいや、待って! いらない、いらないから!」
「いえ、しかし」
「しかし、も何もないから! 剣戻して!!」
「そんな訳にはっ」
「首なんかいらーーーん!!」


 っていう、疲れるやりとりを同じ様な言葉で三回くらい繰り返した。

 アシュマルナなんて関係ない!愛し子本人が良いって言ってんだ!それでアシュマルナはいいって言うから!アシュマルナ、俺今困ってる!いいって言え!等々喚いてみたら、俺の周り、空中にアシュマルナの花冠のものと同じ花がポンポン咲き、その後花びらになって色とりどりの小さい光と一緒に俺の周りをクルクル回って消えるというイリュージョン。アシュマルナよくやった。

 で、それを見てようやく引いてくれたけど、今度は神よ!って言って胸に手を当てて跪いてしばらく動かなかった。
 俺のステーキ丼と味噌汁めちゃくちゃ冷めてるんだけど……。腹立たしいわ。



++++++

「あの~、俺、いい加減飯食いたいんだけど」
「! 申し訳ない!」

 獣人さんは弾かれた様に立ち上がり、また頭を下げた。

「いや、もう良いんで(早くどっか行ってくれ)」
「はい」

 返事をした獣人さんは頭を上げ、椅子に座ろうとしている俺の行動を、なんかじっと見てくる。
 さっきの怪しんで探る様な雰囲気じゃなくて、言いたい事があるけど言い出せない人が醸し出す空気をめちゃくちゃ出してきてるんだよなあ。
 食べづらい事この上ないので、聞きたくはないけど一応声をかけてみようか。


「……何?」
「はい、愛し子様にお聞きしたい事が――」
「愛し子って言うな。理人って名前あるし」

 そもそもいつの間に愛し子とかいうのになったんだ。一番初めに見た時はそんなの書いてなかったのに……。
 もしかして、『自分そっくりの子供を異常な程溺愛して』るアシュマルナは『加護を持つに相応しく変え』た俺まで、その対象にしたのか?
 えー……。なんだかなあと思うがもうどうでもいいや。

「で、では、リヒト様にお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか」
「様もいらないし堅苦しい敬語もやめて欲しいんだけど…… で、何?」
「……では、まずは、俺はソランツェ・ルーダルだ。元々祖国で騎士をやっていて今は冒険者として各地を転々としながら暮らしている」
「うん」
「俺は昨日ララタスを出て違う所へ行く途中でここを通ったんだが、リヒト殿はこれからララタスへ向かうつもりだろうか」
「そうだよ。色々旅するならアシュマルナに身分証作りに冒険者ギルド行けって言われたから」

 俺がアシュマルナの名前を気軽に出しているからか少々困惑しているっぽいが気を取り直して話を続けてきた。

「……失礼だが、リヒト殿は世間の事は疎い方だろうか」
「うーん。そういう訳じゃないけどここら辺の事は何も知らないね」
「やはりそうか。まず、教えておくと、この辺りはこの先の森よりも向こうの山から人喰い鴉がたまにやって来て人を襲うのでここで休憩取るものはいない」
「は? なにそれ、怖っ!」
「早朝の時間だけは襲われる心配は無いので、ララタスからのこの道を通るほとんどの者はこちら側にある森の出口の小屋で夜を過ごし朝になってからここを抜ける」
「えー……」
 
 そんなのいるのかよ、異世界怖いな。
 俺には馬車の結界があるから大丈夫なんだろうけど、襲われなくてよかった。鳥怖いもん、くちばしが。
 というか、もう少し行けばちゃんと小屋もあるのに、そんな場所でのんきに外で休憩してご飯食べようとしてたら正気を疑うだろうし、傍らには変なのもあるってそれはそれは怪しかろう。
 なんだかこの人正義感強い良い人そうな感じなので、そんな得体の知れない脅威となるかもしれない異物を放っておくって事が出来なかったのかな。

「それでだな、リヒト殿。俺は特に急ぐ身でも縛られてもいない自由な身だ」
「はい(それがどうした)」
「リヒト殿を護らせてはもらえないだろうか?」
「え? なんで? そんなのいらないんだけど」

 即答で断るもソランツェは真剣な表情で俺をじっと見つめてくる。俺が言いたい事ってこれだったんすよみたいな目で。

 そもそもなんで護るとかいう話が出てくるんだ。
 さっきはパニックになってすっかり忘れてたけど、加護の力で人に護ってもらわなくても多分俺って強いんだと思う。マインドは弱っちぃ超小型犬だけど。


「では、リヒト殿に聞くがこれからギルドへ行くそうだが費用や登録方法など知っているか?」
「……知らない」

 うぅ、痛い所を突いてくる。

「そもそもララタスへの入り方は判るのか?」
「入り方?」

 どういう事?そんなものあるのかよ。教えておけよアシュマルナ。

「まあ、ある程度の規模の町ではどこでもそれが普通の入り方なんだが知らなそうだな」
「うー……」

 ちょっとドヤってるな。くそぅ。

「では、金は持っているか?」
「! あるよ! 金貨だろ? ちゃんと用意してもらったし!」
「金貨……用意? ふむ、ちょっと見せてくれ」
「? ちょっと待ってて」

 さっきから痛い所ばかり突いてくるので、お金は持ってるって自信満々に返したがなんか首を傾げられた。
 なんか違いとかあるんだろうか?と思いながらお金の入った袋を取りに馬車の中に入り取って来る。

「ほら、これ」 


 はい、とソランツェに袋ごと差し出すも彼は受け取ることなくため息を吐きながら頭を抱えてしまった。
 これはひどい、と呟いて。
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