上 下
130 / 148

128

しおりを挟む
 気になるのは気になるんだけど、いまいち見当がつかなくてモヤモヤする。なんだろうか……この感じ……。

 納得した振りをして歩きつつ、俺の事を知っていて俺に何か仕掛けてこようとする人でもいるのかと、もし、そういう事があるのならば殺気なんてものを感じ取れない俺でも一応知ってた方がいいんじゃないのかと、アシュマルナにメッセ送って訊いてみたんだけど『そんな事はない』とだけシンプルに返って来た。えー……?絶対、動きの確認なんて感じじゃなかったし、そもそもあの二人今更そんな事しなくても自然にいい感じに連携取れてたと思うが?

 なんて言えばいいのか、あの二人で何かを”判ってる”感が気になるんだけど!!――……って、あれ?モヤモヤするのはこれ?もあるのか……?んん~?
 もしかして、嫉妬のモヤモヤ?ただ単に仲間外れにされたと感じたモヤモヤ?とか考えていたら、だんだん恥ずかしくなって来たので考えるのを止めた。そろそろ目的地の市場にも着くしそっちに注力しよう。そうしよう。








++++++







「お、ここはじゃがいもがある。種芋にもしたいしいっぱい買っておこうっと」

 野菜を買いたいので見た目が野菜(と思われる物)を置いている所を主に回っていく。今、目の前の店ではじゃがいもが売られているが、ここの前に見た店には長ネギに似たポロねぎとかいうやつと浅葱?チャイブ?とにんにく・玉ねぎだけがいっぱい売っていた。なんでネギ系だけ?と思ったが店主があの風味(?)が好物なんだそう。好きなものを売ってるらしい。潔い。自由だなあ。勿論いっぱい売ってもらった。

ソヌクロンじゃがいもも沢山購入されるのですね」
「うん。じゃがいもソヌクロンは結構何にでも使えるしな」

 この店はじゃがいもの他にかぼちゃやズッキーニとかも売っていた。ララタスで売っていなかった物を中心にいっぱい売ってもらう。次々と亜空間収納にブチ込んでいくから判り難いけど食材が色々増えて行くのは、なんつーか、安心感がある。うん。

 というか、じゃがいもってここではソヌクロンっていうんだなあ。また違う名前だったか~。
 苺はラリアフだし、うーん……やっぱり覚えられない。じゃがいもはじゃがいもだよ……もしくはポテトって言って欲しいなあ。

 ここの言葉は基本的にアシュマルナ仕様の翻訳のおかげで俺の耳には、全て日本語とかっつーか元世界の言語ベースでしか聞こえないんだけど、全ての物がそうかというとそういう訳でもなかったりする。
 ラリアフみたいに一応薬かなってくらいの薬効成分が有ったりとかで元世界と全てが一緒でないものは、いくら見た目が一緒でも別物(俺からしたら新種という扱い)なので翻訳が効かずここの世界での名前で俺の耳に届く事もある。逆に俺が元世界の名前で話すと二人に通じない事もあったり……。
 これではお互いに戸惑うので、この世界で新参の俺が色々覚えていった方がいいんだろうけど、馴染みが無さ過ぎていまいち覚えにくいので、ユグイトに着く前にアシュマルナに『細かい事は良いから似ている物は無理矢理翻訳していってくれ』とお願いしておいた。
 なものは、数回分だけ今みたいに副音声っぽい感じにしておいてと頼んだので、お互い一応『ちょっと違う物なんだな……』という認識は持てる様になっている。まあ、運用に問題があるなら適宜修正すればいいし。
 そういえば、ソヌクロンとじゃがいもの違いはどんなのなんだろう。

 その後も葉物や果物を売っている所があったのでそこでも色々と買い込み、路面店が多い通りに行けば海から離れているユグイトでも海がある国ならではなのかアンチョビとか魚醤を売っている店もあったりしてちょっとテンションが上がった。




 宿に帰る道すがらスマホで亜空間収納の中身を確認する。いっぱい増えたなあ。

「ユグイトって食材豊富でいいな。予想以上だ」
「リヒトもダンジョンに行ってみるか?」
「いや、行かない。絶対」

 実はここに売っている野菜達は元々ダンジョン内で自生していた物らしいんだけど、おそらくそれらを持ち帰って育て始めたのがユグイトの農業の始まり。……だと言われているらしい。
 俺が大量買いしようとしていた店の店主・ネギ好きおじさん(生産者/元冒険者)から聞いた話だから本当かどうか判らないけどダンジョン内に野菜達が自生しているのは本当。
 でも、その階層は結構深いらしく安全って訳でもないので、ダンジョンにも野菜達があるよってのは農業やってる住民以外には一応内緒の話なんだそうだ。あくまでも一応。
 で、なんでその内緒の話を俺達が知ってるのかっていうと、ソランツェを見て全く問題ないだろうと判断した上で、有難いがそんなに買うならダンジョンに直接採りに行った方がいいんじゃないかとこっそり教えてくれたから。
 まあ、そんだけ教えてくれたけど『あ、行かねっスわ』って感じで買い物した。

「だって俺がダンジョン入って、また何か異変起きて環境がガラッと変わっちゃったら嫌だし」
「それもそうか」

 種とか苗を採りに行ったりする事もあるらしいから、もしもその階層が無くなったりしたら……と考えると怖いので俺は行かない選択をしたのだよ。うん、そうだよ、そうなんだよ。他意はない。

 因みに引退した冒険者の中で農業をやっている事が多いのは土魔法の適性持ちの人達らしい。予想を裏切らないね。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ほろ甘さに恋する気持ちをのせて――

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:17

文化祭

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

疲労熱

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

僕の策略は婚約者に通じるか

BL / 連載中 24h.ポイント:14,705pt お気に入り:748

妖精のいたずら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:420pt お気に入り:392

いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

BL / 連載中 24h.ポイント:1,022pt お気に入り:10,011

ラグナロク・ノア

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

処理中です...