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ガシャドクロ編
第五話 緊急招集
しおりを挟むタブレットに映される報道、それはあまりに非現実的すぎてどうみてもフェイクニュースにしか見えないものの、慌ただしく報道する様子やその巨大な怪異らしき物体の周囲をヘリが飛び交う様子からして本当に現実に起こっている出来事のようだ。
見た目はまんま人骨模型のような外観で、大きさは四十メートル……いや、それ以上あってもおかしくないか。
そんな巨大な存在が、緑に染まる山々をゆっくりと進行して、木々を踏み倒し地鳴らしを響かせながら着々と町へ迫っていた。
「いやいや、いくらなんでも大きすぎる!とてもじゃないが怪異という規模じゃ収まりきらないよ!」
画面に食いつくように見ていた桶谷崎さんが、その途方もない巨躯と災害級の被害を被りかねない事態に唖然としたように語る。
もちろん過去にも大きな怪異は度々出現こそしていたものの、ここまでのスケールのものは観測されたことがないらしい。
「……これ、歪神認定される個体かな?」
「あぁ、おそらく間違いはないだろうね。じきに政府から全祓徐士へ緊急招集が出ると思う、荒噛くんも今のうちに準備をしておいて!」
「……フルーツパフェ食べたかったのになぁ」
海老の討伐を終えていよいよ褒美を待ち望む荒噛くんだったが、仕事を終えて早々の朝から仕事を押し付けられ不服そうな顔で簡易的に身支度を始めた。
曰く、災害クラスの被害が見込まれる怪異事変があると政府が度々全国にいる祓徐士へ緊急招集をかけるらしい。
そのほとんどが歪神認定はされず、荒噛くんやその他の強い祓徐士により事態を抑え込めるため、結果的にはただの怪異事件として処理をするとのこと。
しかし……どうみてもこれは災害クラスがどころか収束の目処が立たないほどの被害が出ること間違いなし。放っておいたら町一つ程度軽々消えてしまうだろう。
「来栖ちゃん……は今まで通り学校行っておいで!君はあくまでただの学生だし私生活優先!大丈夫、祓徐士のみんなが必ず抑え込むから!」
「あ~……そのことなんですが、よかったら付いて行ってもいいですか?」
「……いや、今回は昨晩とレベルが桁違いだし危ないよ!?」
「それはもちろんわかってはいるんですが……その、さすがにこのままだとちょっと行きづらいっていうか……」
そう、私はついてっきりシャワーがあるものだと思ってたし着替えの用意もないため流石にこのまま学校に行くのは個人的に厳しいものがある。
先程近場の銭湯についても調べたが、やっぱり営業開始は夕方頃から。
今日は幸いにも文化祭、授業もなければ当日大した配役のようなものもないためサボったところで特に問題はない。
ようやく私の意図を汲み取ってくれた桶谷崎さんが、なんだかものすごく申し訳なさそうな様子でぺこぺこと頭を下げては謝った。
なんだかその様子を見てると私まで申し訳なさが込み上げてきそうだ。
「……そ、それでもさすがに今回の同伴は認められないかな。せめて君はここで待機、危険に晒すわけにはいかないからね?」
今はただ進むだけの挙動しかとっていない怪異なものの、いつ悪意をもって攻撃を仕掛けてくるかわからない存在。もしそうなればたちまちに苛烈な戦場になる。
桶谷崎さんの言い分はもっともだし私もそれはわかっている。
けれど、どうしても気になる。
私たちが知らないところで、祓徐士たちが身体を張り人知れず怪異を退けて人々を救っているその現実をしっかり目に焼き付けたい。
そんな気持ちが私の中で明瞭に芽生えていた。
「……いいんじゃない、別に。ジンジンも現地に来るんでしょ?んじゃよゆーよゆー」
「ま、まぁ……仁ちゃんなら確かに色んな意味で安心かも知れないけどさ?」
仁、という人はどうやら逢魔ヶ刻の所属でさっきの電話の人らしく、何やら二人揃って凄く信頼しているようだ。色んな意味でという点は少しばかり引っかかるが。
「天龍寺くんは……この時間だし流石に来ないかもなぁ。現地に着いたら来栖ちゃんは仁ちゃんと二人で行動、荒噛くんは僕と一緒に国家祓徐士のバックアップに回ろうか」
あいあいさー、と気怠げに敬礼する荒噛くん。
そもそも、政府が緊急で招集をかけるのにそれに応じず来ないことがあるのだろうか。
ふと疑問に思い、ついつい軽い気持ちで尋ねてはみる。
「ん~……それがね、非公式を謳ってるだけあって割と好き勝手できるんだ。政府側に属さない分給与は少ないけれど好きな仕事の掛け持ちが許される。天龍寺くんはホストだから怪異の仕事がない日は大体朝まで出勤してるんだよ」
まさかの祓徐士兼ホストが逢魔ヶ刻に所属しているらしい。
なんで非公式を謳っているのか、理由はここでようやくわかったもののある意味一番の驚きというか、そんなに緩くていいのかと困惑を隠しきれない。好き勝手にも程があるんじゃないだろうか。
まさかの衝撃的な事実を聞かされ固まる私、その傍には仕事に臨むべくプロ意識を輝かせながらウォーミングアップのために再びアンパンマン体操を始める荒噛くん。
なんともカオスな空気が漂う事務所内だったものの、まるでその空気を断ち切るように突如としてそのメール通知が桶谷崎さんの元へと届いた。
内容はやはり政府からの通達で、内容は簡潔に言えば荒噛くんを指名の元可能な限り戦力になり得る祓徐士の手配を要求するようなものだった。
「……来たよ、政府からの緊急招集の通達!軍事ヘリをビルの屋上へ手配したとのこと、十五分後に着くからそれまでに準備をするように!荒噛くん、ウォーミングアップのアンパンマン体操はそのへんにして!」
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通達
日本政府直轄対怪異対策組織"禍津宵闇"より、非公式対怪異対策組織"逢魔ヶ刻"へ救援の要請を求む。
現状、長野県⚪︎⚪︎市△△町近隣にて突如現れた巨大な物体は着実に進行を続けており、午前十時三十八分頃には町民の居住区域に最接近すると予想される。
事態の収束の目処立たず、未曾有の規模での甚大な被害の恐れあり。
逢魔ヶ刻所属の特記戦力「荒噛戒」を最優先事項とし、その他所属する祓徐士の中で十分な戦力が見込まれる者の助力を求む。
逢魔ヶ刻所在の商業ビル上部へ軍事用ヘリコプターを手配。午前七時四十二分に到着予定、速やかに準備されたし。
また、今回の件について。
禍津宵闇はこの一件について、怪異事件でもなければ歪神事変でもないという見解を述べる。
繰り返す。怪異でもなく歪神でもない可能性が高い。
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