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午後からも勉強していると、玄関扉をノックされた。
王城内に建てられているとはいえ、神殿が乗り込んで来るかもしれないからというイリヤとオースティンによって、特別な結界がこの家には施されている。そのため、扉を叩くことが出来るものは限られていた。
「お世話になります。ヘリオトです。オースティン様にご注文頂いた品、お持ちしました」
扉の前に立っていたのはオースティンの実家御用達の商会で働くヘリオトだった。物腰の柔らかさと穏やかな笑顔で、貴族の奥様方から人気を集めているらしい。
ヘリオトを応接室へ案内すると、僕は籠バッグを机に置いた。
「本日は、いつもご注文頂いている来界野菜各種、牛乳、チーズ、加工肉、精肉、来界パン……以上でよろしかったでしょうか」
ヘリオトは持参したマジックバッグから宝石でも扱うみたいに丁寧に食材を取り出していく。このマジックバッグは優れもので見た目以上に物が入り、腐ったりもしないらしい。
今日も新鮮な野菜や肉類がどんどん出て来た。来界野菜はその名の通り、人参やじゃがいもなど日本と同じ慣れ親しんだ野菜だ。来界パンはいわゆる食パンのこと。
いつかこの世界特有の食材も使ってみたいけど、イリヤの希望もあって日本で作り慣れたものを使って作っている。
全部を確認し終え、ヘリオトに向きなおった。
「はい、大丈夫です」
「他にご入用の物はありますか」
食材の手配はオースティンを通じて行っているので、僕から直接お願いすることはない。
これは社交辞令のようなセリフだ。
いつもなれありませんと答えて終わるが、今日はふと思いついたことがある。
「必要なものは無いんですが、教えて欲しいことがありまして。お時間のある時にお話しできませんか」
僕の申し出が予想外だったんだろう。
ヘリオトは少しだけ目を見張ったが、すぐににっこりと笑って了承してくれた。
「それなら今からでも構いませんよ」
「ありがとうございます。では、お茶を淹れますのでこちらでお待ち下さい」
ヘリオトに持って来てもらった食材を台所に運び、魔導冷蔵庫に納めるとお茶の支度をして応接室へ戻った。
紅茶とロシアンケーキ風のベリージャムを乗せたクッキーを並べると、ヘリオトの目がきらきらと輝いた。
「とても美味しそうなクッキーですね。こちらはベリーのジャムですか」
「ええ。たくさん頂いてそのまま食べるには量が多かったのでタルトにしたり、ジャムにしたんです。お口に合えばいいんですが」
「ありがとうございます。さっそく頂きます」
クッキーに齧りついたヘリオトの目が見開かれた。
「これは、すごく味の濃いベリーですね! 甘さ控えめのクッキー生地と合ってとても美味しいです」
「オースティンさんがご実家から貰って来てくれたんですよ」
ベリーの出どころを話すと、ヘリオトはクッキーを味わうようにゆっくり食べて何度か頷いた。
「オースティン様のご実家とは……納得です」
「そうなんですか? お庭で育てていると聞いたんですが、日当たりがいいんでしょうか」
オースティンの実家のことは詳しく知らないが、結構広いおうちで立地もいいとイリヤが言っていた。
どんなおうちかなぁと思いを馳せていると、ヘリオトが何とも言えない顔をしている。
「……アオイ様、味の良し悪しは魔力の質と量で決まるのです」
「え、そうなんですか。すみません、まだ魔法や魔術については勉強してなくて」
「いえ、差し出がましいことを言って申し訳ありません。異世界では、日当たりが味に関係するんですか」
「僕も詳しくないんですが、気温とか日当たりが関係するみたいですね」
曖昧に答えたが、ヘリオトは興味深そうに頷いている。オースティンと同じくベリーが好きなのかもしれない。
「なるほど。そのあたりとても気になりますが、余計な話でしたね。ーーそれで教えて欲しいこと、というのは何でしょうか」
王城内に建てられているとはいえ、神殿が乗り込んで来るかもしれないからというイリヤとオースティンによって、特別な結界がこの家には施されている。そのため、扉を叩くことが出来るものは限られていた。
「お世話になります。ヘリオトです。オースティン様にご注文頂いた品、お持ちしました」
扉の前に立っていたのはオースティンの実家御用達の商会で働くヘリオトだった。物腰の柔らかさと穏やかな笑顔で、貴族の奥様方から人気を集めているらしい。
ヘリオトを応接室へ案内すると、僕は籠バッグを机に置いた。
「本日は、いつもご注文頂いている来界野菜各種、牛乳、チーズ、加工肉、精肉、来界パン……以上でよろしかったでしょうか」
ヘリオトは持参したマジックバッグから宝石でも扱うみたいに丁寧に食材を取り出していく。このマジックバッグは優れもので見た目以上に物が入り、腐ったりもしないらしい。
今日も新鮮な野菜や肉類がどんどん出て来た。来界野菜はその名の通り、人参やじゃがいもなど日本と同じ慣れ親しんだ野菜だ。来界パンはいわゆる食パンのこと。
いつかこの世界特有の食材も使ってみたいけど、イリヤの希望もあって日本で作り慣れたものを使って作っている。
全部を確認し終え、ヘリオトに向きなおった。
「はい、大丈夫です」
「他にご入用の物はありますか」
食材の手配はオースティンを通じて行っているので、僕から直接お願いすることはない。
これは社交辞令のようなセリフだ。
いつもなれありませんと答えて終わるが、今日はふと思いついたことがある。
「必要なものは無いんですが、教えて欲しいことがありまして。お時間のある時にお話しできませんか」
僕の申し出が予想外だったんだろう。
ヘリオトは少しだけ目を見張ったが、すぐににっこりと笑って了承してくれた。
「それなら今からでも構いませんよ」
「ありがとうございます。では、お茶を淹れますのでこちらでお待ち下さい」
ヘリオトに持って来てもらった食材を台所に運び、魔導冷蔵庫に納めるとお茶の支度をして応接室へ戻った。
紅茶とロシアンケーキ風のベリージャムを乗せたクッキーを並べると、ヘリオトの目がきらきらと輝いた。
「とても美味しそうなクッキーですね。こちらはベリーのジャムですか」
「ええ。たくさん頂いてそのまま食べるには量が多かったのでタルトにしたり、ジャムにしたんです。お口に合えばいいんですが」
「ありがとうございます。さっそく頂きます」
クッキーに齧りついたヘリオトの目が見開かれた。
「これは、すごく味の濃いベリーですね! 甘さ控えめのクッキー生地と合ってとても美味しいです」
「オースティンさんがご実家から貰って来てくれたんですよ」
ベリーの出どころを話すと、ヘリオトはクッキーを味わうようにゆっくり食べて何度か頷いた。
「オースティン様のご実家とは……納得です」
「そうなんですか? お庭で育てていると聞いたんですが、日当たりがいいんでしょうか」
オースティンの実家のことは詳しく知らないが、結構広いおうちで立地もいいとイリヤが言っていた。
どんなおうちかなぁと思いを馳せていると、ヘリオトが何とも言えない顔をしている。
「……アオイ様、味の良し悪しは魔力の質と量で決まるのです」
「え、そうなんですか。すみません、まだ魔法や魔術については勉強してなくて」
「いえ、差し出がましいことを言って申し訳ありません。異世界では、日当たりが味に関係するんですか」
「僕も詳しくないんですが、気温とか日当たりが関係するみたいですね」
曖昧に答えたが、ヘリオトは興味深そうに頷いている。オースティンと同じくベリーが好きなのかもしれない。
「なるほど。そのあたりとても気になりますが、余計な話でしたね。ーーそれで教えて欲しいこと、というのは何でしょうか」
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