不憫な青年は異世界で愛される

久村トノ

文字の大きさ
16 / 21

15.

しおりを挟む
午後からも勉強していると、玄関扉をノックされた。
王城内に建てられているとはいえ、神殿が乗り込んで来るかもしれないからというイリヤとオースティンによって、特別な結界がこの家には施されている。そのため、扉を叩くことが出来るものは限られていた。

「お世話になります。ヘリオトです。オースティン様にご注文頂いた品、お持ちしました」

扉の前に立っていたのはオースティンの実家御用達の商会で働くヘリオトだった。物腰の柔らかさと穏やかな笑顔で、貴族の奥様方から人気を集めているらしい。

ヘリオトを応接室へ案内すると、僕は籠バッグを机に置いた。

「本日は、いつもご注文頂いている来界野菜各種、牛乳、チーズ、加工肉、精肉、来界パン……以上でよろしかったでしょうか」

ヘリオトは持参したマジックバッグから宝石でも扱うみたいに丁寧に食材を取り出していく。このマジックバッグは優れもので見た目以上に物が入り、腐ったりもしないらしい。

今日も新鮮な野菜や肉類がどんどん出て来た。来界野菜はその名の通り、人参やじゃがいもなど日本と同じ慣れ親しんだ野菜だ。来界パンはいわゆる食パンのこと。
いつかこの世界特有の食材も使ってみたいけど、イリヤの希望もあって日本で作り慣れたものを使って作っている。

全部を確認し終え、ヘリオトに向きなおった。

「はい、大丈夫です」

「他にご入用の物はありますか」

食材の手配はオースティンを通じて行っているので、僕から直接お願いすることはない。
これは社交辞令のようなセリフだ。
いつもなれありませんと答えて終わるが、今日はふと思いついたことがある。

「必要なものは無いんですが、教えて欲しいことがありまして。お時間のある時にお話しできませんか」

僕の申し出が予想外だったんだろう。
ヘリオトは少しだけ目を見張ったが、すぐににっこりと笑って了承してくれた。

「それなら今からでも構いませんよ」

「ありがとうございます。では、お茶を淹れますのでこちらでお待ち下さい」

ヘリオトに持って来てもらった食材を台所に運び、魔導冷蔵庫に納めるとお茶の支度をして応接室へ戻った。



紅茶とロシアンケーキ風のベリージャムを乗せたクッキーを並べると、ヘリオトの目がきらきらと輝いた。

「とても美味しそうなクッキーですね。こちらはベリーのジャムですか」

「ええ。たくさん頂いてそのまま食べるには量が多かったのでタルトにしたり、ジャムにしたんです。お口に合えばいいんですが」

「ありがとうございます。さっそく頂きます」

クッキーに齧りついたヘリオトの目が見開かれた。

「これは、すごく味の濃いベリーですね! 甘さ控えめのクッキー生地と合ってとても美味しいです」

「オースティンさんがご実家から貰って来てくれたんですよ」

ベリーの出どころを話すと、ヘリオトはクッキーを味わうようにゆっくり食べて何度か頷いた。

「オースティン様のご実家とは……納得です」

「そうなんですか? お庭で育てていると聞いたんですが、日当たりがいいんでしょうか」

オースティンの実家のことは詳しく知らないが、結構広いおうちで立地もいいとイリヤが言っていた。
どんなおうちかなぁと思いを馳せていると、ヘリオトが何とも言えない顔をしている。

「……アオイ様、味の良し悪しは魔力の質と量で決まるのです」

「え、そうなんですか。すみません、まだ魔法や魔術については勉強してなくて」

「いえ、差し出がましいことを言って申し訳ありません。異世界では、日当たりが味に関係するんですか」

「僕も詳しくないんですが、気温とか日当たりが関係するみたいですね」

曖昧に答えたが、ヘリオトは興味深そうに頷いている。オースティンと同じくベリーが好きなのかもしれない。

「なるほど。そのあたりとても気になりますが、余計な話でしたね。ーーそれで教えて欲しいこと、というのは何でしょうか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

狂わせたのは君なのに

一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

魔王様と元 村人Aは一つ屋根の下

くろねこや
BL
橋の上で絶望してたらトラックが突っ込んできて、そのまま異世界へ落ちたオレ。 村人Aとしてスローライフを始めたものの、やはり元の世界に戻ることを諦めきれない。 ドラゴンも魔族も魔王もいるこの世界。 「あ、魔王を倒せば元の世界に帰れるんじゃね?」 ところが、倒すために探し出した魔王様はオレの記憶に興味津々で…。 「私もそなたと共に行く。そちらの世界はとても興味深い」 この時のオレは想像すらしていなかった。 そう遠くない未来、その“魔王様”と出会ったオレが、日本家屋で一つ屋根の下、一緒にのんびり暮らすことになるなんて。 ※こちらは『イライラしてますか?こちらへどうぞ』の世界と繋がっています。 ※『横書き』設定にてお読みください。

処理中です...