不憫な青年は異世界で愛される

久村トノ

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18.

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来界人街の相談をした日にヘリオトが見せた微笑みの理由が分かったのは、街へ行く前日。
イリヤもオースティンも午前中で仕事を切り上げてきた為、在宅していた。

「いつもお世話になっております。オースティン様、イリヤ様、ご注文頂きました品、何点かお持ち致しましたのでご確認ください」

大きめの箱を抱えたヘリオトはいつもの温和な笑顔でやって来た。

「いつもすまない」

「ありがとう、ヘリオト」

2人はヘリオトの来訪を知っていたらしく、イリヤとオースティンは楽しそうに彼を応接室へ招き入れた。
不思議に思いながらも、お茶の準備をして戻るとーー

応接室が衣装部屋になっていた。たくさんの服がハンガーラックにかかり、テーブルやソファにも服や小物が置かれている。
そのどれも、サイズが小さめでオースティンより小柄といえイリヤのものとも思えなかった。

「あの、これは……」

ティーセットを持ったまま立ち尽くす僕からオースティンはトレーを取り上げ、イリヤはシンプルながらも上等そうな白いシャツと裾がゆったりと広がった紺色のパンツを持って手招きした。
手ぶらのまま固まっていると、イリヤは服を手に近付いて来て、僕に当て出した。

「ほら、これなんてアオイくんに似合うんじゃない? サイズもちょうど良さそうだし」

やっぱりみんなは僕の服を選んでるみたいだ。ただでさえ、養ってもらっているのに服まで。
どうやって断ろうかと考えていると。

「それでしたら、こちらの靴を合わせられるのはいかがでしょうか」

戸惑う僕に構うことなく、ヘリオトはイリヤに黒っぽい革靴を見せた。普通のローファーみたいに見えるけど、アクセントに付いている金具に小さな石が嵌め込まれている。

まさか宝石じゃないよね?

「んー、これって人造石?」

「もちろんでございます。右に紅の石を、左に蒼の石を嵌め込んでおります」

人造石が何かわからないけど、宝石では無さそう。
子ども向けのアクセサリーで使われているみたいな石のことかな。
なら、そんなに高くないはず。

「綺麗なものだな。アクセサリーはどういうものがある?」

僕の足元を覗き込んだオースティンはそんなことを言い出した。
こちらの世界では現代日本よりも男女ともにお洒落な人が多く、ピアスやブレスレットなどみんなどこかしらに着けている。
でも、そんな高価そうなもの、僕には必要ない。

「オースティン、気持ちは分かるけど今回はお忍びってことなんだからあんまり派手なのは着けられないよ?」

「そうか……それは残念だ」

「うんうん。今度、みんなで似合いそうなの見に行こうね。ね、アオイくん?」

イリヤがオースティンを諌めてくれたおかげで諦めてくれたけど、今度見に行くっていうのは諦めてもらうための方便だよね?
深く考えるのをやめおく。

それより。

「あの、これは一体、何ですか? なんでこんなに洋服とか靴とか……」

なんで突然、こんな大掛かりな買い物が始まったんだろう。
買い物なら明日、来界人街へ行くのに。

「何って明日のためにアオイくんの外出着を見繕ってるんだよ。ついでに私服もいくつか揃えようね。欲しいものがあったらどんどん言って?」

「外出着って普段着ている服じゃダメなんですか」

いつも着ているのはイリヤが学生時代に着ていたもので、仕立てが良いのかお古に見えない。
家事をするにも動きやすいし、気に入っている。

「ダメじゃないけど、良い機会だし。新調しようよ」

「イリヤのお古というのが、ちょっとな」

ちょっとなんだろう?

「オースティンのよりマシだけど、体型も違うしね。ヘリオトが気付いてくれて良かったよ」

にっこりとイリヤが笑いかけると、ヘリオトは少しだけ目を細めた。いつもは柔和な瞳がきらりと光る。

「商機を逃さないのが信条ですから」

「ということだから、アオイくんもヘリオトの商機に協力しようね。ーーはい、これ着替えてみて」

「よろしくお願い致します」

「アオイ、靴はこれを」

三人三様に促され、断ることは出来なかった。

「ーーーー分かりました」



別室で着替えて戻ると。

「おお! どこからどう見ても貴族の坊ちゃんお忍びって感じだね」

「ええ、アオイさんの上品なお顔にとても良くお似合いです」

イリヤとヘリオトは口々に褒めてくれたけど、オースティンは僕を上から下まで見ると小首を傾げた。

「やっぱりもう少し着飾ってもいいんじゃないか。細めのアンクレットとか」

どうしても僕にアクセサリーを付けたいらしい。
またイリヤが断ってくれるかと思っていたが、オースティンの意見をきいてなるほどと頷いた。

テーブルに置かれた箱の中から細い銀鎖を選び取ると、僕に座るよう言った。そして。

「こんなのとかどう?」

と、足を持ち上げられ足首に銀鎖を巻かれるとちゅっと口付けられた。

「ひゃっ」

「そんなに驚かなくても。アンクレットにキスしただけだよ?」

悪戯っぽく笑いかけられたけど、細身のアンクレットだけにキスなんて出来ない。イリヤの口唇が触れたくるぶしが熱く火照る。

頬に口付けられるより、恥ずかしくて顔を覆って俯いていると、反対の足に熱を感じた。
驚いて顔を上げるとイリヤではなく、オースティン。
にやりと笑った彼は、何を思ったのか熱い舌で踝を舐めた。

「オースティンさ、んッーー」

舐められた瞬間、足先が震え変な声が出た。
すると、今度はイリヤが持っていた足をくすぐるように撫でて来てーー

もう一度声が出そうになった時、こほんと、ヘリオトが咳払いをした。

「明日のお召し物は決まったようですので、私はこれで」

そう言うヘリオトは持って来た大きめの箱を抱えており、いつの間にか部屋も片付けられていた。

早業に驚く僕とは違い、イリヤとオースティンは僕の前に跪いたままそれぞれヘリオトに別れの挨拶をする。

「助かったよ、ヘリオト」

「また頼む」

「はい。それでは皆さま、失礼致します」

「ちょっと、待って、たすけて」

丁寧に頭を下げるヘリオトに声を掛けるが。

「アオイさん、明日のお出掛けも楽しんで
来てくださいね」

商機を逃さない商人はドアの向こうへ消えて行った。

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