リサとアルクラ

果桃しろくろ

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04 やめて

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 この世界に勇者がいるらしい。

 勇者たちが城に来たのは、冬の日。

 初めて見る雪がとても綺麗なので、中庭にでて雪を眺める。雪は冷たいが、アルクラに、かかえられるのは温かくて好き。

 そろそろ部屋に戻って、食事をとろうと話をしていた時、大きな音がなりひびき、勇者たちが私たちの目の前に現れた。そして、彼らは私をみて、少し驚いたかと思うと薄く嗤い……私はその笑みに凍り付いた。

 皮肉にも勇者とそのパーティーは、私の元いた世界のクラスメートと――。

 私に気付いた彼らは、何かボソボソと話していたが聞こえない。
 カタカタと震える私を、アルクラは強く抱きしめた後、勇者に立ち向かった。


 シンシンと降る雪の中。いつもの様に。簡単に。黒い炭ができると思った。

 しかし、アルクラは苦戦した。

 中盤には人の姿から竜の姿になり、半分以上羽根がもがれた時、私の目に映ったのは――痩せて骨の上に皮がはりついてあるだけの――憐れな竜。

「アルクラ……?」

 やっとでた声。
 何? アレは? 何?

 私の様子に気付いた勇者が、アルクラの血で汚れた服を気にしながら、首だけこちらに向けてきた。

「お前、知らないのか」

 私が植木の影で震えているのを、勇者は口元を歪め嗤い庭園に響く大きな声をあげる。


「黒竜は人間しか食べない」


 私が「嘘」と言っても、勇者は嗤う事をやめず、他の仲間まで嗤い続けた。その声は私を絶望の縁に立たせる後押しをする。
 
「他のもんを食えるらしいが、食っても食っても満腹にはならねぇ。ずっと、飢餓をかかえるんだとよ。さっきまで、健康的な大人に見える様、幻想を自分にかけていたのだろう。……こんな骨と皮が魔王だなんてな」

 アルクラ。

「丁度、俺らがこの世界に落ちた時にな、雌の黒竜が人間を襲っていたんだ。こいつの一回りデカい黒竜だったなぁ。半殺しにしたら、人間に化けて、デカい腹をかかえながら、卵だけは殺さないでと懇願してきやがった。腹は気になったが、極上の女だったから散々犯した後に、ちゃんと殺しておいたけどな。腹を掻っ捌いたら卵が出てきたから、ぶっ壊そうとした瞬間、消えた――それが、こいつ」

 勇者は、アルクラに刺さった剣を引き抜き肩に乗せトントンとリズムをとりながら、得意気に話を続けた。

「で、人々を苦しめた黒竜を退治した俺らは、勇者として祭られてな。その消えた卵を捜せと命じられてたわけ。面倒だったが、待遇も良かったし、雑魚ばかりで楽勝。気が向いたらあっちにも帰れたしな。受験前の俺らのストレス解消にもってこいってわけよ。……今、思い出したが、ここの王子がもう一人、俺らの仲間を見つけたとかいっていたが……まさか、お前の事じゃねぇよな」

 頭にグワングワンと鳴り響く。

 否応なしにアルクラの姿を目に焼き付けられる。

 アルクラは何を食べていた? 私と一緒に野菜や穀物ばかりじゃなかった? 
 私が肉を食べないから。私にあわせてくれていた!! だから、あんなに痩せて?! 人間を食べるなら食べたらよかったんだ! 黒く炭にするくらいなら! なのに! どうして! アルクラ!!!

 その間、アルクラの身体からは、ドクドクと血が溢れで続けて。
 目が瞬きを忘れる。

「この世界では俺たちは、特別なギフトがある。勇者である俺は、この力のギフト。この魔法使いは、呪文ひとつで元の世界に行き来できるギフト。こいつは、癒しのギフト。さて――役立たずのお前のギフトはなんだろうな。……ああ、そうか。この竜をたぶらかすギフトか」

 ドスッ

 そして、再びアルクラの穴に剣が戻った。

 !!! やめて、やめて、やめて。

 声が、声が、届かない。
 アルクラ! アルクラ!

「その身体でたぶらかしたか? 俺たちが仕込んでやったんだ。礼くらいいったらどうなんだ?」
「―――――」



 +




『――君、どうしたの? 一緒に帰ろうよ』
『痛い、引っ張らないで!! どこに連れて行くの?』
『待って、ここ暗い。何? 何笑ってるの?』
『……え? 何? どうしてみんなが、いるの? あはは、冗談キツイよ』
『ちょっと、離して!!!――君! ――君!!』


『………………ど、ぅして』





 +




 両手で身体をかきむしる。一度落ちて死んでリセット出来たと思っていた。
 私は、私は、まだ綺麗になっていないのか。
 踏みつけられた雪の様に泥と混じって、白く戻れない。

 勇者は雪がおちてくる空を見上げる。その瞳は濁っていて光を映していない。

「こっちはいい。あっちの世界で自分よりも弱い奴を殺しただけで犯罪者呼ばわりだが、こっちの世界では英雄と崇められる………なぁ、お前」

 低い、冷たい抑揚のない声。

「お前、俺らに、あて付けで死んだんだろ?」


 座り込んだ私の顔を覗きこむ瞳は真っ暗闇で、感情を感じさせず、ぐちゃりと踏まれた私の足首。「……ッ」痛みに顔を歪めるけど、痛いなんて言えない。だって、アルクラはずっと私に笑っていたんだ。

「……ちょうどいい、連れて帰ってやる。その後、死に直せばいいんじゃねぇ? あっちの世界はただでさえ面倒なのに、お前のした事で煩わしい事になってよ」

 赤い舌がベロリと一回り。
 私の身体を舐めるようねっとりとした熱這う。

「それとも、あの時の続きをしてやろうか?」
「い……や」

 壊れた人形の様に首を振り続けて手足を大きく動かすものの、私の抵抗なんて、ないも同然。手首を掴まれ引きずられる。

 その時、シャランシャランと足元から音がした。

 アルクラが、動けないはずのアルクラが。真っ赤な血を吹き出しながら、勇者に襲い掛かる。


 ――――!!!!

 白い雪の赤い景色の中、私のアルクラが



 消えた。

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