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第3章

5話 聖女と使徒と、つぎはぎの街

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 エドガー使徒覚醒事件から、ふた月ほどが経過した。
 私とシアは本日も引き続き、市井に馴染む為の訓練――という名の、散策と買い物を繰り返している。
 先月の頭からは、傍に付き添う護衛官の人もいなくなった(見えない所にはいますよ?)上、エドガーまでもがこの訓練に参加し始めたせいか、ますます集団での『はじめてのおつかい』臭が強くなってきた所だ。
 その買い物ミッションも、今日で一区切り。
 本当にきちんと自分で買い物ができるようになったか、チェックを入れるとディア様が言い出したのです。

 前述の通り、先月頭から付き添いの人がいなくなったんで、ちゃんと自分で買い物してるんだけども、実際に自分の目で見て確認してる訳じゃなく、毎度護衛官の人達からの、書面と口頭での報告を見聞きするに留まっているせいもあってか、どうもディア様は私達の事が心配でならないらしい。

 この世界には数代前の聖女が残した、画像撮影機材や記録媒体の製造法なんかがしれっと存在しているので、それを使って買い物の様子を撮影しておいて、後で撮った画像を見るとか、そういう形を取るんだろうな……とか呑気に思ってたら、なんとディア様が、ご自身も変装して市井に出て、私達の様子を直に見る、と言い出したもんだからさあ大変。
 私とシアも、いやいやいや、幾らなんでもそれはまずいでしょ、ご自身の立場を思い出して! ……と、慌てて説得しようとしたし、周りの人達だって、みんなこぞって反対してたのだ。
 なのに、いつの間にやら私とシアを除いた全員がディア様に丸め込まれ、気づけばディア様を筆頭に、年配の方々を中心に構成された『聖女様方のお買い物を見守る会』とかいう、訳の分からん集団が出来上がっていた。
 なにゆえ!?

 たかが買い物ひとつするだけでこの騒ぎって……。嘘だろ……。
 私達って、そこまでダメな子だと思われてたのかと、ちょっとしょげていたのだが、御使いのアルマさんに、「皆様、聖女様方をお孫さんのように思っておられるのですわ」と言われて、今度は一転、ちょっぴりこそばゆくなった。
 え、孫ですか。ホントに?
 なにそれ嬉しいホッコリしちゃう。
 実は私、前世では両親がてんでアテにならない連中だったんで、中学までは、じいちゃんばあちゃんに育ててもらっていたのです。

 どっちも優しくて大らかないい人で、じいちゃんは私が中学2年の冬に、ばあちゃんは高校に入る直前に、それぞれ天に召されて旅立ったが、それまでの間に、パートや何やらでずっとコツコツ貯金してくれていて、そのお金のお陰で無事高校に入学し、最終的には卒業できた。弟もしかりだ。

 生活費だけはどうにもならんくて、2人でバイトして稼いでたし、そのうち弟共々途中で色々ひん曲がって、周りに迷惑かけたりもしたけれど。
 それでも学業を投げ出さず、どうにか高校を卒業できたのは、じいちゃんばあちゃんが残してくれたお金で学校に通ってるんだ、という意識が、頭の片隅にいつもあったから。
 それがなかったら、間違いなく途中でドロップアウトしてた。
 つるむ相手も間違えて、まともな職に就けなくなってたかも知れない。

 私にとって、じいちゃんばあちゃんの存在ほど特別なモンはなかった。
 だから孫とか言われると、ホント弱い。めっちゃ弱い。
 仕方ないです。折れるしかないわ、もう。
 てな訳で、どうぞどうぞ、存分に見て下さい。
 ディア様達の期待に、見事応えて御覧に入れますよ!

 まあ、ただ買い物するだけなんだけども。

◆◆◆

 そんなこんなで、やって来ました下町商店街……じゃねえ。こちら平民街にある、ブラウンストリートです。
 ブラウンストリートというのは、この通りに面している建物が、全部茶色いレンガ造りになってる事からついた名前だそうで、主に食料品店や食事処なんかが軒を連ねてる、とても賑やかな場所だ。

 本日のミッションは、この通りの総菜屋さんとお菓子屋さんで家族(仮)へのお土産を購入し、最後に、適当な飲食店で小腹を満たして帰ってくる、というもの。
 ついでに言うならこのミッション、今回はエドガーも飛び入りで参加していたりする。
 私達の買い物ミッション(テスト)を小耳に挟んだエドガーが、なんでそんな面白そうな事俺抜きでやろうとしてんだよ、人の事ハブってんじゃねえよ、と騒いでへそを曲げたので、やむなく参加を許可したのだ。

 長さは違うものの、お互い同じ色味をした茶髪のカツラを被り、眼鏡をかけるという、似たり寄ったりな没個性的変装をした私達は、それぞれ淡いくすみピンクのワンピースと、白いシャツの上から紺のジレを着て、同系色の紺色パンツを穿く、という服装でここにいる。
 以前と比べりゃ、多少はファッショナブルになったかと思います。
 ちなみに今日、シアは学園で居残り喰らって後から合流する事になっている。
 タイミング悪く、攻撃魔法の実習があったんだな、これが。

 前にも述べたと思うが、シアは攻撃魔法が苦手だ。
 前に、性悪先生が絡んできた授業の時には、攻撃用としてデカい水球生み出してたけど、あれって厳密には、攻撃魔法じゃないんだよね。
 あの時はお題の性質上、カレン先生はシアの『攻撃魔法』を大目に見てくれたのだが、今回は大目に見てもらえなかった。
 担当の先生が出したお題が、『瞬間的な攻撃力を発揮する魔法』を使う、というものだったから。
 ぶっちゃけ、シアが一番苦手なジャンルです。

 元々の穏やかで大人しい性格が災いして、『対象を直接殺傷する魔法』を理論的に構築する事はできても、構築した魔法をきちんと頭の中でイメージできないのだ。
 多分、怖いんだろう。『誰かを殺す』可能性がある魔法を使うのが。
 気持ちは分かる。
 そんなの私だって怖い。
 死刑の片棒担ぐ覚悟はできたけど、自分の手で誰かを殺せるかと問われたら、言葉に詰まる。即答できない。いや、多分無理だ。直接的な殺しとかキツ過ぎる。
 重たいなあ。畜生。

 話を戻そう。
 今回の先生――アイシャ先生は、元五大公爵家のご令嬢(ごめん。家名は忘れた……)で、その繋がりから、私が使徒を見出した事を密かに知らされている人でもある。
 そのせいか、しばらく前からシアや私への指導が、かなりマジになってきているのだ。

 いつもは生徒の向き不向きを考慮し、あまりに攻撃魔法の使用に向いていないようなら、他のジャンルの補習をこなせば、お題をクリアしたとみなして単位をくれるのだが、アイシャ先生はそうしてくれなかった。
 いずれ私達が王都の外へ出て、聖地を目指して旅する事を知っているからだ。

 聖地があるのはノイヤール王国領の外れ。
 帝国との国境を臨む土地を、女王の代理として治めている上位貴族――いわゆる辺境伯の管轄下にある、どこぞの森のド真ん中なのだそうな。
 当然、道中魔物が出てくる事も大いに考えられる。
 それすなわち、魔物相手に戦って、命のやり取りをしなければならない可能性が、多分にあるという事。
 もう現時点で既に、そんな危険地帯へと旅立つ事が決まっている生徒に対し、マニュアルに則った温い指導なんてしていたら命に係わる、と、アイシャ先生は思ったのだろう。
 だからこそ、そりゃあもうビシバシ鍛えてくれている訳です。主にシアを。

 ちなみに私の方は、1、2回ちょちょっと見てもらっただけですぐに絶賛され、「わたくしがお教えできる事は、もう何もございませんわ」と、太鼓判を捺して頂いている。
 アイシャ先生は輝くような満面の笑みを浮かべ、あなたならどこへ行っても大丈夫。どんな凶悪な魔物もワンパンです。魔王だって殺れますよ。……みたいな感じで、そりゃあ嬉しそうに私を褒めちぎってくれた。
 もう先生ったら大袈裟。この世界に魔王なんていないじゃないですか、ヤダー!

 ともあれ、その節はご指導頂きありがとうございました。アイシャ先生。
 でも、ぶっちゃけあんまり嬉しくなかったです。


「……なんか、バーサーカー呼ばわりされてるみたいで、素直に喜べなかったんだよなぁ……あん時」
「? おい、なんか言ったか?」
「んーん。なんにも言ってな~い」
 ついアイシャ先生とのやり取りを思い出し、小声で呟いた私に、買い物ミッションが楽しみ過ぎて、若干浮かれポンチになってるエドガーが声をかけてきたが、適当な返事で適当に流す。
 つか、真面目ヅラ作ろうとして失敗して、めっちゃニコニコしてんじゃん。ホント買い物が好きだな、お前。

 ともあれ、今はミッション開始直後。
 平日の午後だから、どの店も大して混んでないし、道も割合いている。
 これならミッションの遂行途中で、うっかりはぐれる事もないだろう。
 ――いざ、お総菜屋さん&お菓子屋さんへ!
 ごく一般的な平民の食卓事情にも、大変興味がございます。
 美味しそうなものが見付かるといいな♪

 私もつい浮かれ気味になりつつ、まずは総菜屋さんを探し始めたのだが――最初の総菜屋さんを覗いた時点で、だいぶ違和感を感じた。
 どうやらどの店も基本的に量り売りで、食べ歩き推奨とでも言いたげな小さな紙のカップと、同じく小さな木製のフォークが常備されている。

 最初に覗いた店の真ん前には、デカくて小奇麗なガラスケースが、デン、と置かれていて、その中にトッポギとイナゴの佃煮とホタテのマリネが一緒くたに並べられていました。
 そして、その間に涼しい顔で鎮座している、蜜掛けの鈴カステラっぽいブツ。
 なんぞこれ。ごった煮感が凄いなオイ。
 あ、チリコンカンと餃子見っけ。あれってエビチリ? あと、その隣にあるジョニーケーキって何。エドガーに訊いてみたけど、エドガーも知らなかった。残念。

 その隣のお総菜屋さんには、コロッケとラタトゥイユと切り干し大根の煮付けが並んでいた。
 うーん。このデミグラスソースで煮込んだロールキャベツ、美味しそうだなぁ。春巻きも捨てがたい。
 こっちにあるのはイモの煮っころがしで……えー、このトートマンプラーっての、なんだろ。見た目はさつま揚げにそっくりなんだけど。

 更にその隣のお総菜屋さんは、主にサラダ類を中心に扱っているようだ。
 けど、お隣さんと似たような形をしたガラスケースの中には、梅キュウリとカプレーゼ、果物満載のトロピカルサラダ、それから赤身魚のお刺身が、みんな仲よく並んでおりました。
 生粋の日本人としては、刺身がサラダの仲間として扱われている事が若干解せぬ。
 あっ、キムチだ。白ごま入った春雨のサラダもある。味付けは中華風かな?
 ……って、あの、カプレーゼの隣に、ひじきの煮物っぽいヤツがあるんですけど、それもサラダの扱いなんですか、ここ。
 でもまあ、こういう無国籍感丸出しのラインナップって、日本でもちょいちょい見かけたし、それを考えたら別にそんなおかしくないよね、とか言い合いつつ、ロールキャベツとエビチリ買ってその場で食べました。
 私達も大概です。

 しかしこういう料理、こっちの世界では初めて見た。
 普段私が過ごしている大聖堂や、学園の食堂に出てくる料理の大半はイタリアンに近い代物で、そこに時々フレンチっぽい料理や、ジャンクなアメリカン風料理が混ざってくる感じなんだけど、日本料理とか韓国料理とかはマジで初見だぜ……。

 つかあったのかよ! 日本料理! 韓国料理! そして中華料理!
 あと、その他の国の料理も結構あるよな!
 食べたかったよそういうの! なんで大聖堂や学園では誰も作らねーんだよぉ!
 これまでの十数年間を無為に過ごした感がハンパねえよ! こん畜生!
 つーか米を! 米をくれ!
 日本料理があるって事は、あるんだろお米のご飯もさ!
 私に白米を食わせろおおおッ!

 私が内心でシャウトしつつ、ちょっぴりギリィしていると、隣にいたエドガーが、ポン、と肩を叩いてきた。小さな声で「分かるぜ」と言いながら。
 ああ、分かってくれるか同郷の友よ! 今日はあんまり長居できないから、隅々まで探し歩くのは無理だけど、いずれ必ずお米を探し出して食べようぜ! 約束だ!

 こうして私達は、まだ見ぬ未来に思いを馳せつつ、お土産に餃子と春巻きを購入し、今度はお菓子屋さんにやって来た。
 そこで売ってるお菓子も案の定無国籍で、ショートケーキとみたらし団子、マカロンにサーターアンダギーなどが、同じショーケース内に一緒くたに並べてあって、なんかちょっと薄ら笑いが浮かぶ。
 でもどれも美味しそうだったので、つい小さなアップルパイと、ドライフルーツたっぷりのパウンドケーキを1切れ買って食べてたら、エドガーが「太るぞ」とかいう、安定の無神経発言をかましてきやがったので、後ろ頭を軽くひっぱたいておいた。

 あと、一緒に売ってたカヌレがホールケーキみてーなデカさしてて、思わず二度見するくらい驚いた、という事だけ、ご報告申し上げておきます。
 そういや本場のカヌレって、サイズ感はどうなってるんだろうね。
 日本で売ってるのしか見た事ないから、分かんないや。

◆◆◆

 お菓子屋さんでのお土産に、見た目にも華やかなミックスベリーパイをホールで購入した私達は、ついに最後の関門(大袈裟極まりなし)となる飲食店――こぢんまりとした喫茶店にやって来た。

 そこでもやっぱり、飲み物、軽食、お菓子に至るまで、何もかも無国籍にブッ込まれたメニューが並んでいる。
 いいよ、もう慣れたから。
 そこでエドガーは、ほうじ茶にどら焼きという和シリーズを注文し、私はカプチーノとプチシュー、それからカンノーロという見慣れないお菓子をチャレンジ注文してみた。
 結果を言うなら、チャレンジは大成功。
 くるっと巻いたサクサクのパイ生地の中に、チーズを混ぜ混んでるっぽい酸味の効いたクリームと、でっかいサクランボのコンポートがみっちり詰まった、めちゃうまスイーツでした。

 フフフ、私ってば持ってる! どこの国のお菓子か分からんし、お隣の席から漂ってくる、できたてピロシキのかぐわしい香りのお陰で、ちょっと複雑な気分になったけど。
 でも分かるよ。美味いよね、ピロシキ。
 それより気になるのは――

「……しかし、遅くねえかシアの奴。もう帰りの時間になっちまうぞ? 結構のんびり回ったつもりだったのに。そんな厳しいのかよ、最近の授業」
 うん。それな。
「……確かに、私達の事情を知ってる先生とかの指導は、結構厳しくなってきてるけど、今日はまた、一段と厳しい感じがするわ……。もしかしたらもう今日は、合流諦めなくちゃいけないかも。
 アイシャ先生は指導が熱心な分、厳しい事でも有名だし、シアはシアで、性格的な面から見ても、ホントに攻撃魔法の資質なさそうだし、でも、アイシャ先生は実戦が絡んでくるとなると、その辺の考慮とかほぼほぼしないタイプだし……」
 私はつい、テーブルにだらしなく寄りかかり、頬杖つきながら、お皿の上に残った最後のプチシューを、フォークでツンツンしてしまう。
 そして、そこからハッと我に返り、慌てて身体を起こした。

 やっべぇ! 見えない所に護衛官の人達がいるの忘れてた!
 あああ、行儀悪い真似してすいません!
 もうやらないんでディア様に報告するのはご勘弁!
 って、おいエドガー! なに笑ってんだ!
 お前だってちょくちょく似たような事してんだろ!
 後でチョークスリーパーかましたろかい!

「くく……。まあ、お前の行儀の良し悪しはともかく、シアの方はキッツイな。
 つか、向き不向きってモンもあるだろ? そこを丸々無視して、無理くり攻撃魔法の使い方叩き込もうとすんのって、どうなんだよ」
「うっさい。人の事笑える立場かお前。……あー、まあ、シアの件は私もそう思うんだけど……。でも下手すりゃ今後、攻撃魔法が躊躇なく使えるかどうかってのが、直接的に命に係わってくるとなると、アイシャ先生も温い対応はしてくれないと思う。
 でも、こうまで指導時間が遅くまで食い込んでくるとなると、ねえ……。できるだけ私達でフォローするようにしますから、って、先生に言ってみようかな……」
「それがいいかもな。――そろそろ出ようぜ。外が暗くなっちまう」
「……。だね。せめてシアに、なにかお土産買って帰ろう……」
 何とも言い難い、複雑そうな顔で椅子から立ち上がるエドガーに、私もラス1のプチシューを口の中に放り込んでから続いた。


 シアへのお土産として、フルーツチョコ数種をテイクアウトし、喫茶店を出る。
 乗り合い馬車を使って大神殿近くまで戻り、大神殿目指して歩き始める頃には、真っ赤な夕陽が半分、地平線の向こうに隠れていた。

 大聖堂を敷地内に抱える大神殿は、王城と背中合わせになるような恰好で建っている。
 貴族街と王城を隔てている第3正門を通ってしまえば、不審者とかち合う危険なんて皆無に等しいから、別に送ってくれなくても大丈夫だと言ったのだが、それでも私を大聖堂まで送ると言って聞かない、律儀な友人と2人、王城をぐるりと回って、大神殿目指してテクテク歩いて行く。

 魔法か何かで盛り土をしたのか、それとも元から丘陵だったのかは定かでないが、高い場所にある大神殿と王城の近辺からは、王都の街並みがよく見える。
 そこにふと立ち止まり、何となく王都の街並みに目をやれば、今まで気にもしていなかった事が、何だか無性に気にかかるようになってきた。
 今日、ブラウンストリートに並んでいた幾つもの店舗の、あの無国籍ぶりを直に見たせいかも知れない。

「? どうした、アル」
「うん……。なんか、この街の平民街にある民家ってさ……建築様式に統一感がないよね」
「……。ああ。それは俺も思ってた。日本式の木造住宅と、西洋式のレンガ造りの住宅と、あとなんか、南国にあるログハウス風の木造住宅っぽいのとが、ごっちゃになってんだよな、ここ。
 国特有の建築文化とか、そういうのが全然見えてこねえっつーか……」
「だよね……。一体どんな経緯があって興った国なんだろ、ここ……。街はどこも清潔だし、食べ物も美味しいし、凄く住みやすい所だとは思うけど……文明レベルとか、そういうのも、物凄くちぐはぐなんだよね」
「……考えても、仕方ねえだろ。そんな事。この国にどんな謂れや由来があろうが、俺達はずっと、ここで生きてかなくちゃいけねえんだからな。
 ――ほら、早く行こうぜ。もしかしたら、シアが戻って来てるかも知れねえぞ」
「……うん。そうだね」
 本当は自分も気になってるくせに、それを強引に胸の奥へと押し込めて、エドガーが再び歩き出した。
 当然、私もその後に続く。

 最後にもう一度だけ振り返り、背中越しに見た街中は、どこもかしこも郷愁を掻き立てるかのような、夕焼け色に染まっていた。ちょっと切ないけど、とても美しいと思う。
 まるで、あちこちの文化圏から様々なものを切り出して、無理矢理貼り付けて組み合わせたような、疑問と違和感燻る、つぎはぎの街であったとしても。
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