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第二部
ドミニク様のお仲間
その日の朝はすっきりと目覚め、隣りには愛する人が寝息を立てて眠っていた。
今日は王太后陛下の快気祝いの宴が開かれる日。
ドミニク様に新調していただいたドレスを着るのが、楽しみで仕方ない。
でも私には、王族の方々の飲み物を魔女の眼で注視しておくというお役目があった……ドミニク様が言うにはその日に決行される可能性が高く、特に王族の飲み物に入れられる可能性が非常に高い。
というのも東の帝国の皇帝陛下が”リドメキシアの秘薬”の流通を徹底的に潰したので、フェンデルバーグ公爵側がこれ以上手に入れる事が出来なくなったのだ。
きっと今頃焦っているはず……早めに事を起こす可能性が高いので、王族や貴族が一堂に会する快気祝いの宴は格好の場だった。
国王陛下もそう考えていて、この事を知っている者の間では緊張感が漂っている。
ドミニク様は王宮を出て今は公爵なので王族の中に並ぶ事はないから、警護する為の出席になりそうだった。
彼から贈っていただいたドレスが、まるで戦闘服のようにも思えてくるわ……もっとちゃんと着て、2人で夜会を楽しみたかったけれど、仕方ないわね。
この件を解決する事の方が断然大事だもの。
私は決意を胸に、その日は朝からリジーやノエルに手伝ってもらい、王宮へ行く準備に勤しんだのだった。
~・~・~・~・~
ドレスが届けられて何度も何度も眺めてはうっとりしていたけれど、いざ袖を通してみると、軽やかでありながら華やかなデザインに煌びやかなビジューが光り輝き、お祝いの席に相応しいデザインだなと感嘆の声しか出てこない。
本当に素晴らしいわ……フレアスリーブもシースルーになっているので、裾が長くても軽やかで腕が動かしやすいし、裾が床近くまで垂れていてゴージャスだわ。
私のデコルテには、藍色に近い色のコランダムをあしらったジュエリーが光り輝いている。
コランダムは幸運の守護石……ドミニク様のお心を感じる。
髪型はリジーがいつもしてくれているから、ドレスはノエルにそれぞれお任せしたのだった。
いつもは髪が美しいと言われるので髪飾りだけの時もあるけれど、今日は少し結い上げたところに髪飾りを挿している。
「お嬢様、お化粧も終わり、準備が整いました」
「素晴らしいですわ、クリスティーナ様!」
「ありがとう、皆」
ドレッシングルームで一通りの準備を終え、リジーやノエル、侍女たちがとても褒めてくれるのでお礼を伝える。
鏡に映った自分を見ても今までで一番気合が入っているかもしれない……この姿を一番に見てもらいたい愛する婚約者は、すでにエントランスホールで待ってくれていた。
「じゃあ、行ってくるわね!」
「「いってらっしゃいませ」」
皆の声に送られながらエントランスホールへと向かった。
ドレッシングルームは二階に位置するので、中央の階段を降りていかなくてはならない。
すぐに階段へと到着すると、階下にはドミニク様が正装をして執事のグラースとお話している最中で、私の姿を確認すると、階段の中央まで駆け寄って手を差し伸べてくださった。
私も彼の手に自分の手を乗せ、ドミニク様にお礼を伝える。
「ドミニク様、素敵なドレスをありがとうございます」
「お礼なんていいんだ。私が贈りたかったから……まるで人魚姫のようだ。とても似合っている、宴に行かせたくないな」
「私もドレスを見た時に人魚姫のようだと思いました。ドミニク様だってとても素晴らしいですわ……素敵」
いつも素敵だけれど、やはり夜会用に正装している彼の素晴らしさは言葉では言い表せられなかった。
髪も今日はしっかりと結んでいて、美しいレースのクラヴァット、金糸や銀糸の刺繍が施されたコートにベストが男性らしさを際立たせていて、心臓がうるさくなっていく。
今は一緒に住んでいるし、2人で過ごす日常なども穏やかに過ぎているのに――――まだまだ彼に胸が高鳴るのが落ち着く感じがしないわ。
『お2人とも、素晴らしい服装に心が躍るのは分かりますが、私の存在を忘れてもらっては困ります』
「ラディ、もちろん忘れていないわよ!」
「むしろ忘れたいところだったんだが……」
『ドミニク殿、何かあっても力をお貸ししませんぞ!』
「ははっ、それは困ったな」
ラディは普段、公爵邸の中を飛び回り、本人曰く警護をしているらしく、特に鳥かごなども必要ない生活をおくっていた。
庭では小鳥同士、仲の良いお友達も出来たらしくて、庭園を散歩しているとラディとお友達が楽しそうにしている姿をよく見かけるのよね。
そんな彼にドミニク様が意地悪な言葉を投げかけるけれど、ラディも負けじと応戦する。
ドミニク様はラディが顔を赤くしてお怒りなのを見て、すっかり楽しんでいた。
2人は普段からたいていこんな感じのやり取りをしているから……やっぱり相性が良いのよね、きっと。
喧嘩するほど、といった感じで。
私たちは賑やかなやり取りをしながら馬車へ乗り込み、2人と1羽で王宮へと出発したのだった。
~・~・~・~・~
王宮に到着すると、ラディは王宮周りを見て回るという事で飛び立ち、私とドミニク様は祝いの宴へと出席する為にホールへと向かった。
「……緊張しますわ」
「どうして?」
「もう、分かっているくせに!」
「ふふっ、大丈夫だよ。私がそばにいるから」
彼の腕に手を乗せている私の手に、安心させるかのように自身の手を乗せ、優しくさすってくださる。
胸が温かくなった私は、彼と顔を見合わせて微笑み合った。
祝宴が行われているホールの入口付近にはサロンが設けられていて、そこには貴族の方々が寛いでいるのが目に入る。
私たちがそのままホールへと入ろうとすると、そこで寛いでいた貴族の方々がドミニク様に気付いて近付いてきたのだった。
「ドミニク!やっと来たのか、待っていたんだ」
「ドミニク様!」
「閣下」
様々な方々がやってきてお声をかけてくるので、ドミニク様のお顔の広さをまざまざと感じ、面を食らってしまった。
その中にはロイド様もいて、少し女性の方もいらっしゃるし、本当に老若男女問わずお知り合いといった感じだわ。
「この前は世話になったな。助かったよ」
ロイド様に声をかけているドミニク様の姿を見て、王太后陛下の件を言っているのかなと推察した。
あちこち飛び回っていたから、その時に会いに行ったのかしら。
「まだ終わってないんだから油断するなよ」
きっとここにいる方々の中に、王太后陛下の件でドミニク様に協力をしてくださった方が何人かいるに違いない。
私もこんな風に彼に協力出来たら良かったのに。
「ティナ、そろそろ行こうか」
私がぼんやり考え事をしていると、ふいに彼から声をかけられて我に返る。
ドミニク様を見上げると優しい笑みを湛えていて、周りを見渡すと皆が私の方を向いていた。
「はい、そうですわね!」
「ティナ?具合でも悪い?」
そう言って自身のおでこを私のおでこにくっつけてくるので、私は全身発火するのではないかと思うくらい真っ赤になってしまうのだった。
「だ、大丈夫ですわ!ドミニク様、皆様がいらっしゃいますし……」
もう何から言えばいいのか分からない……こんな大勢のお知り合いの前で子供扱いされ…………穴があったら入りたい。
私が羞恥に悶えていると、ロイド様が大きな声で笑い出した。
「はははっ、クリスティーナ嬢の前だとドミニクもただの男だな!」
周りの皆が一斉に笑い始め、私は恥ずかしさでますます小さくなってしまう。
「こいつ、俺と一緒にいる時もクリスティーナ嬢の事ばかり話してるんだ。もう一緒にいるのもうんざりになるくらい」
「私だってロイドといるより、ティナと一緒にいたいに決まってる」
2人のやり取りを見ていて、喜んでいいのかどうなのか、反応に困ってしまう。
周りの方々にもクスクス笑われてしまい……でもドミニク様が私の事をそんな風にお話してくれていたなんて、やっぱり嬉しい事よね。
いつか堂々と彼の奥様として紹介される日がくるといいな。
「では行こうか」
「はい」
「なんだ、結局皆に紹介しないのか?」
「式の時に」
ドミニク様はロイド様にそう言って、手をひらひらさせていた。
こんなやり取りが通るくらい気を許しているお仲間なのね。
微笑ましく思っていると、彼が私の肩を抱きながら、そっと耳元で囁いてくる。
「私のそばを離れないで」
今日はそういう風に話し合っていたので、分かってはいたけれど、耳元で囁くというのは反則だと思う。
私はようやく体が赤くなっていたのが引いてきていたのに、また体に熱が集まっていくのを感じ、ホールにいる方々と交流する為に早く落ち着かなければと必死に呼吸を整えたのだった。
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