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第二部
ナタリア嬢とヤヌシュ
こちらのお話には暴力表現が出てきますので、ご注意ください<(_ _)>
~・~・~・~・~
ゆらゆらと揺られているような気がするわ…………どうして?
私は客室のベッドで眠りに落ちたはず。
なぜだか暗闇の中で自分を呼ぶ声が聞こえてきて、声の主はドミニク様ではない気がする……この声は…………ヤヌシュ?
幼い頃の夢を見ているのかしら。
ヤヌシュがそばにいるわけがないのに。
徐々に意識が戻ってきて、重い瞼をゆっくりと開いていった。
「……ん…………」
やっぱり力を沢山使ったからか、眠くて瞼がなかなか開かない。
それにしても夢じゃなくて現実でも揺れてるなんておかしいわ……さっきは夢だと思ったからあまり気にしなかったのに。
私は周りの状況を確認する為に自分の手で瞼をこすろうとするも、腕がなぜか動かない。
何度動かそうとしても出来ないので徐々に頭が覚めてきて、なんとか目を開く。
すると私の目の前にはナタリア嬢が座っていて、私を抱きかかえていたのは愛する人ではなく、ヤヌシュだった。
「な、なぜ……ヤヌシュが……」
「眠り姫がお目覚めだ。ぐっすり眠っていたようだね」
動揺する私の事などお構いなしに、私が目覚めた事を嬉しそうに話してくるヤヌシュの姿が怖くなり、その腕から抜け出そうとするも、体に力が入らなくて上手く動く事が出来ない。
少し眠っただけではまだ全然回復出来ていないわ……ラディもこの中にはいないわね。
それに連れ出す時に毛布でぐるぐる巻きにされたのか、余計に身動きが取れなかった。
だから腕が動かなかったのね……暴れるだけ危険のような気がするので、ひとまず大人しくしていようと考える。
「ふん、自分の状況も分からずに眠りこけているなんて、能天気にもほどがあるわ」
私の向かいに座るナタリア嬢が皮肉たっぷりそう言ってきて、簀巻きにされている私を笑っているかのようだった。
自分が連れ出されているのに眠っていたなんて、確かに能天気と言われても仕方ないかもしれない……あまりにも疲れていたとは言え、自分の間抜けさ加減に情けなくなってきてしまう。
「口を慎むんだ。クリスは白の魔女で力を沢山使ったんだから、疲れていて当然だろ?」
「え?」
私が力を使った事をどうしてヤヌシュが知っているのだろう……あの時、ホール内には王族の皆様と私とドミニク様、フェンデルバーグ公爵と衛兵しかいなかったはず。
リドリスもいたけれど、それは後で気付いたし、ヤヌシュとナタリア嬢の姿はどこにも見当たらなかった。
それにもしヤヌシュがあの場にいれば、フェンデルバーグ公爵家の者として衛兵に連れて行かれていたはずだわ。
「僕はホールの外にいたんだけどね、衛兵が口々にクリスの事を話していたよ。君が力を使って陛下を助けた事、父上の計画が失敗した事も……」
「ヤヌシュはお父上と一緒に行動していたのではないの?」
「冗談じゃない!僕は……常に蚊帳の外さ。何もさせてもらえなかった……でも大罪を働いた公爵家の人間だから、この国で生きていく事はもう出来ないだろうな」
そう話すヤヌシュを横から複雑な気持ちで見る――――彼はこの件では何もしていないのね。
王族殺害なども全て閣下が仕組んだのでしょうけど、先王陛下や現国王陛下に手を出した一族が減刑されるはずはない。
でも自分の運命を受け入れているかのような落ち着きだわ。
「まぁ、僕はクリスが手に入ればいいんだけどね。公爵家なんていらないし」
今まで公爵家の人間としてのこだわりを持っていたはずなのに、もう心はスッキリしているというの?
向かいに座っていたナタリア嬢がヤヌシュの膝までやってきて、懇願するようにすり寄ってきた。
「ヤ、ヤヌシュ様ぁ、公爵家がどうなってもいいだなんて嘘ですわよね?私、愛人でもいいし、何でもしますから……」
ナタリア嬢はヤヌシュの腰に抱きつき、頬ずりをしながら甘えた声ですり寄ってきたけれど、次の瞬間、ヤヌシュによって向かいの座席へと蹴り飛ばされてしまう。
――――ドカッ!!――――
「ぎゃっ!!」
「ヤヌシュ!」
ヤヌシュは嫌味を言ってきたりはしたけれど、女性に暴力をふるうような事は決してなかったわ。
ナタリア嬢に向ける表情が氷のように冷たくて、一切の情を残していないようだった。
どうして?真実の愛を見つけたのではなかったの?
幼馴染の変わってしまった態度に、私は驚きを隠せずに呆然としてしまう。
何とかしてヤヌシュを落ち着かせないと……目も据わっているし、何となく嫌な予感がする――――でも毛布でぐるぐるに巻かれているのでナタリア嬢に駆け寄る事が出来ない。
私はナタリア嬢の方を見て首を振り、ヤヌシュを刺激しないでと訴えかけた。
しかし彼女は違うように受け取ったようで、唇を嚙み締めた後、ヤヌシュに対して激昂し始めたのだった。
「公爵家がなくなったら、あなたに何の価値があるというの?!その女にすっかり骨抜きにされて無様ね!!その女さえいなければ――――」
ナタリア嬢が半狂乱になりながら私の方へつかみ掛かってきたので、私は咄嗟に目をギュッと瞑ってしまう。次の瞬間……
――――パンッ!!――――
乾いた音が馬車の中に響き渡る。
ゆっくりと目を開けると、その場にヘタリ込んでいるナタリア嬢が目に入ってきた。
頬を抑えていたので、おそらくヤヌシュに頬を叩かれたのかもしれない……二度も暴力を振るわれ、さすがのナタリア嬢も呆然としていた。
「父上にも股を開く女を愛人にする趣味はないんだ。それにクリスの価値などお前には分からないよ」
私はヤヌシュの言葉に絶句する……フェンデルバーグ公爵とナタリア嬢がそういう関係だったというの?
二人の間に真実の愛などなかった事が明らかになっていく。
そしておもむろに立ち上がったヤヌシュは、ナタリア嬢の下へ近づいていった。
「ヤ、ヤヌシュ……待って」
私は酷く嫌な予感がして、ヤヌシュに声をかけた。
ヤヌシュはこちらを振り向いて見た事もない笑顔を向けてきたけれど、すぐにナタリア嬢の方へ向き直り、彼女の近くでしゃがんだ。
「クリスを連れ出す手伝いをしてくれて、ありがとう。それだけはお前に感謝するよ。でももう用はないから」
走行中の馬車の扉を慎重に開いたヤヌシュは、ナタリア嬢の腕を掴み、彼女を引きずっていく。
「え?ぃや……なに…………やめて…………ッ」
「さよならだ」
「ダメよ!ヤヌシュ!!」
私の叫び声も虚しく、開け放たれた扉に向かってナタリア嬢を放り出し、馬車から突き落としてしまったのだった。
「ギャ――ッ!!!」
「ナタリア嬢!!」
「あっはははッ!!!」
夜なので辺りは真っ暗闇……彼女が地面に打ち付けられた音と叫び声は闇の中へと消えていった。
ナタリア嬢がその後どうなったかは分からず、馬車を操っているのも誰かは分からないけれど、停まる気配もない。
その馬車内には高らかに笑うヤヌシュと私だけが残され、これからどうなるのか、不安と緊張で心臓が痛くなってくるのだった。
~・~・~・~・~
第二部は残り5話ほどで、ひとまず次はドミニクSide(二話)になります!
ナタリアがどうなったかはドミニクSideで出てきます……(^^;
そしてドミニクが邸を空けていた時のお話も出てきますので、よろしくお願いいたします~~<(_ _)>
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